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番外編② あの頃の二人
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(深呼吸するのよブリジット、あなたならやれるわ。大丈夫、大丈夫、大丈夫!)
聖女に選ばれ早数ヶ月。今日は聖女に選ばれた時の何倍もの緊張に押し潰されそうになっていた。
「聖女様、お開け致しますが宜しいですか?」
「あの! 中に本当に王子様がいらっしゃるんですよね?」
すると騎士は僅かに目を見開いた後、ふっと目元を綻ばせた。
「ご心配には及びませんよ。リアム殿下はとてもお優しいお方です」
「で、ですが、先日の視察途中でも偶然出くわした盗賊達をお一人で倒してしまったと聞きました」
「それは元々盗賊如きが殿下に敵うはずがないからです。といっても本来なら殿下ではなく同行していた兵士が戦わなくてはならなかったのですが」
「こ、怖くないという事でしょうか?」
「はい、怖くありません」
ブリジットは胸の前で両手を組むと、震えを押さえるようにして頷いた。
「分かりました。大丈夫ですから開けて下さい!」
意を決して顔を上げると、目の前の扉が開いていく。謁見の場所は王の間ではなく応接室。そして部屋の中にいたのは、絵画を切り取ったような姿の第一王子だった。
窓から差し込む光に照らされてこちらを振り見たリアムに固まってしまう。しかしそれは向こうも同じだったようで、暫く見つめ合う形になってしまった。
「リアム殿下、聖女ブリジット様ございます」
気を効かせた騎士がそう告げると、リアムは我に返ったようにこちらに歩み寄ってくる。近くで見れば見る程に輝いて見えるのはその髪色のせいだろうか? いや、きっと今が夜だったとしても同じように見えたに違いない。それくらいにリアムは完璧な王子様だった。
「初めまして聖女ブリジット。第一王子のリアム・クラウンだ」
「ブリジットと申します。お会い出来て光栄です。リ、リアム殿下」
「あなたは聖女なのだからリアムでいいぞ」
「……それではリアム様、宜しくお願い致します」
ブリジットは頬を赤く染めてそう言うと、リアムの頬も同じように染まって見えた。
「そうです、ここをこうして……」
初めての出会いからというもの、リアムは時間を作っては神殿に会いに来てくれた。いつ惹かれたのかと聞かれれば出会った瞬間だったと思う。そして会う度にリアムへの想いは膨らんでいった。
二人で過ごしている時は、神殿での暮らしの話や好きな食べ物の話、そして昔孤児院にいる時に遊んだ手影絵を教えたりした。リアムは意外と不器用だった。
「本当にこれが兎に見えるのか?」
「見えますよ! 暗くなったらやってみてください。可愛らしい兎が浮かび上がるはずですから。でもここをもう少し丸くしないと……」
リアムの硬い手をぎゅっと握った時だった。間近で視線がかち合う。そして握っていたはずの手は気が付くと握り返されていた。
「リアム様!?」
「私と結婚してくれないだろうか」
突拍子もない言葉に固まっていると、顔を真赤にしたリアムが今度は両手で手を握ってきた。
「突然な事は分かっている! まだ付き合いが浅い事も承知だ。でもお前を誰にも渡したくない。私はもうブリジット以外は考えられないんだ!」
「それは私に好意を持っているという事でしょうか?」
「当たり前だろ! いや、焦るあまり順番を間違ってしまったのは私の方だな。……ブリジット、君を愛している。聖女としてこの国を救う姿も、こうして二人でいる時の素直な姿も」
ブリジットは言葉にならない代わりに何度も頷いた。リアムの顔が近付いてくる。しかしブリジットはギュッと目を瞑って下を向いてしまった。すると頭上で優しい笑い声が聞こえ、額に柔らかい物が押し当たった。
「ゆっくり進めていこう。私達はこれからずっと共にいるんだから」
ぎこちなく体を抱き締められ、ブリジットはそっとその胸に頬を寄せた。
聖女に選ばれ早数ヶ月。今日は聖女に選ばれた時の何倍もの緊張に押し潰されそうになっていた。
「聖女様、お開け致しますが宜しいですか?」
「あの! 中に本当に王子様がいらっしゃるんですよね?」
すると騎士は僅かに目を見開いた後、ふっと目元を綻ばせた。
「ご心配には及びませんよ。リアム殿下はとてもお優しいお方です」
「で、ですが、先日の視察途中でも偶然出くわした盗賊達をお一人で倒してしまったと聞きました」
「それは元々盗賊如きが殿下に敵うはずがないからです。といっても本来なら殿下ではなく同行していた兵士が戦わなくてはならなかったのですが」
「こ、怖くないという事でしょうか?」
「はい、怖くありません」
ブリジットは胸の前で両手を組むと、震えを押さえるようにして頷いた。
「分かりました。大丈夫ですから開けて下さい!」
意を決して顔を上げると、目の前の扉が開いていく。謁見の場所は王の間ではなく応接室。そして部屋の中にいたのは、絵画を切り取ったような姿の第一王子だった。
窓から差し込む光に照らされてこちらを振り見たリアムに固まってしまう。しかしそれは向こうも同じだったようで、暫く見つめ合う形になってしまった。
「リアム殿下、聖女ブリジット様ございます」
気を効かせた騎士がそう告げると、リアムは我に返ったようにこちらに歩み寄ってくる。近くで見れば見る程に輝いて見えるのはその髪色のせいだろうか? いや、きっと今が夜だったとしても同じように見えたに違いない。それくらいにリアムは完璧な王子様だった。
「初めまして聖女ブリジット。第一王子のリアム・クラウンだ」
「ブリジットと申します。お会い出来て光栄です。リ、リアム殿下」
「あなたは聖女なのだからリアムでいいぞ」
「……それではリアム様、宜しくお願い致します」
ブリジットは頬を赤く染めてそう言うと、リアムの頬も同じように染まって見えた。
「そうです、ここをこうして……」
初めての出会いからというもの、リアムは時間を作っては神殿に会いに来てくれた。いつ惹かれたのかと聞かれれば出会った瞬間だったと思う。そして会う度にリアムへの想いは膨らんでいった。
二人で過ごしている時は、神殿での暮らしの話や好きな食べ物の話、そして昔孤児院にいる時に遊んだ手影絵を教えたりした。リアムは意外と不器用だった。
「本当にこれが兎に見えるのか?」
「見えますよ! 暗くなったらやってみてください。可愛らしい兎が浮かび上がるはずですから。でもここをもう少し丸くしないと……」
リアムの硬い手をぎゅっと握った時だった。間近で視線がかち合う。そして握っていたはずの手は気が付くと握り返されていた。
「リアム様!?」
「私と結婚してくれないだろうか」
突拍子もない言葉に固まっていると、顔を真赤にしたリアムが今度は両手で手を握ってきた。
「突然な事は分かっている! まだ付き合いが浅い事も承知だ。でもお前を誰にも渡したくない。私はもうブリジット以外は考えられないんだ!」
「それは私に好意を持っているという事でしょうか?」
「当たり前だろ! いや、焦るあまり順番を間違ってしまったのは私の方だな。……ブリジット、君を愛している。聖女としてこの国を救う姿も、こうして二人でいる時の素直な姿も」
ブリジットは言葉にならない代わりに何度も頷いた。リアムの顔が近付いてくる。しかしブリジットはギュッと目を瞑って下を向いてしまった。すると頭上で優しい笑い声が聞こえ、額に柔らかい物が押し当たった。
「ゆっくり進めていこう。私達はこれからずっと共にいるんだから」
ぎこちなく体を抱き締められ、ブリジットはそっとその胸に頬を寄せた。
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