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二章・色々な日々
怒っておられる
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私は前世の友人の兄と喫茶店で話をしている。
前世の友人の兄は、今世では勇者になった。
なんかお昼ご飯をおごってくれるって。
悪役令嬢の彼女とは、ムーンライトキャッスルの一件以来 会っていない。
なんせ裏切ったから気まずくて。
でも給料日が まだ十日も先なのに、お金がなくて食費がヤバいことになっている。
だから、お兄さんが奢ってくれるっていうのに飛びついたんだけど、なんていうか、お兄さんの笑顔が不自然なまでに福笑いなんだけど。
その福笑いで お兄さんは、
「いやー、久しぶりでござるな」
私も とりあえず笑顔で挨拶を返す。
「お久しぶりですね、お兄さん」
「マイシスターだけではなく、貴殿も転生されていたとは。拙者、驚きでござるよ」
「私もです。彼女だけじゃなく、お兄さんまで転生されていたなんて。なんだか縁を感じますね」
「本当でござるなー。
そんな縁のある人間を、お食事券のために売るような人間もいるわけでござるから、世の中 わからないでござるな」
怒っておられる!
なんか お兄さんの福笑いが不自然だと思ったら、やっぱり怒ってたよ。
そりゃ そうだよね。
ご飯のために、お兄さんを賢姫さまに差し出しちゃったんだから。
お兄さん、血走った目で顔を私の眼前まで迫らせて、
「いったい どういうことなのでござろうな? 貴殿はあの一件のとき賢姫殿についたということでござるが、そのあたりのこと きっちり説明して欲しいでござるよ。でないと 拙者、マイシスターの友人に なにをしてしまうか わからぬゆえ」
やばい。
お兄さん、本気で怒っておられる。
なんとかごまかさないと。
でも、なんてごまかせば?
ハッ! そうだ!
「そ、それは! 彼女のお兄さんへの愛を確かめるためだったんです!」
「マイシスターの愛を確かめるため?」
疑問のお兄さんに 私は畳みかける。
「あの子は なんだかんだ言いながら お兄さんを賢姫さまから助けに来ました!
つまり ホントは お兄さんのことを愛していると言うことなのですよ!」
衝撃を受けたようにお兄さんは、
「なんと! そうでござったか!」
「私はそのことを確かめるために一芝居打ったわけでして。あのケチくさい女からご飯を食べさせてもらえなくなってもなんです」
「ご飯なら拙者に言ってくだされ! いくらでも お腹いっぱい食べさせて進ぜよう!」
「ありがとうございます!」
よかった。
ごまかせたようだ。
と、思いきや。
「……ただし……」
なんかお兄さん、変な感じの声で付け加えてきた。
「これからは拙者の間者として働いて貰うでござるよ」
信じておられていない!
私の渾身のごまかしを信じるフリして、逃げられないようにした。
お兄さんのお許しを得るには、もうお兄さんのスパイをするしかない。
「これからは拙者の頼むことに成功したら、報酬として お腹いっぱいご飯を食べさせてあげるでござる」
そして お兄さんは不自然なまでの福笑いで、
「では、早速 マイシスターの様子を偵察しに行ってきてくだされ。頼んだでござるよ、マイフレンド」
と、私の両肩に両手を不自然に力強く乗せてきたのだった。
「……わかりました」
私はとりあえず悪役令嬢である友人のところに様子を伺いに来た。
「実はぁ、お兄さんの件で謝りに来たんだけどぉ」
彼女は不自然なまでにさっぱりとした感じの笑顔で、
「あのことだったら 気にしなくていいのよ。あんた 薄給で、いつも ひもじい思いをしてたもんね。だからご飯の誘惑にのせられちゃったんでしょ。人間 誰でも間違いはあるわ」
「わあぁ、ホントぉ。じゃあ、クッキー欲しいなぁ、なんてぇ」
「良いわよ。はい」
そして悪役令嬢の彼女はクッキーを指でつまむと、
「ペッ」
つばを吐きかけ、土の地面の私の足下に放り投げた。
「……え? あの?」
悪役令嬢の彼女は、不自然なまでに悪役令嬢らしい笑顔で、
「どうしましたの? クッキーが食べたいのでしょう。つばが付いて土の上に落ちたそのクッキーを拾ってお食べになったらいかが。オホホホ」
やっぱり怒っておられる!
そりゃ そうよね。
実の兄が豚奴隷にされそうになったのを、止めるどころか味方しちゃったんだから、怒るに決まってるよね。
さっさと撤退しよう。
「あ、あの、私 急用 思い出しちゃった。帰らないと」
「お待ちなさい。そのクッキーを食べてからにしてくださる」
「え?」
「食べ物を粗末にしてはいけないでしょう。貴女、ものすごくお腹すかせてるのですし。
食べなかったら、わたくし 公爵令嬢の権力 使って、貴女になにするかわからないのですけど、どういたします? オホホホ」
ほ、本気で怒っておられる。
「……食べさせていただきます」
館を出た後、私はドブにゲロった。
「と いうわけで、助けてください。っていうか ご飯 食べさせてください」
私は中隊長さんに土下座する。
「なにを言い出すかと思えば、貴様のしたことを考えれば当然だろう。
彼女を脅迫したにもかかわらず、彼女の情けにすがって飯にありついていたというのに、簡単に裏切ったのだからな。
貴様のような女など誰が助けるものか!」
そう答えるのは予想済み。
なんの勝算もなく中隊長さんを頼りに来たわけじゃない。
「……それで いいんですか?」
私の質問を理解できないのだろう、中隊長さんは戸惑ったように、
「なにがだ?」
「わたしが このまま 勇者さんのスパイをすると、勇者さんと彼女が結ばれる確率が高くなっちゃいますよ」
「きっ、貴様!」
中隊長さんは私が勇者のスパイをする危険性を理解したようだ。
さあ、ここが執念場だ。
「取引しましょう」
「取引だと?」
「私は勇者さんのスパイをします。ですが 裏では貴方のスパイをします。
いわゆるダブルスパイ。
勇者さんのスパイをしている振りをして、ホントは中隊長さんのスパイをする。
そうなれば、勇者の裏をかき、愛しの彼女を射止める確率もアップ」
「くっ!」
中隊長さん、心が揺らいでいる感じ。
「私にご飯を食べさせてくれるだけで、愛しの彼女が……うふふふ」
私のとどめに、しかし中隊長さんは誘惑を振り切るように首をブンブンと振ると、
「ええい! 黙れ! 貴様のような女の力など求めん! 俺は自分の力で彼女を手に入れてみせる!」
結局ダメだった。
どうしよう?
お腹すいた。
続く……
前世の友人の兄は、今世では勇者になった。
なんかお昼ご飯をおごってくれるって。
悪役令嬢の彼女とは、ムーンライトキャッスルの一件以来 会っていない。
なんせ裏切ったから気まずくて。
でも給料日が まだ十日も先なのに、お金がなくて食費がヤバいことになっている。
だから、お兄さんが奢ってくれるっていうのに飛びついたんだけど、なんていうか、お兄さんの笑顔が不自然なまでに福笑いなんだけど。
その福笑いで お兄さんは、
「いやー、久しぶりでござるな」
私も とりあえず笑顔で挨拶を返す。
「お久しぶりですね、お兄さん」
「マイシスターだけではなく、貴殿も転生されていたとは。拙者、驚きでござるよ」
「私もです。彼女だけじゃなく、お兄さんまで転生されていたなんて。なんだか縁を感じますね」
「本当でござるなー。
そんな縁のある人間を、お食事券のために売るような人間もいるわけでござるから、世の中 わからないでござるな」
怒っておられる!
なんか お兄さんの福笑いが不自然だと思ったら、やっぱり怒ってたよ。
そりゃ そうだよね。
ご飯のために、お兄さんを賢姫さまに差し出しちゃったんだから。
お兄さん、血走った目で顔を私の眼前まで迫らせて、
「いったい どういうことなのでござろうな? 貴殿はあの一件のとき賢姫殿についたということでござるが、そのあたりのこと きっちり説明して欲しいでござるよ。でないと 拙者、マイシスターの友人に なにをしてしまうか わからぬゆえ」
やばい。
お兄さん、本気で怒っておられる。
なんとかごまかさないと。
でも、なんてごまかせば?
ハッ! そうだ!
「そ、それは! 彼女のお兄さんへの愛を確かめるためだったんです!」
「マイシスターの愛を確かめるため?」
疑問のお兄さんに 私は畳みかける。
「あの子は なんだかんだ言いながら お兄さんを賢姫さまから助けに来ました!
つまり ホントは お兄さんのことを愛していると言うことなのですよ!」
衝撃を受けたようにお兄さんは、
「なんと! そうでござったか!」
「私はそのことを確かめるために一芝居打ったわけでして。あのケチくさい女からご飯を食べさせてもらえなくなってもなんです」
「ご飯なら拙者に言ってくだされ! いくらでも お腹いっぱい食べさせて進ぜよう!」
「ありがとうございます!」
よかった。
ごまかせたようだ。
と、思いきや。
「……ただし……」
なんかお兄さん、変な感じの声で付け加えてきた。
「これからは拙者の間者として働いて貰うでござるよ」
信じておられていない!
私の渾身のごまかしを信じるフリして、逃げられないようにした。
お兄さんのお許しを得るには、もうお兄さんのスパイをするしかない。
「これからは拙者の頼むことに成功したら、報酬として お腹いっぱいご飯を食べさせてあげるでござる」
そして お兄さんは不自然なまでの福笑いで、
「では、早速 マイシスターの様子を偵察しに行ってきてくだされ。頼んだでござるよ、マイフレンド」
と、私の両肩に両手を不自然に力強く乗せてきたのだった。
「……わかりました」
私はとりあえず悪役令嬢である友人のところに様子を伺いに来た。
「実はぁ、お兄さんの件で謝りに来たんだけどぉ」
彼女は不自然なまでにさっぱりとした感じの笑顔で、
「あのことだったら 気にしなくていいのよ。あんた 薄給で、いつも ひもじい思いをしてたもんね。だからご飯の誘惑にのせられちゃったんでしょ。人間 誰でも間違いはあるわ」
「わあぁ、ホントぉ。じゃあ、クッキー欲しいなぁ、なんてぇ」
「良いわよ。はい」
そして悪役令嬢の彼女はクッキーを指でつまむと、
「ペッ」
つばを吐きかけ、土の地面の私の足下に放り投げた。
「……え? あの?」
悪役令嬢の彼女は、不自然なまでに悪役令嬢らしい笑顔で、
「どうしましたの? クッキーが食べたいのでしょう。つばが付いて土の上に落ちたそのクッキーを拾ってお食べになったらいかが。オホホホ」
やっぱり怒っておられる!
そりゃ そうよね。
実の兄が豚奴隷にされそうになったのを、止めるどころか味方しちゃったんだから、怒るに決まってるよね。
さっさと撤退しよう。
「あ、あの、私 急用 思い出しちゃった。帰らないと」
「お待ちなさい。そのクッキーを食べてからにしてくださる」
「え?」
「食べ物を粗末にしてはいけないでしょう。貴女、ものすごくお腹すかせてるのですし。
食べなかったら、わたくし 公爵令嬢の権力 使って、貴女になにするかわからないのですけど、どういたします? オホホホ」
ほ、本気で怒っておられる。
「……食べさせていただきます」
館を出た後、私はドブにゲロった。
「と いうわけで、助けてください。っていうか ご飯 食べさせてください」
私は中隊長さんに土下座する。
「なにを言い出すかと思えば、貴様のしたことを考えれば当然だろう。
彼女を脅迫したにもかかわらず、彼女の情けにすがって飯にありついていたというのに、簡単に裏切ったのだからな。
貴様のような女など誰が助けるものか!」
そう答えるのは予想済み。
なんの勝算もなく中隊長さんを頼りに来たわけじゃない。
「……それで いいんですか?」
私の質問を理解できないのだろう、中隊長さんは戸惑ったように、
「なにがだ?」
「わたしが このまま 勇者さんのスパイをすると、勇者さんと彼女が結ばれる確率が高くなっちゃいますよ」
「きっ、貴様!」
中隊長さんは私が勇者のスパイをする危険性を理解したようだ。
さあ、ここが執念場だ。
「取引しましょう」
「取引だと?」
「私は勇者さんのスパイをします。ですが 裏では貴方のスパイをします。
いわゆるダブルスパイ。
勇者さんのスパイをしている振りをして、ホントは中隊長さんのスパイをする。
そうなれば、勇者の裏をかき、愛しの彼女を射止める確率もアップ」
「くっ!」
中隊長さん、心が揺らいでいる感じ。
「私にご飯を食べさせてくれるだけで、愛しの彼女が……うふふふ」
私のとどめに、しかし中隊長さんは誘惑を振り切るように首をブンブンと振ると、
「ええい! 黙れ! 貴様のような女の力など求めん! 俺は自分の力で彼女を手に入れてみせる!」
結局ダメだった。
どうしよう?
お腹すいた。
続く……
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