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三章・いきなりですが冒険編
怖じ気づきやがった
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陣営に戻った精霊将軍は荒れていた。
「おのれ! まんまと逃げられてしまうとは! 不覚! 私としたことが油断してしまったか!? 魔王殿になんと報告すれば良いのだ?! 大魔王様にも顔を出すことができぬ!」
そこに妖術将軍が現れた。
「フヒヒヒ。荒れておるな、精霊将軍よ。無理もない。聖女に勇者と竜戦士が付いていたとは言え、一杯食わされたとあっては、将軍の名折れじゃからのう」
「貴様は妖術将軍」
「久しぶりじゃな、精霊将軍」
精霊将軍は妖術将軍が嫌いだった。
妖術将軍は姑息な手や卑怯な手を多用する。
武人肌の精霊将軍とは相容れないのだ。
「私が聖女たちと闘っているのを見ていたのか」
「まあ、そんなところじゃ。おまえさんになにかあったら助けようと思ってな」
「貴様が私を助けるだと?」
妖術将軍に仲間意識など皆無だというのは、将軍たち共通の認識だった。
その妖術将軍が手助けをするとは、どういった風の吹き回しか。
「そうじゃ、ちょっとした手助けをな。フヒヒヒ。おまえさんの勝利を確実とする作戦がある。
人質じゃ」
「人質だと」
そして妖術将軍はヒロインちゃんを出した。
ヒロインちゃんの眼はうつろで、意思が感じられなかった。
精霊将軍は妖術将軍に険しい顔で聞く。
「その者は?」
「聖女どもの友人じゃ。催眠術で洗脳してある。こやつは わしの言いなりじゃ。
次に聖女どもと戦うとき、こやつを人質に使うのじゃ。優しい聖女どもには、大切な友人には手出しできまい。
しかし、催眠状態のこやつは、聖女を攻撃することができる。まあ、戦力としてはハッキリ言ってたいしたことはないが、しかし 聖女どもが大きく動揺することは間違いないじゃろう。その隙を突けば、おまえさんなら造作もなく聖女どもを仕留められるじゃろうて。
どうじゃ? わしの策を使ってみんか?」
精霊将軍はヒロインちゃんをジッと見つめながら、妖術将軍の卑怯な策を聞いていた。
やがて出た答えは、
「わかった。背に腹は代えられん。おまえの策を使うとしよう」
精霊将軍は意外とアッサリと承諾したのだった。
妖術将軍の予想では、精霊将軍は初めは憤慨して拒否すると考えており、説得するための台詞も考えていたのだが、思いのほか簡単に承諾したので、妖術将軍は返って虚を突かれてしまった。
しかし、余計な知力を使わずにすんだのだから、まあ よいか、と考える。
「そ、そうか。まあ、そうじゃろうな。このままでは大魔王様の前に顔を出すことができぬのじゃからな。
フヒヒヒ」
妖術将軍は内心 ほくそ笑む。
聖女を直接 始末するのは精霊将軍に譲るとしよう。
しかし、その裏には自分の策があったからこそ。
その功績を大魔王様に認めて貰うのだ。
そして、もし精霊将軍が隙を見せれば始末して、聖女一行を倒した手柄を奪うことも考えていた。
大魔王様には、精霊将軍は聖女一行と相打ちになったとでも報告しておけば良い。
精霊将軍は人質作戦をアッサリ承諾したことから、相当 切羽詰まっておるようだ。
案外 簡単に全てわしの手柄にすることができるやもしれぬ。
アヒャヒャヒャヒャヒャ!
精霊将軍と妖術将軍が そんな話をしていた頃、わたしたちは村で姫騎士さんと話しをしていた。
冒険者組合からの報告で、西の王国が大魔王軍の侵攻を受ける可能性が高いとの説明を、姫騎士さんは厳しい表情で聞いていた。
姫騎士さんを自宅に泊めている、元女騎士隊長さんが、
「そうかい。やっぱり大魔王軍が……それに将軍の一人があんたたちを襲撃したってこともある。大魔王軍が近々 城を襲撃するのは間違いないだろうね」
姫騎士さんは元女騎士隊長さんに、
「隊長、私はこのまま 安全な村にいて良いのだろうか?
私が王女でありながら、貴女から剣を学んだのは、守られているだけの自分が嫌だったからだ。
みんなが危険な戦いをしているのに、自分だけ安全なところで高みの見物をしているようで、それが嫌だったのだ。
私は貴女のように、みんなと共に戦いたかった。
だが、大魔王軍が攻めてくるという肝心な時に、私は父から避難を命じられた。
聖女であるこの者は、私と同じ女なのに、世界を救うために戦っている。
そして戦神の祝福を受けた戦乙女である自分は、戦える力を持っている。
なのに、ここで のうのうと暮らしていて良いのだろうか?」
悩んでいる姫騎士さんの背中を、元女騎士隊長が バンッ と叩いた。
「姫騎士さま! 自分のやりたいようにやりなさい! やらずに後悔するより、やって後悔する。それが いい女ってもんだよ!」
「隊長……」
姫騎士さんは吹っ切れたような表情になり、わたしたちに言った。
「わたしは王城に戻る。おまえたちと一緒に王城へ行くぞ!」
中隊長さんと童貞オタク兄貴とオッサンは歓迎する。
「うむ、戦乙女が仲間になるのは心強い」
「頼もしい仲間が加わったでござるな」
「死ぬ確率が減ったです。うまくいけば この人に筆下ろししてもらえるかもです」
姫騎士さんはオッサンにボディブローを入れた。
さて、みんなが喜んでいる中、わたしは沈黙していた。
っていうか嫌な脂汗がだらだら出ていた。
姫騎士さんって、なんか鋭いって言うか、わたしが嘘つきだって最初に見破ったのよね。
しかも精霊将軍との戦いから、この村に来るまでの間に、わたしにこっそりと言ってきたの。
「おまえがいったい なんの嘘をついているのかは知らないが、旅の仲間に嘘をつくのはよくないぞ。思い切って話してみろ。きっとわかってくれる。旅の仲間を信じろ」
と 真実を告白するよう促してきたのだ。
わたしは とにかく、
「大切な旅の仲間だからこそ、逆に怖いのです。だから この旅で、わたしが真実を話せる勇気を持てるようになりたいのです」
と それっぽいことを言ってごまかした。
「わかった。おまえが勇気を持てるよう、応援しよう」
と いう やりとりがありまして。
つまり姫騎士さんが旅に同行すると、嘘がバレる危険が大きくなるわけでして。
つまりヤバいわけでして。
でも、断ることもできないし。
戦乙女っていう、大きな戦力が仲間に入るのを断ったら、絶対 不審に思われてしまう。
危険が大きくなるのを承知で受け入れるしかなかった。
翌日、わたしたちは村を出発し、三日後の昼頃、お城が見えてきた。
そこに、上空に映像が映し出された。
玉座の間で、西の王国の王さまや王妃さま、大臣たちが縛られていて、精霊将軍が剣を突きつけている映像。
精霊将軍の隣には妖術将軍の姿。
妖術将軍は、
「西の王国の兵士どもに告ぐ。わしらの奇襲攻撃で王や大臣どもは捕らえた。こやつらの命が惜しければ降伏するのじゃ。
しかし、王どもを解放するチャンスを与えよう。
それは、ある人物を連れて来る事。聖女と その一行じゃ。そやつらを差し出せば王どもを解放しよう。
わかったか!? ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」
これは わたしたちが、西の王国の城に向かっているのをわかった上で、おびき出すために行っているのは明らかだ。
なにか罠があるに違いない。
このまま 城に向かったら、わたしたちは確実にやられてしまう。
作戦を考えないと。
しかし姫騎士さんが、
「父上が危ない! 助けに行かねば!」
即行で城に向かって走り出した。
「ちょーっ! 作戦もなしに!? あー! もう! しかたありません! わたしたちも行きましょう!」
そして中隊長さんと童貞オタク兄貴も走り出した。
その後をわたしは走ろうとして、しかし後ろの気配で足を止めた。
正確にはわたしの後ろに気配がなかったのだ。
オッサンの走る足音が。
怪訝に振り返ると、オッサンは十メートルほど後ろで突っ立ったままだった。
わたしはオッサンのところに急いで戻って、
「なにをしているのですか? 早く行きますよ。姫騎士さん一人じゃ勝ち目がありません」
だけどオッサンはブルブル震えて動かないでいた。
「どうしたのですか? まさか……」
「……その ですね、僕はですね、ここで旅から外れさせていただきますです」
怖じ気づきやがった。
「ちょっとー! なに言っているんですか!? 今が見せ場ですよ! みんなの前で格好いい姿を見せるところじゃありませんか!
ほら! 上空を見てください! 映像が流れているでしょう! オッサンが魔法で活躍すれば それが上空に映像で流れるんですよ! そうすれば それを見た女どもが みんなオッサンの童貞を欲しがりますよ! ビッグチャンスじゃないですか!」
しかしオッサンは情けない か細い声で、
「あのですね、大魔王軍の将軍がですね、二人も居るんです。しかもですね、将軍でもですね、あんなに強いんだったらですね、魔王や大魔王はですね、もっと強いわけです。そんなのに勝てるわけがありませんです。
絶対 勝てないとわかっている相手と戦ってもですね、なんの得にもならないです」
このオッサンなに言ってるのよ!?
「いやいやいや! あなた童貞卒業するために大魔王を倒すんでしょう!
前に精霊将軍と戦った時 オッサンの魔法が役に立ったじゃないですか! オッサンの魔法が必要なんですよ!
ね! 大丈夫! みんなで力を合わせれば倒せますって!」
「無理ですよ。あの精霊将軍も倒すことできませんです。姫騎士さまも、勇者さまも中隊長さんも、みんな殺されるだけです。無駄死にするんです。僕は殺されたくないです。死にたくないです。だから逃げます」
オッサンの眼は本気だった。
「……あなた、ちょっと怖いからって逃げるのですか? 童貞卒業したくないのですか?」
「童貞卒業よりもですね、命の方が大切です。大丈夫です。童貞卒業は他の方法を考えますですから」
ドムッ!
わたしはオッサンのメタボの腹を本気で殴りつけた。
「イ、イタイです」
わたしはオッサンの胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「あなたはそうやってすぐに逃げてばかりいるから、いつまでたっても童貞なんです」
「な、なにを言っているんですか? 勇者さまや中隊長さんも童貞じゃないですか」
「兄貴も中隊長さんも、わたしに童貞を受け取って欲しくて戦っています。逃げたりなんかしていません。逃げてばかりの貴方と一緒にしないでください。
女は強い男に惹かれます。イケメンだとかメタボだとか、そんな外見なんて関係ない。戦いから逃げたりしない、目の前の困難や壁から逃げたりしない、いつだって挑戦し続ける、強い男に惚れるんです。
あなたのような逃げてばかりの情けない男は一生童貞のままです。
それが嫌なら、逃げずに戦って見せなさい!」
そして わたしは、身を翻してみんなの後を追いかけた。
悪友はわたしの胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「どんどんシリアスになってるんだけど、この話 ホントーにオチが付くんでしょうね?」
「だ、大丈夫……だと 思う……たぶん……」
大丈夫だろうか?
「おのれ! まんまと逃げられてしまうとは! 不覚! 私としたことが油断してしまったか!? 魔王殿になんと報告すれば良いのだ?! 大魔王様にも顔を出すことができぬ!」
そこに妖術将軍が現れた。
「フヒヒヒ。荒れておるな、精霊将軍よ。無理もない。聖女に勇者と竜戦士が付いていたとは言え、一杯食わされたとあっては、将軍の名折れじゃからのう」
「貴様は妖術将軍」
「久しぶりじゃな、精霊将軍」
精霊将軍は妖術将軍が嫌いだった。
妖術将軍は姑息な手や卑怯な手を多用する。
武人肌の精霊将軍とは相容れないのだ。
「私が聖女たちと闘っているのを見ていたのか」
「まあ、そんなところじゃ。おまえさんになにかあったら助けようと思ってな」
「貴様が私を助けるだと?」
妖術将軍に仲間意識など皆無だというのは、将軍たち共通の認識だった。
その妖術将軍が手助けをするとは、どういった風の吹き回しか。
「そうじゃ、ちょっとした手助けをな。フヒヒヒ。おまえさんの勝利を確実とする作戦がある。
人質じゃ」
「人質だと」
そして妖術将軍はヒロインちゃんを出した。
ヒロインちゃんの眼はうつろで、意思が感じられなかった。
精霊将軍は妖術将軍に険しい顔で聞く。
「その者は?」
「聖女どもの友人じゃ。催眠術で洗脳してある。こやつは わしの言いなりじゃ。
次に聖女どもと戦うとき、こやつを人質に使うのじゃ。優しい聖女どもには、大切な友人には手出しできまい。
しかし、催眠状態のこやつは、聖女を攻撃することができる。まあ、戦力としてはハッキリ言ってたいしたことはないが、しかし 聖女どもが大きく動揺することは間違いないじゃろう。その隙を突けば、おまえさんなら造作もなく聖女どもを仕留められるじゃろうて。
どうじゃ? わしの策を使ってみんか?」
精霊将軍はヒロインちゃんをジッと見つめながら、妖術将軍の卑怯な策を聞いていた。
やがて出た答えは、
「わかった。背に腹は代えられん。おまえの策を使うとしよう」
精霊将軍は意外とアッサリと承諾したのだった。
妖術将軍の予想では、精霊将軍は初めは憤慨して拒否すると考えており、説得するための台詞も考えていたのだが、思いのほか簡単に承諾したので、妖術将軍は返って虚を突かれてしまった。
しかし、余計な知力を使わずにすんだのだから、まあ よいか、と考える。
「そ、そうか。まあ、そうじゃろうな。このままでは大魔王様の前に顔を出すことができぬのじゃからな。
フヒヒヒ」
妖術将軍は内心 ほくそ笑む。
聖女を直接 始末するのは精霊将軍に譲るとしよう。
しかし、その裏には自分の策があったからこそ。
その功績を大魔王様に認めて貰うのだ。
そして、もし精霊将軍が隙を見せれば始末して、聖女一行を倒した手柄を奪うことも考えていた。
大魔王様には、精霊将軍は聖女一行と相打ちになったとでも報告しておけば良い。
精霊将軍は人質作戦をアッサリ承諾したことから、相当 切羽詰まっておるようだ。
案外 簡単に全てわしの手柄にすることができるやもしれぬ。
アヒャヒャヒャヒャヒャ!
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冒険者組合からの報告で、西の王国が大魔王軍の侵攻を受ける可能性が高いとの説明を、姫騎士さんは厳しい表情で聞いていた。
姫騎士さんを自宅に泊めている、元女騎士隊長さんが、
「そうかい。やっぱり大魔王軍が……それに将軍の一人があんたたちを襲撃したってこともある。大魔王軍が近々 城を襲撃するのは間違いないだろうね」
姫騎士さんは元女騎士隊長さんに、
「隊長、私はこのまま 安全な村にいて良いのだろうか?
私が王女でありながら、貴女から剣を学んだのは、守られているだけの自分が嫌だったからだ。
みんなが危険な戦いをしているのに、自分だけ安全なところで高みの見物をしているようで、それが嫌だったのだ。
私は貴女のように、みんなと共に戦いたかった。
だが、大魔王軍が攻めてくるという肝心な時に、私は父から避難を命じられた。
聖女であるこの者は、私と同じ女なのに、世界を救うために戦っている。
そして戦神の祝福を受けた戦乙女である自分は、戦える力を持っている。
なのに、ここで のうのうと暮らしていて良いのだろうか?」
悩んでいる姫騎士さんの背中を、元女騎士隊長が バンッ と叩いた。
「姫騎士さま! 自分のやりたいようにやりなさい! やらずに後悔するより、やって後悔する。それが いい女ってもんだよ!」
「隊長……」
姫騎士さんは吹っ切れたような表情になり、わたしたちに言った。
「わたしは王城に戻る。おまえたちと一緒に王城へ行くぞ!」
中隊長さんと童貞オタク兄貴とオッサンは歓迎する。
「うむ、戦乙女が仲間になるのは心強い」
「頼もしい仲間が加わったでござるな」
「死ぬ確率が減ったです。うまくいけば この人に筆下ろししてもらえるかもです」
姫騎士さんはオッサンにボディブローを入れた。
さて、みんなが喜んでいる中、わたしは沈黙していた。
っていうか嫌な脂汗がだらだら出ていた。
姫騎士さんって、なんか鋭いって言うか、わたしが嘘つきだって最初に見破ったのよね。
しかも精霊将軍との戦いから、この村に来るまでの間に、わたしにこっそりと言ってきたの。
「おまえがいったい なんの嘘をついているのかは知らないが、旅の仲間に嘘をつくのはよくないぞ。思い切って話してみろ。きっとわかってくれる。旅の仲間を信じろ」
と 真実を告白するよう促してきたのだ。
わたしは とにかく、
「大切な旅の仲間だからこそ、逆に怖いのです。だから この旅で、わたしが真実を話せる勇気を持てるようになりたいのです」
と それっぽいことを言ってごまかした。
「わかった。おまえが勇気を持てるよう、応援しよう」
と いう やりとりがありまして。
つまり姫騎士さんが旅に同行すると、嘘がバレる危険が大きくなるわけでして。
つまりヤバいわけでして。
でも、断ることもできないし。
戦乙女っていう、大きな戦力が仲間に入るのを断ったら、絶対 不審に思われてしまう。
危険が大きくなるのを承知で受け入れるしかなかった。
翌日、わたしたちは村を出発し、三日後の昼頃、お城が見えてきた。
そこに、上空に映像が映し出された。
玉座の間で、西の王国の王さまや王妃さま、大臣たちが縛られていて、精霊将軍が剣を突きつけている映像。
精霊将軍の隣には妖術将軍の姿。
妖術将軍は、
「西の王国の兵士どもに告ぐ。わしらの奇襲攻撃で王や大臣どもは捕らえた。こやつらの命が惜しければ降伏するのじゃ。
しかし、王どもを解放するチャンスを与えよう。
それは、ある人物を連れて来る事。聖女と その一行じゃ。そやつらを差し出せば王どもを解放しよう。
わかったか!? ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」
これは わたしたちが、西の王国の城に向かっているのをわかった上で、おびき出すために行っているのは明らかだ。
なにか罠があるに違いない。
このまま 城に向かったら、わたしたちは確実にやられてしまう。
作戦を考えないと。
しかし姫騎士さんが、
「父上が危ない! 助けに行かねば!」
即行で城に向かって走り出した。
「ちょーっ! 作戦もなしに!? あー! もう! しかたありません! わたしたちも行きましょう!」
そして中隊長さんと童貞オタク兄貴も走り出した。
その後をわたしは走ろうとして、しかし後ろの気配で足を止めた。
正確にはわたしの後ろに気配がなかったのだ。
オッサンの走る足音が。
怪訝に振り返ると、オッサンは十メートルほど後ろで突っ立ったままだった。
わたしはオッサンのところに急いで戻って、
「なにをしているのですか? 早く行きますよ。姫騎士さん一人じゃ勝ち目がありません」
だけどオッサンはブルブル震えて動かないでいた。
「どうしたのですか? まさか……」
「……その ですね、僕はですね、ここで旅から外れさせていただきますです」
怖じ気づきやがった。
「ちょっとー! なに言っているんですか!? 今が見せ場ですよ! みんなの前で格好いい姿を見せるところじゃありませんか!
ほら! 上空を見てください! 映像が流れているでしょう! オッサンが魔法で活躍すれば それが上空に映像で流れるんですよ! そうすれば それを見た女どもが みんなオッサンの童貞を欲しがりますよ! ビッグチャンスじゃないですか!」
しかしオッサンは情けない か細い声で、
「あのですね、大魔王軍の将軍がですね、二人も居るんです。しかもですね、将軍でもですね、あんなに強いんだったらですね、魔王や大魔王はですね、もっと強いわけです。そんなのに勝てるわけがありませんです。
絶対 勝てないとわかっている相手と戦ってもですね、なんの得にもならないです」
このオッサンなに言ってるのよ!?
「いやいやいや! あなた童貞卒業するために大魔王を倒すんでしょう!
前に精霊将軍と戦った時 オッサンの魔法が役に立ったじゃないですか! オッサンの魔法が必要なんですよ!
ね! 大丈夫! みんなで力を合わせれば倒せますって!」
「無理ですよ。あの精霊将軍も倒すことできませんです。姫騎士さまも、勇者さまも中隊長さんも、みんな殺されるだけです。無駄死にするんです。僕は殺されたくないです。死にたくないです。だから逃げます」
オッサンの眼は本気だった。
「……あなた、ちょっと怖いからって逃げるのですか? 童貞卒業したくないのですか?」
「童貞卒業よりもですね、命の方が大切です。大丈夫です。童貞卒業は他の方法を考えますですから」
ドムッ!
わたしはオッサンのメタボの腹を本気で殴りつけた。
「イ、イタイです」
わたしはオッサンの胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「あなたはそうやってすぐに逃げてばかりいるから、いつまでたっても童貞なんです」
「な、なにを言っているんですか? 勇者さまや中隊長さんも童貞じゃないですか」
「兄貴も中隊長さんも、わたしに童貞を受け取って欲しくて戦っています。逃げたりなんかしていません。逃げてばかりの貴方と一緒にしないでください。
女は強い男に惹かれます。イケメンだとかメタボだとか、そんな外見なんて関係ない。戦いから逃げたりしない、目の前の困難や壁から逃げたりしない、いつだって挑戦し続ける、強い男に惚れるんです。
あなたのような逃げてばかりの情けない男は一生童貞のままです。
それが嫌なら、逃げずに戦って見せなさい!」
そして わたしは、身を翻してみんなの後を追いかけた。
悪友はわたしの胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「どんどんシリアスになってるんだけど、この話 ホントーにオチが付くんでしょうね?」
「だ、大丈夫……だと 思う……たぶん……」
大丈夫だろうか?
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