悪役令嬢クリスティーナの冒険

神泉灯

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一章

72・貴女は身も心も

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「お譲ちゃん、どういうつもり? 一人で私を倒せると思ってるの? それとも石になった仲間を見捨てて逃げるつもりかしら?」
 メドゥーサは私を挑発している。
 それに乗って安易に戦えば、石にされるだろう。
 だけど、私はあえて挑発に乗った。
 メドゥーサの位置を念入りに確認すると、私は眼を閉じて前に出る。
「あら? どうしたの? 諦めたのかしら?」
武器魔法付与エンチャントウェポン
 細剣レイピアに風の魔法をかけて構える。
「へえ、戦う気なんだ。でも、眼を閉じた状態で戦えるの?」
「そう言う貴女こそ、どうなのです? 両腕を斬り落とされた状態で、戦い続けられるのですか?」
「大丈夫よ。私にはまだ髪と眼がある。それに腕だって後でくっつけるわ。私、手足を斬り落とされても、くっつけるだけで元に戻るのよ。今までに冒険者相手に不覚を取ってしまったことはあるわ。でも その時、体の特性に気付いたのよ」
「そうですか。でも、首を斬り落とされたことはありませんよね」
「そうね、確かにないわ。うふふふ。首を斬り落とされたら、さすがの私でも死んでしまうでしょうね。ああ、だから私の首ばかり狙ってたのね。でも、私の眼を見ないで首を斬り落とすことができるかしら?」
 やってみせる。
「うふふふ。鏡はどうしたの? 落としたのかしら?」
 私は今、鏡を持っていない。
 でも落としたわけじゃない。
「それにしても、やっぱりおまえをどこかで見たような気がするわ」
 メドゥーサがまた同じことを言い出した。
「……そうか、分かったわ。おまえの姿は、あの女神たちにどこか似ているのよ」
「女神? それは、貴女の前に現れたという女神の事ですか?」
「そうよ、あの二人の女神。私の前に現れ、私を絶望させた女神。おまえはあの女神たちに似ている」
 私が二柱の女神に似ている?
「女神たちが美しかったから……あの二人の女神が私よりも美しかったから……あの女神どもが私より醜ければ私はこんな姿にはならなかった!」
 メドゥーサは憤怒と憎悪に満ちた声で叫ぶ。
「女神どもが私を陥れてこんな姿にしたんだ!」
 なによこいつ。
 まるで被害妄想の塊じゃない。
「貴女がそんな姿になったのは、貴女が女神に嫉妬したのが原因でしょう。貴女は女神が自分より美しいことに、不当に怒ったり憎んだりするだけで、自分で美しさを磨こうとしなかった。さらなる高みへ向かおうとしなかった。
 その心を邪神に付け込まれたのよ。美しく成りたかったら自分で努力してなればよかったのよ。それをよりにもよって邪神に求めるからそんなことになるの。
 自分の非を他の人のせいにしないでくれる!
 貴女は怪物の姿になる前は美しいと言われていた。
 でも、それは違う。
 自分の美貌に傲慢な貴女は始めから醜かった!」
「違う! 私は美しかった! 他の誰よりも美しかった!」
「いいえ! 貴女は身も心も、ブスよ!」
「ブッ……ス……この!……そう言うおまえは何様のつもりだ!? おまえは自分が誰よりも美人だと思っているのか?!」
「いいえ、私は美人じゃないわ。麗しいのよ!」
 私の信じる仲間が、私を信じてくれる仲間が、そう褒めてくれたのだから。


 私は横に走る。
 そして眼を開いた。
 勿論、メドゥーサの魔眼は見ないようにする。
 だけど、それではメドゥーサの姿を直接確認することはできない。
 でも、方法はある。
「私から眼を逸らした状態でどう戦うつもり!? 鏡もないのにどうやって私の姿を見るのかしら!?」
 メドゥーサは最初の場所から移動して、私に位置を分からなくさせようとした。
 だけど私は横に走りながら、円を描くように移動して、メドゥーサに剣が届く間合いに入った。
「なに!? どうして私の位置が分かる!?」
 メドゥーサが蛇髪を伸ばして攻撃してくる。
 それを風の刃を纏った細剣レイピアで斬り落とす。
 その間にメドゥーサが距離を取ってしまい、位置が分からなくなる。
 確認し直し。
 私は移動しながら、位置を確認する。
大気ウィンド切断カッター・連撃!」
 メドゥーサの首を狙って、風の刃を連発する。
大地アース障壁ウォール!」
 大地の壁を前に立てて防御するメドゥーサ。
「こいつ! まぐれじゃない!? 私の姿が見えている! どうやって!?」
 これは時間との勝負だ。
 さあ、早く気付きなさい。
 正直、私じゃ長くは戦えない。
 大気切断を大地障壁で防いだことで、メドゥーサの動きが止まった。
 私はそのタイミングを狙って接近し蠢く蛇髪ごと首を斬り落そうとした。
 でも、この時ばかりは見ることができないので、間合いを誤り、空振りしてしまう。
「なに?! 見ていないのか!?」
 そうよ、見ていないわ。
 でも見てるの。
「見ていない。なのに私の位置が分かる。いえ、見なければ分からないはず……そうか!」
 気付いた!
 私は石になってしまっているスファルさまの所へ移動した。
 そして、スファルさまの持っている鏡を見て、メドゥーサの姿を確認。
 蛇髪が伸びてきて、私を捕えようとする。
 それを細剣で斬り落とし、次はキャシーさんの所へ。
 キャシーさんの持っている鏡で、メドゥーサの姿を確認すると、こちらに向かって走ってきていた。
 全力で横へ走って回避。
「やはり鏡か! 鏡を使っていないと見せかけて鏡を使っていただけか!」
 その通りよ。
 みんな石になってしまったけど、それでも鏡を持ち続けていた。
 その鏡を見てメドゥーサの姿を確認していただけ。
 でも、こんな方法すぐに分かってしまうだろうし、戦い難いのに変わりはない。
 だから他の方法を考えた。
「ふん! 小賢しい真似を! でも鏡を割ってしまえば終わりよ!」
 メドゥーサはキャシーさんの持つ鏡を蛇髪で割ると、次にスファルさまの鏡を割り、そしてラーズさまの所へ。
 この時を待っていた。
 メドゥーサがみんなの鏡に気を取られている間に、私は最初の場所に移動する。
「鏡は全て割った! これでおまえは私を直接 見るしかない!」
 いいえ、まだよ。
 まだ一枚残ってる。
 私が最初の場所の置いておいた、私の持っていた一枚が。
「さあ! 私の眼を見ろ!」
 メドゥーサが私に魔眼を向けた瞬間、鏡を使った。
 見るためじゃない。
 見せるためだ。
 太陽の光を。
「アアッ!」
 南国の真昼の強烈な太陽の光を直視したメドゥーサは眼を閉じてしまう。
 メドゥーサを倒すためには、自分からはどうしても見てしまわなければならない、石化の魔眼を見ずにすむ方法。
 それは本人の瞼を閉じさせればいい。
 私はメドゥーサに向かって全力疾走。
 風の刃を纏った細剣を横一線に振るう。
 メドゥーサの首が宙を舞い、地面に転がり、うつ伏せの状態で止まる。
 蛇髪がうねうねと蠢いていたが、それも静かになっていき、やがて完全に動かなくなる。
「……やった」
 メドゥーサを倒した。
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