悪役令嬢に転生した18禁同人誌作家は破滅を回避するために奮闘する

神泉灯

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三章・いきなりですが冒険編

イカ臭い

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 マッチョジジイが落ち着いたところで、事情を話した。
「そうか、俺に武器を造って欲しいのか。
 だが 断る」
 動かないマンガ家のような断り方。
 この人も異世界人じゃないでしょうね?
 それはともかく、わたしは質問する。
「どうして造ってもらえないのでしょうか?」
「俺は世界一腕の良い鍛冶師って評判だ。だから世界中の連中が武器を造ってくれって言ってきやがる。
 まあ、俺も初めの頃は素直に喜んで造ってたんだが、連中の武器の使い方を知ってな。正確には使わねえと言ったほうがいいな、ありゃ。
 俺が造った武器を戦いに使わねぇんだ。試合にも使わねえ。
 飾るだけなんだよ。すげぇ鍛冶師が造った すげぇ武器だってありがたがって、きらびやかな装飾品をつけて飾るだけ。
 武器ってのは戦いに使うためにあるんだ。なのに飾るだけだと。ふざけやがって。
 だから 頼まれて造るのは止めた」
「でも、店にある武器は?」
「ありゃ腕が鈍らねぇようにと造ったもんだ。遊びで造ったも同然よ。たいしたことはねぇ。ま、欲しけりゃ勝手に持っていきな」
 そして 中隊長さんや兄貴、姫騎士さんは店の武器を品定めし始める。
 中隊長さんは感嘆の声を上げる。
「これで遊びで造ったも同然だというのか」
 兄貴も感動しているようで、
「折れてしまった逆刃刀並の凄さでござる」
 姫騎士さんも興奮気味に、
「これで本気で造ったら、どれほどの物が出来るのだ」
 わたしは、
「そんなにすごいんですか? じゃあ、使えそうな物があるんですね」
 しかし みんなは首を振る。
 中隊長さんが残念そうに、
「確かにすごいことはすごいが、俺たちの力には耐えられないだろう」
 マッチョジジイは怪訝に、
「さっきから 武器が壊れるって言ってるが、そんなこと よっぽど下手な使い方をしない限り起きねえはずだ。おまえらがよっぽどダメなのか、それともメチャクチャすごいのか。
 いっちょ俺に、おまえらの力 見せてみろ」


 で、庭に出て、三人は破邪の力を発揮して見せたのだが、
「確かに すげぇことはすげぇが、この程度で武器が壊れることはねえはずだ」
 わたしは聖女のピストルを取り出し、
「もう一段階 パワーアップするんです]
 わたしはピストルで聖女の力を三人に使った。
 三人がさらなる力をほとばしらせた。
「なっ!? こりゃ驚いたぜ!
 なるほど、確かにこれほどの力なら 普通の武器じゃ耐えられねぇ」
 マッチョジジイは手で膝を打ち、
「おもしれぇ! いっちょ造ってやるぜ!」
 やった。
 造ってくれる。


 材料はあるので、マッチョジジイはすぐに武器の製作の準備に取りかかり始めた。
 これで武器はなんとかなりそう。
 しかし そこに、わたしの携帯電話に連絡が入る。
 通知は賢姫さま。
「もしもし、賢姫さま。どうしましました?」
「大変ですわ! 大魔王軍が襲撃してきましたの!」


 北の国に大魔王軍の隠密兵軍団が侵攻してきた。
 隠密兵軍団はその名の通り、隠密作戦を主体として戦う。
 姿を見せずに攻撃する戦法に、各国の部隊は為す術もなくやられていった。
「どこだ?! 敵の姿が見えないぞ!」
「だが 次々とやられている! どこかにいるはずだ!」
「や! 止めろ! なにをする?!」
 シコシコシコ……ドピュッ!
「うっ! ……ふう」
「どうした!? その賢者のような顔は!」
「みんな脱力して戦う気力をなくしているぞ!」
 うん、意味が分からないよね。
 説明したくないけど説明しよう。
 大魔王はなんでか知らないけど、この作戦でノーキルを命じており、隠密兵軍団は無力化させる戦法をとっていた。
 で、その無力化させる方法ってのが、兵士をイカせたショックで戦闘不能にするという、なんともはやな感じの。


 悪友は、
「イカせてイカ臭くする作戦ね」
「上手いこと言ったつもりか」


 影に隠れて戦う戦法に混乱させられ、各国の軍隊がまともに機能しない。
 特に銃や大砲などの近代武器がまるで役に立たない。
 そうしている内に、城まで侵入された。
 賢姫さまは王さまたちに号令をかける。
「私たちも戦う準備をしましょう!」
 しかし軍事大国の王さまが、
「だ、大魔王軍とはこんな恐ろしいものだったのか。我が部隊が壊滅ではないか……」
 と、戦う気力をなくしてしまっていた。
 賢姫さまが叱咤する。
「どうしたというのですか!? この程度のことは想定内! これきしのことで戦意喪失とは 軍を誇る国の名折れですわよ!」
 軍事大国の王さまは少しは立ち直ったようで、
「そうだな。まだ残存している兵士に指揮を出さねば」
 しかし、王さまたちが集まる会議室に、隠密軍団の小隊が現れた。
 王さまたちは各々 武器を構えて自ら戦う態勢を取った。
 軍事大国の王さまが、
「我が武を見せてくれる」
 北の王さまが、
「老骨にむち打つとするか」
 西の王さまも、
「娘だけに苦労はさせぬ」
 南の王さまは、
「ひとつ暴れてみせるぞ」
 わたしたちの王さまも、
「聖女ばかりに頼ってはならぬな」
 そして戦いが始まった。


 という感じの内容を、賢姫さまは携帯電話から説明してくれた。
「本当に大変でしたわ。ですが わたくしたちを襲った隠密部隊はなんとかなりましたの。でも 街ではまだ戦いが続いておりますわ。ですから……」
「ちょっと待ってください。さらっと流しましたけど、隠密部隊をなんとかしたって、王さまたち そんなに強かったんですか?」
「男たちはハッキリいってたいしたことなかったのですけれども、東の女王さまがめっぽう強かったのですわ。並み居る者どもを ちぎっては投げ ちぎっては投げの大活躍。さすがは接近戦では随一と自負しておりますわね」
「他の人は?」
「聖姫さまが、隠密部隊が童貞だと見抜いて、色仕掛けをして隠密部隊を惑わしておりましたわ。
 おかげでわたくしの鞭のいい的ができましたわ。面白いように命中しましたわね」
「それで、男たちは?」
「すぐにイカされて戦闘不能に」
 かっこつけといて イカされたのかよ ガッデム!
「とにかく勇者さまの力が必要なのです。至急 戻ってきてください」


 そこにマッチョジジイが、
「ダメだ。今こいつらにこの場を離れて貰っちゃ困る」
「どうしてですか?」
「武器を作るにはこいつらの力が必要だ。武器を打っている間、こいつら自身が武器に力を注がなくちゃなんねぇ。それで初めてこいつら専用の、こいつらの力に耐えられる武器を完成させられる」
「後で造ることはできないんですか?」
「もう作業を始めちまった。ここで中断すると、材料が台無しになっちまう。材料はこれだけなんだ。やり直しは出来ねえ。
 こいつらがこの場を離れたら、武器は手に入らねえと思え」
 わたしは賢姫さまに、
「聞こえましたか? そういうことなので、しばらく兄貴たちはそっちへいけません。とりあえず、わたしとオッサンが戻ります。そこで作戦を立てましょう」


 オッサンの転移魔法で城に戻ったわたしたち。
 会議室に入ると、白い汁のすさまじい悪臭が!
「くさっ! くっさー! イカ臭い!」
 賢姫さまが困ったように、
「窓を開けて、執事に掃除させたのですが、まだ臭いますか?」
「いや 王さまたち どんだけイカされたんですか!? 半端じゃないですよこの臭い!」
 北の王さまが賢者の表情で、
「久し振りじゃったからな。何十年分の汁を出されたわ」
 軍事大国の王さまも賢者になって、
「俺はいったいなにを自慢していたのだろう。平和こそ全て。武を誇るなどおろか」
 南の王さまも賢者で、
「はやく戦争を終わらせ、人と魔物が共存する世界を創らねば」
 西の王さまも賢者タイムで、
「宝は我が娘 一人だけではない。全ての子らは世界の光」
 わたしたちの王さままで賢者になって、
「神よ。聖女に祝福を」
 みんな賢者タイムで役に立たねぇ!
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