転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

宝月 蓮

文字の大きさ
4 / 26

4.優秀な成績を収めたけれど……

しおりを挟む
 マリナとアルは放課後毎日図書室でレポートをまとめていた。本に書いていないことは直接教師に聞きに行くなど、レポートの完成度を向上させていた。
「後は魔獣の弱点をまとめてみるか」
 アルは分厚い本に何か情報がないか懸命に調べていた。
「ならば私は魔獣に効果がありそうな魔道具を調べるわ。と言っても、この国では魔道具はあまり使われないみたいだけど」
 後半苦笑するマリナ。
「確かにな。どうもこの国は魔法や魔力のみを重んじる傾向がある」
 アルもやや呆れ気味に苦笑した。
「それから、女神アメジスト様についても簡単にまとめるわね」
「ああ、頼む」
 こうして、マリナは女神アメジストについてもまとめていた。

 そして無事に提出日までに課題のレポートを完成させるのであった。


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


 数日後。
「皆さんが提出したレポートですが、今年は特に完成度の高いものがありました。マリナさん、アルさん。貴女達のレポートはこのクラスの中でも特に完成度が高いので、魔獣研究施設の方々にも見てもらいました。研究施設の方々も二人のレポートを褒めていましたよ」
 課題を出した授業の担当教師がクラス全員の前でマリナとアルを褒め称えた。
 マリナとアルは互いに顔を見合わせて嬉しそうに微笑んでいる。頑張った甲斐があったのだ。
 しかし、クラスメイト達の反応はあまりよくなかった。
 怒りや嫉妬を露わにする者、訝しげに二人を見る者などが多かったのだ。

 この授業が終わり、放課後になった。
 もうレポートもないので、アルと図書室へ行くことはない。
 よって放課後は自由である。
(それはそれで少し寂しいわね)
 マリナは寮へ戻る準備をするアルを見て苦笑した。
 その時、複数人の令嬢達がマリナの元へやって来た。
「マリナさん、貴女今回のレポートが高評価だったそうだけど、一体どんな手を使ったのかしら? まさか、王太子殿下達に振られたからって、先生達に媚を売ったのかしらね? 女神アメジスト様と同じ光の魔力の持ち主だから何をしても許されるわけではないのよ」
 リーダー格の令嬢が蔑むような目をマリナに向けている。彼女の取り巻き達もクスクスと悪意ある笑みだ。
 突然そう言われ、マリナは頭が真っ白になる。
(この方々は何? どうして私がそう言われなければならないの?)
 リーダー格の令嬢はドロシア・ラリマール。金髪碧眼でいかにもキツそうな顔立ちである。彼女はラリマール侯爵家の令嬢だ。
 Aクラス内でマリナを嘲笑したり悪意ある噂を流す張本人である。
「いいえ。ただ図書室で関係のある部分を調べていただけですが。それに、王太子殿下達にも私は何もしていません」
 マリナがそう言い返すと、ドロシアの目が吊り上がる。
「このわたくしに対して口答えなんて、男爵家の人間の癖に生意気よ!」
 ドロシアは感情のまま水魔法を繰り出す。
 思わず目をつぶるマリナ。しかし、一向に濡れる気配はない。
 恐る恐る目を開けると、マリナの目の前にアルがいた。
「アル!」
 どうやらマリナを庇い、ドロシアからの水魔法攻撃を受けたのだ。アルはびしょ濡れである。
「あら、何の力もない新興の男爵家の人間が庇うだなんて」
 ドロシア達はアルも嘲笑う。
「マリナは努力していました。言いがかりをつけるのはやめてください」
 アルの眼鏡の奥からのぞくオレンジの目は、冷たくドロシア達を射抜いていた。
「その目、生意気ね! あんたは女神アメジスト様と同じ光の魔力を持つだけで先生方から優遇されるその女と組んだだけの癖に! 何の取り柄もない癖にレポートを認められるだなんてありえないわ! きっと努力せず贔屓されるその女にただ乗りしただけね!」
 それは明らかにアルに対する侮辱だった。
「そんな言い方する必要ありますか!?」
 マリナは薄紫の目をキッと鋭くし、ドロシア達を睨む。
「これは私達が努力した結果です。彼は今回の課題を細かい部分まで調べていました。彼の努力は何より私が知っています。それを何もせずズルをして勝ち取ったものだと貴女達に言われる筋合いはありません!」
 自分のことよりも、アルを侮辱されたことにより怒りを感じていたマリナである。
「このわたくしにそんな態度を取るなんて……!」
 ワナワナと怒りで震えているドロシア。
「貴女達、覚悟しておきなさい!」
 切り裂くような鋭い口調でそう言い捨て、ドロシア達は立ち去るのであった。

「アル、大丈夫? 私のせいでごめんなさい」
 マリナはびしょ濡れのアルに対し、申し訳なさそうな表情だ。
「いや、俺はどうってことない。マリナこそ、大丈夫か?」
 眼鏡の奥からのぞくオレンジの目は、本気でマリナを案じているようだった。
「私は攻撃を受けたわけじゃないから……。それより、小さなタオルしかないけれどこれで体を拭いて」
 マリナはアルにタオルを渡す。
「ありがとう、マリナ。助かる」
 アルはフッと笑い、マリナから受け取ったタオルで濡れた髪や体を拭く。
 教室に残っていたクラスメイト達はドロシアの所業を咎めることなく、むしろマリナ達に対してざまあみろと言いたげであった。
「それにしても、Aクラスは優秀らしいが、人間性に問題ある奴が多いな」
 アルは軽蔑した笑みで周囲を見た。
「まあ……そうだけど……」
 マリナは憂いげにため息をついた。
(明日から平和に過ごせるかしら?)


ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ ʚ♡ɞ


 翌日。
 教室のマリナの机には虫の死骸やゴミが入れられていた。
 それを見たマリナはやっぱりとため息をつく。案の定の展開である。
 ドロシア達はそんなマリナを見てクスクスと笑っていた。
(侯爵令嬢なのに、やることが小さいわね)
 前世の漫画やテレビドラマでよく見た典型的ないじめである。
「あ、もう一人の方も来たわよ」
 ドロシアが嘲笑しながら教室入り口に目を向ける。
 アルがやって来たのだ。
 アルの机にはドロドロと粘液を流すカエルの死体が置かれている。
 アルは一瞬だけ顔をしかめ、自身の魔力でカエルの死体を燃やして灰にした。
 アルは炎の魔力を持っているようだ。
「おはよう。うわ、マリナの席も酷いな……」
 アルは自分の机の処理が終わるとマリナの元へ来てくれた。
「おはよう、アル。虫の死骸だらけで嫌になっちゃうわ」
 ため息をつくマリナ。
「今俺が何とかする」
 アルは先ほどと同じようにマリナの席の虫の死骸を炎の魔力で灰にした。
(……カメラがあれば証拠として提出できるのに)
 マリナはこの世界の不便さを恨んだ。
「ありがとう、アル。多分これから私達、持ち物も狙われると思うの。教科書やノート、大切なものは教室には置かずに常に自分で管理する必要があるわ」
 前世の漫画やテレビドラマでおこなわれたいじめシーンなどを思い出し、自身の荷物をギュッと持つマリナ。
「そうなのか……。分かった、ありがとう。俺もそうする」
 アルもマリナと同じように、自分の荷物を常に持つようにした。

 レポートは自分達の努力で優秀な成績を収めたのだが、クラス内での立場は完全に悪くなったマリナとアルであった。
 中にはマリナとアルが不正をしたと訴える生徒もいた。しかし幸い学園の教師達は成績に関しては身分関係なく公平だったので、生徒達の訴えは退けられたようだ。
 二人にとってそれだけがせめてもの救いだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...