悪役令嬢クリスティーナの冒険

神泉灯

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一章

76・弱肉強食は自然の摂理の一つです

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「あいつらどこに行きやがった?」
「なぁに、この島からは出られねえ。船を抑えてあるんだからな」
「そうだ。島から生きて出しちゃなんねえ」
「クラーケン様の仇を討つんだ」
 島民が話をしている所を、ラーズさまたちが背後から奇襲。
 呻き声を上げて気絶する四人の島民。
「よし。行こう」
 こんな調子で、私たちは島の中央の祭壇までやってきた。
 約五十メートル四方を崩れかけている石材の壁で囲んだ、天井の無い石の祭壇に、スズメほどの大きさの緋色の鳥がとまっている。
 フェニックスの姿はゲームでも見たことがないけど、もしかしてあれがそうなの?
 私は近付いてみるが、緋色の鳥は逃げることはない。
「あの、すみません。貴方がフェニックスでしょうか?」
 鳥は私に目を向けた。
「その通りです。人間よ」
 緋色の鳥から女性的な声が発せられた。
「フェニックスってこんなに小さいのか?」
 スファルさまが少し呆気にとられたようだ。
「体の大小など私には関係ありません」
 すると、フェニックスの体が二メートル以上の大きさに変わり、炎がその体から噴出した。
 それに伴い、フェニックスから強い力が感じられた。
 白剣歯虎ホワイトサーベルタイガー並みの力を。
「わ、分かった。もう分かったから」
 スファルさまが後退る。
「分かっていただけてなによりです」
 フェニックスは元の小鳥ほどの大きさに戻る。
「貴女に聞きたいことがあります」
「なんでしょう?」
「この島の人たちは魔王バルザックの支配を受け入れているようですが、それは貴女の言葉に従っているからですか?」
「そうとも言えるかもしれません。私が魔王バルザックに協力を申し出たので、そのことを彼らに話しました。それで島民は魔王に従っていると考えられます」
 魔王バルザックに協力を申し出た?
「貴女から魔王バルザックに協力すると言ったのですか? 魔王から貴女に脅迫や取り引きをしたのではなく?」
「そのとおりです。私から魔王に協力すると申し出たのですよ」
「そんな……どうしてそんなことを? 貴女は自然と生命の調和を司る存在。それなのに、魔王や魔物が人間を滅ぼすことに協力するなんて」
「貴女は誤解しています。いえ、早とちりと言った方が良いでしょうか。
 魔王バルザックは人間を滅ぼすわけではありません。支配しようとしているのです。人間世界を征服した後、彼女は人間を自分の民として庇護するでしょう」
 ラーズさまが前に出て、
「魔王バルザックは人間を滅ぼさない。だから、魔王による世界制覇に協力するというのか?
 しかし、それでも疑問はある。なぜ貴女は魔物に加担する。自然と生命の調和を司る存在と言うなら、どちらか一方の勢力に与するとこと自体おかしいじゃないか」
「なにも不自然なことはありません。私が魔王に協力を申し出たのは、このままでは魔物が人間によって滅ぼされるからです。
 種の絶滅は、自然淘汰という法則の下 以外では、在ってはならないこと。しかも魔物は一つの種というわけではありません。多くの種族から成り立っているのです。その多くの種を人間は絶滅させようとしている。
 勇者シュナイダーが冒険者組合を組織したことによって、それは よりいっそう現実的となったのです」
 私は反論を試みる。
「でも、魔物は人間を襲って殺しています。人間はそれに対して戦っているのですよ」
「その通りです。人間を襲い殺している魔物もいる。しかし、それは生きるためであり、目的もなく行っているのではありません。
 もちろん、人間が無抵抗で殺されろと私は言っているのではありません。自分の命や家族、友を守るために戦う。それも自然のあり方の一つであり当然の事です。だから私は人間が魔物を殺すことを非難するつもりはありません。
 ですが、それを言うなら、人間に殺されそうになっている魔物が、自らの命や家族、友のために戦うことも、また自然であり当然のことなのですよ。
 全ての生命は他の生命を殺し奪い食べることで生きています。それは人間も魔物も、あらゆる生命に共通すること。人間という一つの種だけを殺してはいけないなどという摂理は、自然には存在しません。人間が他の生命を奪うことで生きているならば、他の生命が人間の生命を奪って生きることもまた当然のことなのです。
 問題は調和です。人間は魔物を最後の一体も残らず滅ぼそうとしている。それも、人間と敵対している魔物だけではなく、人間に害を及ぼさない魔物も、人間とは無関係の魔物も、全てを。
 そう遠くない将来、それは現実となる。それを私は見過ごせない。見過ごすわけにはいかない。起源の竜オリジンドラゴンが私に与えた使命は、自然と生命の調和。それを乱すことは私は許さない。そのために私は、魔王バルザックに協力を申し出た」
 起源の竜。
 世界の全てを創った創造主。
 神々もまた起源の竜が創り上げた者だ。
 その意思の代弁者であるフェニックスが、魔王バルザックによって人間が支配されるのを認めるばかりか、協力までしている。
 自然と生命の調和のために。
「さあ、これでもう分かったでしょう。貴方たちはお帰りなさい。島民には私から見逃すように言っておきます。自分の命を無駄に捨てることはありません」
「あー! もう!」
 スファルさまが突然 叫んだ。
「ごちゃごちゃ小難しいことを並べたてやがって! どっちにしろ人間と魔物の戦いは避けられないんだろ! そうなれば俺と同じ人間が大勢死ぬことになる! だったら やる事は一つだ!」
 そうだ、スファルさまの言うとおりだ。
 なにを考えていたんだろう。
 魔王バルザックの世界制覇が進めば、いつかは人間と魔物の全面戦争になる。
 そうなれば、私たちと同じ人間もたくさん死ぬことになるんだ。
 今まで出会った人たちも死ぬかもしれないんだ。
 そんなこと止めないと。
 フィニックス自身 言っていた事だ。
 自分の命や家族、友達のために戦うのは自然で当然のことだって。
 なら、私たちが魔王バルザックを止めるのも、当然のことのはず。
「業炎の剣ピュリファイアはどこだ!? 元々俺たちはそいつを手に入れるためにこの島に来たんだ!」
「やはり、剣が目的でしたか。……業炎の剣ピュリファイアは祭壇の下に封じてあります」
「なら そいつを持っていく!」
「魔王バルザックは、聖女とそれに付き従う勇者たちが、剣を求めてここに来るだろうと話していました。魔王である自分を打ち滅ぼす武器を手に入れるために。
 ですが、貴方たちは聖女でも勇者でもありませんね。貴方たちは普通の人間です。ならば、魔王と戦う理由などないでしょう。つまり、剣を求める理由もないはず」
「魔王と戦う理由は大勢の人間を殺そうとしているってことで充分なんだよ! だから俺たちは魔王の世界制覇を止める! そのために剣を手に入れる! それだけだ!」
「それは私が許しません」
 フェニックスの体が五メートル以上の大きさに変化し、全身から灼熱の炎が噴き上がった。
 先程の時より、強い力を感じる。
 ヴィラハドラよりも、白剣歯虎ホワイトサーベルタイガーよりも、クラーケンよりも強い。
「私の力がわかったでしょう。このまま大人しく帰りなさい。今なら見逃してあげます。これは最後の警告です」
 スファルさまが抜刀する。
 続けてセルジオさま、キャシーさんも剣を抜く。
 ラーズさまも半身になって拳を構える。
 そして私も細剣レイピアを抜いた。
「引きさがるつもりはありませんか。わかりました。戦うとしましょう。
 戦う前に良い事を教えてあげましょう。私は最近 再生したばかりで、本来の力はまだ完全に戻っていません。冒険者組合の規定で言えばランクSSと言ったところ」
 ランクSS。魔王と同じ。
「貴方達が真に強き者であるならば、私を倒すことができるかもしれません。私を倒せば、業炎の剣ピュリファイアを手に入れることができますよ。
 貴方達が私を倒すことができるか、それとも私に貴方達が滅ぼされるか。勝った方が人間と魔物の命運を決める」
 私は言い返す。
「それは力の強い者が正義みたいな言い方ではありませんか!?」
「弱肉強食は自然の摂理の一つです」
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