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10 今でもまだ好きな人
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「男って分からないもんだね」
メロは衣装に着替え、舞台袖から観客席を見ていた。上を見ている視線の先には、この間の宣言通りにニルスが連日公演を見に来ていた。
「話の流れ的にどう聞いてもベルタに未練があると思っていたのに、今の恋人と観に来るかな」
メロが拒否反応を示すのも無理はない。ニルスは確かに公演を観には来たが、その隣りには必ず同じ女性が共にいた。
「でも綺麗な人よね。それに仲よさげで羨ましい」
女性はニルスに甘えているのか、腕を触ったり楽しそうに話し掛けたりしている。ニルスは至って真顔のようだったが、それでも邪険にする事はないようだった。
「だから言っているじゃない。私達は七年も前に終わっているの。そもそもニルスは結婚していてもおかしくないのよ。そうじゃなくても婚約者くらいいるわよきっと。お貴族様なんだから」
嫌味になってしまったのは分かっていたが、嫌な言葉は更に外に出たそうに喉のすぐそこまでせり上がってきていた。
「ベルタ! ちょっとこっちに来てくれないか?」
公演が終わり、後片付けもそろそろ終盤という頃に、クヌートはちょいちょいと手招きをしてきた。演劇場には幾つかの応接間や客間が設けられている。その一つを団長部屋にしていたクヌートは、まるでこの演劇場の支配人のように振る舞っていた。二階の応接間に呼ばれたベルタは疲れと公演前に見たニルスの光景で今だに苛々が収まらず、そのままの勢いで部屋へと入っていった。
「お前に会いたいとわざわざ足を運んで下さったんだ」
するとクヌートは、“俺、空気読めるから”と言わんばかりに部屋を出て行ってしまった。
部屋の中にいたのはなんとニルス本人だった。
「公演は観に来ていたんだけど中々会いに来る事が出来なくて、今日ようやく時間が取れたんだ」
「何か用があったの?」
しまったと思ったがもう遅い。ニルスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに温和な表情に戻っていた。いや、気のせいでなければ少し緊張を孕んでいるようにも見える。その緊張が移り、ベルタは所在なく身を捩った。
「実は、今日は確かめたい事があってね」
「確かめたい事?」
「僕と君はすれ違いで七年という歳月が流れてしまったけれど、別れてはいないよな?」
「え?」
「だから、別れ話はしていないと思って。だから君は今でも僕の恋人だと思ってもいいかな?」
頭が真っ白になった後、全力で首を振っていた。
「ちょっと待って! 私達はもう七年も前に終わっているのよ?」
驚いた顔はニルスも同じだった。
「でも別れ話はしていないし、僕はずっと君を想っていたんだ。もしかして離れている間に恋人がいた? 例えば……劇団で一番人気の彼とか」
「アルビンの事? 誤解よ! アルビンは弟みたいなものだもの!」
するとしょげていた表情が一気に明るくなった。その表情を観た瞬間に胸が甘く締め付けられてしまう。そんな事でいちいちまだこの心は反応するのだと思い知らされてしまう。しかしすぐに、共にいる女性の存在を思い出してしまっていた。
いつまで経っても前に進めない自分では駄目なのだ。
「ニルス、私達はもう終わったのよ」
「僕が嫌いになった?」
「あなたの事は今でも大切に想っているわ。家の事も感謝している。でももう恋人じゃないのよ。……心からあなたの幸せを願っているわ」
静かに部屋を出ていくニルスを引き止めないように、ソファの背もたれをきつく握り締めていた。
「あなたがただのニルスなら良かったのに……。でもあなただから出会って好きになったのよね」
「ヘイデンスタム団長! すぐに城にお戻り下さい!」
劇場を出てすぐに騎士達がニルスを迎えに来ていた。集まっていた者達は何事かと道を開けていく。ベアトリスを先に返した為、馬車が戻ってくるまでの間ここで待つつもりだった。
「何事だ?」
「陛下がお呼びです」
騎士はそれだけ言うと口と閉じた。ニルスは団員を掴まえると戻ってくる屋敷の使用人へ伝言を頼み、すぐに騎士団の馬車に乗り込んだ。
メロは衣装に着替え、舞台袖から観客席を見ていた。上を見ている視線の先には、この間の宣言通りにニルスが連日公演を見に来ていた。
「話の流れ的にどう聞いてもベルタに未練があると思っていたのに、今の恋人と観に来るかな」
メロが拒否反応を示すのも無理はない。ニルスは確かに公演を観には来たが、その隣りには必ず同じ女性が共にいた。
「でも綺麗な人よね。それに仲よさげで羨ましい」
女性はニルスに甘えているのか、腕を触ったり楽しそうに話し掛けたりしている。ニルスは至って真顔のようだったが、それでも邪険にする事はないようだった。
「だから言っているじゃない。私達は七年も前に終わっているの。そもそもニルスは結婚していてもおかしくないのよ。そうじゃなくても婚約者くらいいるわよきっと。お貴族様なんだから」
嫌味になってしまったのは分かっていたが、嫌な言葉は更に外に出たそうに喉のすぐそこまでせり上がってきていた。
「ベルタ! ちょっとこっちに来てくれないか?」
公演が終わり、後片付けもそろそろ終盤という頃に、クヌートはちょいちょいと手招きをしてきた。演劇場には幾つかの応接間や客間が設けられている。その一つを団長部屋にしていたクヌートは、まるでこの演劇場の支配人のように振る舞っていた。二階の応接間に呼ばれたベルタは疲れと公演前に見たニルスの光景で今だに苛々が収まらず、そのままの勢いで部屋へと入っていった。
「お前に会いたいとわざわざ足を運んで下さったんだ」
するとクヌートは、“俺、空気読めるから”と言わんばかりに部屋を出て行ってしまった。
部屋の中にいたのはなんとニルス本人だった。
「公演は観に来ていたんだけど中々会いに来る事が出来なくて、今日ようやく時間が取れたんだ」
「何か用があったの?」
しまったと思ったがもう遅い。ニルスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに温和な表情に戻っていた。いや、気のせいでなければ少し緊張を孕んでいるようにも見える。その緊張が移り、ベルタは所在なく身を捩った。
「実は、今日は確かめたい事があってね」
「確かめたい事?」
「僕と君はすれ違いで七年という歳月が流れてしまったけれど、別れてはいないよな?」
「え?」
「だから、別れ話はしていないと思って。だから君は今でも僕の恋人だと思ってもいいかな?」
頭が真っ白になった後、全力で首を振っていた。
「ちょっと待って! 私達はもう七年も前に終わっているのよ?」
驚いた顔はニルスも同じだった。
「でも別れ話はしていないし、僕はずっと君を想っていたんだ。もしかして離れている間に恋人がいた? 例えば……劇団で一番人気の彼とか」
「アルビンの事? 誤解よ! アルビンは弟みたいなものだもの!」
するとしょげていた表情が一気に明るくなった。その表情を観た瞬間に胸が甘く締め付けられてしまう。そんな事でいちいちまだこの心は反応するのだと思い知らされてしまう。しかしすぐに、共にいる女性の存在を思い出してしまっていた。
いつまで経っても前に進めない自分では駄目なのだ。
「ニルス、私達はもう終わったのよ」
「僕が嫌いになった?」
「あなたの事は今でも大切に想っているわ。家の事も感謝している。でももう恋人じゃないのよ。……心からあなたの幸せを願っているわ」
静かに部屋を出ていくニルスを引き止めないように、ソファの背もたれをきつく握り締めていた。
「あなたがただのニルスなら良かったのに……。でもあなただから出会って好きになったのよね」
「ヘイデンスタム団長! すぐに城にお戻り下さい!」
劇場を出てすぐに騎士達がニルスを迎えに来ていた。集まっていた者達は何事かと道を開けていく。ベアトリスを先に返した為、馬車が戻ってくるまでの間ここで待つつもりだった。
「何事だ?」
「陛下がお呼びです」
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