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番外編
カメラ
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次の日。
役者さんの携帯電話にマネージャーさんから電話がかかってきた。
「一回、事務所に戻ってきて、仕事の報告をして欲しいんだけど」
「わかった」
そして役者さんは一度、ヤクザ事務所に連絡しておくことにした。
ヤクザ事務所に来ると、ざわつく。
ヤクザたちはカチコミされたとき、伝説の殺し屋が弾丸を避けたことで畏怖していた。
組長さんも恐れているようなふうに、
「ど、どうした?」
「マネージャーがね、仕事の報告に来て欲しいって言ってきたから、ちょっと行ってくる」
「マ、マネージャー?」
変な単語が出てきて戸惑う組長さん。
「うん、そう。三時間くらいで戻るから」
「わ、わかった」
組長さんは、下っ端ヤクザさんに、
「おまえも付いていけ」
「は、はい」
そしてなぜか愛人さんも、
「わたしも行くー」
と付いてくることに。
役者さんたちが去った後、幹部さんは組長さんに、
「怪しくありませんか。本当に伝説の殺し屋なんでしょうか?」
「おまえはまだ疑っているのか。奴は本物だ。間違いない」
わたしは役者さんと一緒に事務所へ歩いていると、後ろに幸薄そうなサラリーマンのオッサンがいた。
「あ、また あの人だ。これで三回目。よく見かけるけど、どういう人なんだろ? まあ、わたしには関係ないけど」
事務所では男の事務員さんと、女性の事務員さんが書類整理をしていた。
そしてマネージャーさんが役者さんに、
「仕事の方はどう? 上手くいってる?」
役者さんは自信満々に答えた。
「最っ高だよ。俺の今までの演技の中で最高の物が出来てるよ。俺だけじゃない。他の役者の演技も凄いんだ。いいか、これは間違いない。この映画は必ずブレイクする。そして俺がスターへ駆け上がる第一歩になる!」
役者さんは興奮気味に語っていた。
ふと、わたしは役者さんの胸ポケットに目がとまった。
なんか小さな穴が空いている。
まるで銃の弾丸でも命中したかのような。
「あの、ちょっと失礼しますね」
わたしは一言断りを入れると、役者さんの胸ポケットを調べてみた。
ポケットには金属製の名刺入れがあり、そしてそれに弾丸がめり込んでいた。
わたしはみんなに弾丸を見せて、
「これ、本物の弾丸ですよね?」
役者さんも認める。
「本物だな」
マネージャーさんも認める。
「本物だね」
ニセモノの鉄砲のはずなのに、なぜ本物の弾丸なのか。
全員の視線が下っ端ヤクザさんに向いた。
愛人さんは人ごとのように言った。
「あーあ、バレちゃった」
「す、すいませーん!」
下っ端ヤクザさんは土下座した。
そして下っ端ヤクザさんから全ての真実を聞かされた役者さんは、下っ端ヤクザさんの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「嘘って 一体どういうことだよ!? ちゃんと説明しろ!」
「すいません! 組長には俺が話をつけます! 俺の命一つで納めて貰うようにしますから!」
「そんなことより カメラはどうなんだ?!」
「カメラ?」
「ああ! カメラだよ! 隠しカメラで撮影するって言ってたよな! あれはどうなんだ!? あれも嘘だったのか!?」
下っ端ヤクザさんは怪訝に、
「え? 嘘って言うか、そもそも映画撮影って話 自体が嘘ですから、カメラも仕掛けてないですけど」
「本当にカメラ回ってなかったのか?」
「そ、そうです」
「なんだよそれ。いいか、伝説の殺し屋の演技はな、自分でも凄いって自信があったんだ。一生に一度できるかっていう、生涯最高の演技だったんだ。
それなのにカメラ回ってなかったって言うのかよ!」
「……怒るポイント、そこなんですか?」
「そ、そんな……」
役者さんは、力なくソファに座り込んだ。
気まずそうな下っ端ヤクザさん。
「えっと……」
マネージャーさんが下っ端ヤクザさんに言う。
「役者っていうのはね、みんなそう言うもんなんだよ」
そこに下っ端ヤクザさんの電話が鳴った。
「く、組長からです」
わたしが電話を取ると、スピーカにした。
組長さんは怒りを押し殺した声で告げた。
「おまえの正体がわかった。おまえは伝説の殺し屋ではない。ただの三流役者だ」
ちょっと過去に遡って。
伝説の殺し屋のことを疑っていた、ヤクザの幹部さんは、調査をしていた。
そして役者さんが脇役で登場する映画を発見し、そのビデオを組長さんに見せた。
「やつは伝説の殺し屋じゃありません。ただの三流役者です。
それと、浮気相手もわかりました」
下っ端ヤクザさんの名前を伝えると、組長さんは怒りを隠しきれない様子だった。
そしてすぐに下っ端ヤクザさんの電話にかけたのだった。
「今日の夜、全員 港の三番倉庫の前に来い。来なかったらどうなるか、分かっているな」
そして返事を待たずに電話が切れた。
わたしは役者さんに聞く。
「ど、どうするんですか?」
役者さんは意を決した表情で答えた。
「俺は役者だ。演じるのが仕事だ。そして、伝説の殺し屋を演じる仕事を引き受けた。だったら、伝説の殺し屋を最後まで演じきってみせる」
そして皆に頭を下げた。
「みんな、頼む。協力してくれ」
マネージャーさんは笑顔で答えた。
「協力するに決まってるじゃない。僕たちは、君のファンなんだからさ」
みんなが役者さんたちへ笑顔を向けていた。
役者さんの携帯電話にマネージャーさんから電話がかかってきた。
「一回、事務所に戻ってきて、仕事の報告をして欲しいんだけど」
「わかった」
そして役者さんは一度、ヤクザ事務所に連絡しておくことにした。
ヤクザ事務所に来ると、ざわつく。
ヤクザたちはカチコミされたとき、伝説の殺し屋が弾丸を避けたことで畏怖していた。
組長さんも恐れているようなふうに、
「ど、どうした?」
「マネージャーがね、仕事の報告に来て欲しいって言ってきたから、ちょっと行ってくる」
「マ、マネージャー?」
変な単語が出てきて戸惑う組長さん。
「うん、そう。三時間くらいで戻るから」
「わ、わかった」
組長さんは、下っ端ヤクザさんに、
「おまえも付いていけ」
「は、はい」
そしてなぜか愛人さんも、
「わたしも行くー」
と付いてくることに。
役者さんたちが去った後、幹部さんは組長さんに、
「怪しくありませんか。本当に伝説の殺し屋なんでしょうか?」
「おまえはまだ疑っているのか。奴は本物だ。間違いない」
わたしは役者さんと一緒に事務所へ歩いていると、後ろに幸薄そうなサラリーマンのオッサンがいた。
「あ、また あの人だ。これで三回目。よく見かけるけど、どういう人なんだろ? まあ、わたしには関係ないけど」
事務所では男の事務員さんと、女性の事務員さんが書類整理をしていた。
そしてマネージャーさんが役者さんに、
「仕事の方はどう? 上手くいってる?」
役者さんは自信満々に答えた。
「最っ高だよ。俺の今までの演技の中で最高の物が出来てるよ。俺だけじゃない。他の役者の演技も凄いんだ。いいか、これは間違いない。この映画は必ずブレイクする。そして俺がスターへ駆け上がる第一歩になる!」
役者さんは興奮気味に語っていた。
ふと、わたしは役者さんの胸ポケットに目がとまった。
なんか小さな穴が空いている。
まるで銃の弾丸でも命中したかのような。
「あの、ちょっと失礼しますね」
わたしは一言断りを入れると、役者さんの胸ポケットを調べてみた。
ポケットには金属製の名刺入れがあり、そしてそれに弾丸がめり込んでいた。
わたしはみんなに弾丸を見せて、
「これ、本物の弾丸ですよね?」
役者さんも認める。
「本物だな」
マネージャーさんも認める。
「本物だね」
ニセモノの鉄砲のはずなのに、なぜ本物の弾丸なのか。
全員の視線が下っ端ヤクザさんに向いた。
愛人さんは人ごとのように言った。
「あーあ、バレちゃった」
「す、すいませーん!」
下っ端ヤクザさんは土下座した。
そして下っ端ヤクザさんから全ての真実を聞かされた役者さんは、下っ端ヤクザさんの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「嘘って 一体どういうことだよ!? ちゃんと説明しろ!」
「すいません! 組長には俺が話をつけます! 俺の命一つで納めて貰うようにしますから!」
「そんなことより カメラはどうなんだ?!」
「カメラ?」
「ああ! カメラだよ! 隠しカメラで撮影するって言ってたよな! あれはどうなんだ!? あれも嘘だったのか!?」
下っ端ヤクザさんは怪訝に、
「え? 嘘って言うか、そもそも映画撮影って話 自体が嘘ですから、カメラも仕掛けてないですけど」
「本当にカメラ回ってなかったのか?」
「そ、そうです」
「なんだよそれ。いいか、伝説の殺し屋の演技はな、自分でも凄いって自信があったんだ。一生に一度できるかっていう、生涯最高の演技だったんだ。
それなのにカメラ回ってなかったって言うのかよ!」
「……怒るポイント、そこなんですか?」
「そ、そんな……」
役者さんは、力なくソファに座り込んだ。
気まずそうな下っ端ヤクザさん。
「えっと……」
マネージャーさんが下っ端ヤクザさんに言う。
「役者っていうのはね、みんなそう言うもんなんだよ」
そこに下っ端ヤクザさんの電話が鳴った。
「く、組長からです」
わたしが電話を取ると、スピーカにした。
組長さんは怒りを押し殺した声で告げた。
「おまえの正体がわかった。おまえは伝説の殺し屋ではない。ただの三流役者だ」
ちょっと過去に遡って。
伝説の殺し屋のことを疑っていた、ヤクザの幹部さんは、調査をしていた。
そして役者さんが脇役で登場する映画を発見し、そのビデオを組長さんに見せた。
「やつは伝説の殺し屋じゃありません。ただの三流役者です。
それと、浮気相手もわかりました」
下っ端ヤクザさんの名前を伝えると、組長さんは怒りを隠しきれない様子だった。
そしてすぐに下っ端ヤクザさんの電話にかけたのだった。
「今日の夜、全員 港の三番倉庫の前に来い。来なかったらどうなるか、分かっているな」
そして返事を待たずに電話が切れた。
わたしは役者さんに聞く。
「ど、どうするんですか?」
役者さんは意を決した表情で答えた。
「俺は役者だ。演じるのが仕事だ。そして、伝説の殺し屋を演じる仕事を引き受けた。だったら、伝説の殺し屋を最後まで演じきってみせる」
そして皆に頭を下げた。
「みんな、頼む。協力してくれ」
マネージャーさんは笑顔で答えた。
「協力するに決まってるじゃない。僕たちは、君のファンなんだからさ」
みんなが役者さんたちへ笑顔を向けていた。
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