恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ

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6 それぞれの夜

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「あ! やっと帰って来た! どこに……俺はたまたま外にいただけなんだけど、ベルタはどこに行ってたんだよ」

 ペタッとアルビンの頬に触れると、アルビンは驚いたまま固まっていた。

「冷たいじゃない。ほら早く入ろ。お腹空いちゃった。……アルビン?」

 全く動かなくなってしまったアルビンの腕を引っ張ると、まだ見慣れない大きな屋敷へと入って行った。

「やっと来たな二人共! 今日はとことん飲んで食って騒ぐんだ! ここから俺達オーア演劇団の快進撃が始まるぞ――!」

 手に持っていた酒が溢れる程に互いにグラスを打ち鳴らした。

「団長念願の事件物の演目が許されましたもんね! 恋愛だけじゃないなんて嘘みたいだ。いや恋愛物が嫌だって言っているんじゃないですよ? でも恋愛物だとどうしても脇役に徹するっていうか、あまり出番がないじゃないですか」

 一人の団員がもごもごとそう言うと、野次が四方八方から飛んできた。

「そりゃお前の顔面力の問題だろ。恋愛物だとお前は絶対に主人公の相手役には選ばれないからな!」
「何を! 俺の持ち味は顔以外なんだよ! 見よ、この鍛えられた体を!」

 どこかで取っ組み合いの喧嘩になっても誰も止めないのは、誰もが浮かれ期待と不安で高揚しているからだろう。すでにあちこちでは笑い声が上がり始めていた。

「おめでとう。夢が叶ったのね」

 クヌートの隣りに座ると、調子に乗ると思ったクヌートはどこか落ち込んでいるようだった。

「嬉しくないの?」
「嬉しいさ。でもほら、あれだ。カミラがいないから嬉しさも半減っていうか、カミラがそばにいて初めて俺は大喜びが出来るって訳だよ。だから今回は予行練習って事でよろしく!」
「王族に呼ばれたのに予行練習だなんて不敬罪で捕まるわよ」

 するとクヌートはびくりと体を震わせた。

「もう! 本当にどうしちゃったの? それならカミラに手紙を書いたらどう?」
「もう書いたよ。七通」
「七通!? ここに着いてまだ一日よ!」

 呆れ半分、羨ましさ半分にクヌートの肩を気遣うように叩いた。


✳✳✳✳✳


 暗い廊下に執務室から光が溢れている。見回りをしていた騎士はそっと扉を押し開いた。

「ヘイデンスタム騎士団長、まだお帰りになられないのですか?」
「すまない、もう……」

 とっさに書類を裏返したニルスは、入って来た者の顔を見るなり背もたれに寄り掛かった。

「なんだカイか。脅かすなよ」
「何を隠したんだよ! 見せてみろ」
「止めろ! 機密事項だ」

 伸ばし掛けていた手をヒュッと引っ込めると、ケイン・ミラードはつまらなそうに口を尖らせた。騎士団副団長で、ミラード子爵の次男であるカイはニルスの幼馴染でもあった。

「そろそろ施錠するぞ。どれくらいで出られる?」
「すぐに出られるさ。遅くまでご苦労だったな。副団長」
「なんのなんの、団長のお忙しさには及びませんよ」

 暗い廊下を冗談を言い合いながら歩き出した。
 遠くから笑い声や陽気な音楽が風に乗って聞こえてくる。ニルスは足を止めるとその音に耳を澄ませた。

「ああ、そういえばお前の別邸を呼び寄せた劇団に貸したんだって? お前がそんなに演劇好きとは知らなかったよ。でもこんな所まで聞こえてくるなんて随分と騒がしいな。俺が注意して来ようか?」
「問題ないさ。それに王妃様が招致したのだから暫く自由にしよう」
「王妃様もいくら演劇が見たいからって、わざわざ王立演劇場を造って呼び寄せるなんて凄い事をお考えになるよ」
「でも王都の民は大喜びだ。随分人気があるみたいだな」
「ベアトリスも興味津々だったよ。今からせっつかれるのが目に見えてる。お前一緒に観に行って来たらどうだ? きっと物凄く喜ぶぞ」
「……まぁ、考えておくよ」
「こりゃ行かないな。ベアトリスちゃん可哀想」
「勝手に変な呼び方をするな。私はこのまま屋敷に戻るがお前はどうする?」

 するとカイは大きく伸びながらメキメキを体を鳴らした。

「このまま宿舎に行くよ。帰るの面倒だし明日の朝も早いしさ」
「そうか、あまり無理はするなよ。それじゃあ明日」

 カイの腕を叩いたニルスは疲れた顔で厩舎へと歩いて行った。
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