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三章・いきなりですが冒険編
目立たないこと
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魔兵将軍と精霊将軍が処刑される日。
わたしたちは大峡谷の窪地へ集まった。
敵に見つからないよう、窪地を見渡せる離れた位置から偵察する。
隠密将軍と妖術将軍の姿がある。
そして魔兵将軍と精霊将軍が貼り付けにされている。
その周りには無数の魔物の姿。
予想通り罠だった。
妖術将軍がなにか二人を笑っている。
わたしは用意していた集音マイクで声を拾う。
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! 無様な姿じゃのう。いつもわしをバカにしておったが、立場逆転というわけじゃ」
妖術将軍の嘲笑に、二人は悔しげに沈黙していた。
「聖女どもが助けに来るじゃろうが、勝ち目は万に一つもない。
見よ、この軍勢を。
量産型造魔軍じゃ!」
五鬼に姿の似た魔物が無数にいる。
「一体一体は五鬼ほどではないが、しかし数が違う。この軍勢を見ては、聖女どもも逃げてしまうかもしれんのう。
イィーヒッヒッヒッヒッヒッ!」
そこに隠密将軍が魔兵将軍と精霊将軍に話しかける。
「大魔王さまから最後の温情だ。再び大魔王さまに忠義を誓うならば、裏切ったことを許し、命は助けるとのこと。どうする?」
妖術将軍はぎょっとして、
「な!? なにを言っておるんじゃ!? こやつらをまた大魔王軍に入れるとは!」
隠密将軍は凄みのある声で、
「黙れ。大魔王さまの命令に逆らうつもりか」
「い、いや、そんなつもりは……」
言い淀んで沈黙してしまう妖術将軍。
そして隠密将軍は再び二人に聞く。
「どうする? 戻ってくる気はあるか?」
精霊将軍は怒りの声で応える。
「断る! 私の愛は妹に捧げている!」
後で聞いたんだけど、ヒロインちゃん この時、得体の知れない悪寒を感じたとかなんとか。
そして魔兵将軍。
「僕も断る。僕は父さんに彼女との子、孫を見せてあげると誓ったんだ」
彼女の子?
孫?
え? なに?
魔兵将くん、いつのまに好きな子ができてたの?
なにがなんでも救出して誰なのか聞き出さなくちゃ。
わたしは周囲に潜伏しているみんなに、無線で連絡を入れた。
「みなさん、準備は良いですか?」
「「「準備よし」」」
全員から返事が来た。
そしてわたしは一人で姿を現す。
「待ちなさい!」
隠密将軍と妖術将軍がわたしの姿を見る。
「イィーヒッヒッヒッヒッヒッ!
馬鹿正直に一人で来おった。まあ、魔兵将軍と精霊将軍を助けるために、部隊を隠してあるんじゃろうが。しかしこの量産型造魔軍に勝てるかのう? それに、ほれ」
魔兵将軍と精霊将軍を親指で示し、
「人質もおる。こやつらを殺されたくなかったら、動くでないぞ。
イィーヒッヒッヒッヒッヒッ!」
妖術将軍の相変わらず汚い手に、わたしは鼻で笑う。
「フッ。人質ですって? どこに人質がいるのかしら?」
妖術将軍は意味が分からないようで怪訝に、
「そこに縛られておる魔兵将軍と精霊将軍のことじゃ。まさか お主、見殺しにする気ではあるまいな?」
まだ気付いていない。
「貴方が指差すところには、人質どころか、誰もいないわよ」
「なにを馬鹿なことを……」
そう言って妖術将軍と隠密将軍が眼を向けると、そこには縛られていたはずの魔兵将軍と精霊将軍の姿がなくなっていた。
「な!? なんじゃと!? いったいどういうことじゃ?! どうやって逃げたのじゃ?!?」
わたしは無線で連絡する。
「無事、救出部隊に合流できた?」
「できましたけど、こんなのあんまりです」
無線器から聞こえて来たのは、ヒロインちゃんの声。
「久し振りに出番ができたと思ったら、こんなことだったなんて」
説明しよう。
魔兵将軍と精霊将軍が人質に取られた以上、迂闊な攻撃はできない。
まずは二人を救出することから考えなくてはいけなかった。
しかし、敵には隠密兵軍団を率いる隠密将軍がいる。
隠密能力に優れていると言うことは、逆に防ぐことにも長けているということだ。
こちら側の戦力に、彼女ほどの隠密技能に優れている者はいなかった。
しかし、隠密に関して天賦の才能を持つ人材が一人だけいた。
何を隠そう、ヒロインちゃんだ。
特徴がなさ過ぎてキャラが全く立っておらず、そのせいで重要な割に出番の少ない彼女。
今まで語らなかっただけで、連絡とか再会はしていた。
大魔宮殿に乗り込む前夜も、来てくれていた。
でも出番なし。
隠密活動において最も必要な能力は、目立たないこと。
まったく目立たないヒロインちゃんは、人質救出にうってつけの人物だった。
わたしが正面から隠密将軍と妖術将軍の前に現れ、そして少し話している間に、ヒロインちゃんは魔兵将くんと精霊将軍を救出してくれたのだ。
「グッジョブよ!」
「シクシク……久し振りの出番がこんな理由で、しかも今後 登場する機会がないのが わかりやすすぎて 酷いです」
とにかくわたしは無線で待機しているみんなに号令を出した。
「突撃ぃ!!」
みんな一斉に突入した。
「「「おおおぉおおおおお!!!」」」
それに対し隠密将軍は魔物に命令を下す。
「迎え撃て!」
「「「グオオォオオオオオ!!!」」」
すさまじい乱戦となった。
中隊長さんが竜の力で敵を叩きのめし、兄貴は雷電白虎となって蹴散らし、姫騎士さんが光の翼で吹き飛ばす。
ツインメスゴリラはお互い連携して戦い、元女騎士隊長さんも現役時代の実力を彷彿させる戦いっぷり。
武闘大会の時の八人も獅子奮迅の活躍。
王子もそれなりに活躍し、さらには大魔道士さまも老骨にむち打って参戦してくださり、物凄い威力と数の魔法を放っていた。
そして竜騎将軍の圧倒的な強さ。
竜騎将軍マジで強い。
さらにマッチョジジイもかつての勇者だけあって、物凄い活躍。
「いやー、なんて言うか、みなさんホント大活躍できて羨ましいですねー」
わたしは離れた場所で、お茶をすすりながらそんな感想を言った。
そう、非戦闘員であるわたしは、いつものように遠くで観戦。
でもってオッサンも、
「そうですね。みなさん本当に格好いいです」
と隣で観戦していた。
まあ、いつもの風景だった。
わたしたちは大峡谷の窪地へ集まった。
敵に見つからないよう、窪地を見渡せる離れた位置から偵察する。
隠密将軍と妖術将軍の姿がある。
そして魔兵将軍と精霊将軍が貼り付けにされている。
その周りには無数の魔物の姿。
予想通り罠だった。
妖術将軍がなにか二人を笑っている。
わたしは用意していた集音マイクで声を拾う。
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! 無様な姿じゃのう。いつもわしをバカにしておったが、立場逆転というわけじゃ」
妖術将軍の嘲笑に、二人は悔しげに沈黙していた。
「聖女どもが助けに来るじゃろうが、勝ち目は万に一つもない。
見よ、この軍勢を。
量産型造魔軍じゃ!」
五鬼に姿の似た魔物が無数にいる。
「一体一体は五鬼ほどではないが、しかし数が違う。この軍勢を見ては、聖女どもも逃げてしまうかもしれんのう。
イィーヒッヒッヒッヒッヒッ!」
そこに隠密将軍が魔兵将軍と精霊将軍に話しかける。
「大魔王さまから最後の温情だ。再び大魔王さまに忠義を誓うならば、裏切ったことを許し、命は助けるとのこと。どうする?」
妖術将軍はぎょっとして、
「な!? なにを言っておるんじゃ!? こやつらをまた大魔王軍に入れるとは!」
隠密将軍は凄みのある声で、
「黙れ。大魔王さまの命令に逆らうつもりか」
「い、いや、そんなつもりは……」
言い淀んで沈黙してしまう妖術将軍。
そして隠密将軍は再び二人に聞く。
「どうする? 戻ってくる気はあるか?」
精霊将軍は怒りの声で応える。
「断る! 私の愛は妹に捧げている!」
後で聞いたんだけど、ヒロインちゃん この時、得体の知れない悪寒を感じたとかなんとか。
そして魔兵将軍。
「僕も断る。僕は父さんに彼女との子、孫を見せてあげると誓ったんだ」
彼女の子?
孫?
え? なに?
魔兵将くん、いつのまに好きな子ができてたの?
なにがなんでも救出して誰なのか聞き出さなくちゃ。
わたしは周囲に潜伏しているみんなに、無線で連絡を入れた。
「みなさん、準備は良いですか?」
「「「準備よし」」」
全員から返事が来た。
そしてわたしは一人で姿を現す。
「待ちなさい!」
隠密将軍と妖術将軍がわたしの姿を見る。
「イィーヒッヒッヒッヒッヒッ!
馬鹿正直に一人で来おった。まあ、魔兵将軍と精霊将軍を助けるために、部隊を隠してあるんじゃろうが。しかしこの量産型造魔軍に勝てるかのう? それに、ほれ」
魔兵将軍と精霊将軍を親指で示し、
「人質もおる。こやつらを殺されたくなかったら、動くでないぞ。
イィーヒッヒッヒッヒッヒッ!」
妖術将軍の相変わらず汚い手に、わたしは鼻で笑う。
「フッ。人質ですって? どこに人質がいるのかしら?」
妖術将軍は意味が分からないようで怪訝に、
「そこに縛られておる魔兵将軍と精霊将軍のことじゃ。まさか お主、見殺しにする気ではあるまいな?」
まだ気付いていない。
「貴方が指差すところには、人質どころか、誰もいないわよ」
「なにを馬鹿なことを……」
そう言って妖術将軍と隠密将軍が眼を向けると、そこには縛られていたはずの魔兵将軍と精霊将軍の姿がなくなっていた。
「な!? なんじゃと!? いったいどういうことじゃ?! どうやって逃げたのじゃ?!?」
わたしは無線で連絡する。
「無事、救出部隊に合流できた?」
「できましたけど、こんなのあんまりです」
無線器から聞こえて来たのは、ヒロインちゃんの声。
「久し振りに出番ができたと思ったら、こんなことだったなんて」
説明しよう。
魔兵将軍と精霊将軍が人質に取られた以上、迂闊な攻撃はできない。
まずは二人を救出することから考えなくてはいけなかった。
しかし、敵には隠密兵軍団を率いる隠密将軍がいる。
隠密能力に優れていると言うことは、逆に防ぐことにも長けているということだ。
こちら側の戦力に、彼女ほどの隠密技能に優れている者はいなかった。
しかし、隠密に関して天賦の才能を持つ人材が一人だけいた。
何を隠そう、ヒロインちゃんだ。
特徴がなさ過ぎてキャラが全く立っておらず、そのせいで重要な割に出番の少ない彼女。
今まで語らなかっただけで、連絡とか再会はしていた。
大魔宮殿に乗り込む前夜も、来てくれていた。
でも出番なし。
隠密活動において最も必要な能力は、目立たないこと。
まったく目立たないヒロインちゃんは、人質救出にうってつけの人物だった。
わたしが正面から隠密将軍と妖術将軍の前に現れ、そして少し話している間に、ヒロインちゃんは魔兵将くんと精霊将軍を救出してくれたのだ。
「グッジョブよ!」
「シクシク……久し振りの出番がこんな理由で、しかも今後 登場する機会がないのが わかりやすすぎて 酷いです」
とにかくわたしは無線で待機しているみんなに号令を出した。
「突撃ぃ!!」
みんな一斉に突入した。
「「「おおおぉおおおおお!!!」」」
それに対し隠密将軍は魔物に命令を下す。
「迎え撃て!」
「「「グオオォオオオオオ!!!」」」
すさまじい乱戦となった。
中隊長さんが竜の力で敵を叩きのめし、兄貴は雷電白虎となって蹴散らし、姫騎士さんが光の翼で吹き飛ばす。
ツインメスゴリラはお互い連携して戦い、元女騎士隊長さんも現役時代の実力を彷彿させる戦いっぷり。
武闘大会の時の八人も獅子奮迅の活躍。
王子もそれなりに活躍し、さらには大魔道士さまも老骨にむち打って参戦してくださり、物凄い威力と数の魔法を放っていた。
そして竜騎将軍の圧倒的な強さ。
竜騎将軍マジで強い。
さらにマッチョジジイもかつての勇者だけあって、物凄い活躍。
「いやー、なんて言うか、みなさんホント大活躍できて羨ましいですねー」
わたしは離れた場所で、お茶をすすりながらそんな感想を言った。
そう、非戦闘員であるわたしは、いつものように遠くで観戦。
でもってオッサンも、
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