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39 大精霊の力
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ハイスは床に手を突くと何度も荒く呼吸した。無意識に息を止めていたらしい。汗が全身から吹き出している。夢はあの世界の方だった。まだ震える両手を強く握ると頬を叩いて立ち上がった。
「これが邪気に飲まれるという事なのか」
悪夢は覚めた今もなお背後から迫ってきている。ハイスは剣を振りながら邪気を斬り、手当たり次第に辺りを確認した。その時、倒れている聖騎士を見つけた。
「おい! しっかりしろ、邪気に飲まれるな!」
しかし聖騎士の身体はみるみるうちに真っ黒になっていき、やがて飲まれていった。
「誰かいないか? 意識のあるものはいないか!」
「……ハイス様?」
声は小さくしか聞こえない。それでもその声を聞き間違えるはずはなかった。
「ブリジット様! どこにおられるのですか!」
「こ、です……」
「ブリジット様!」
「ここ、ハイス様」
慎重に剣を動かしながら辺りを斬った先、ブリジットは意外と近くに座り込んでいた。その膝には顔面蒼白のリアムを抱えていた。
「殿下! 何があったのですか!」
駆け寄るとブリジットは首を振って涙を流していた。
「大丈夫、もう大丈夫ですから。取り敢えずここを出ましょう。陛下はどちらに?」
「……陛下は、邪気に飲まれてしまいました」
「他の者は?」
「分かりません。ダニエル王子が暴走したように見えました。でもすぐにこのように視界を奪われてしまい、すみません」
「待って下さい。これはダニエル王子のせいなのですか?」
ブリジットは相当消耗しているようだった。もう聖女ではないブリジットがこの邪気の中でも意識を保っていられたのには奇跡だったが、猶予は残されていないようにも思えた。
「私が殿下を担ぎます。私の服を掴んで離さないで下さい」
コクコクと頷くブリジットの頭を撫でると、リアムをそっと背中に背負った。意識はないが小さく呻いた声に安堵する。だがおびただしい血の量からするに、一刻の猶予もないように思えた。
――出口が分からないから仕方ないか。
「取り敢えず前を剣で斬りながら壁まで行きます。そこから壁伝いに出口に向かいます。歩けますか?」
「私は大丈夫です。でも、でもリアム様が……」
服を掴んでいる手が震えている。
「なんとしても助けてみせます」
「ハイス様の事はいつも信じています」
そして剣を一振りした先、合間に映ったのはマチアスだった。再び黒い靄によって姿が見えなくなる。しかし一瞬見えたその顔はこちらを向いていた。
「あ、あぁ」
尋常ではない程の震えを起こしながらブリジットが呻き出す。
「マチアス殿下も駄目です!」
「マチアス殿下もいらっしゃるならお助けしないと」
「やっぱり神官長はお優しい人だよね。だから精霊に選ばれたのかな?」
声はすぐ耳元でした。次第に邪気が晴れていく。そして黒い靄が一気に集まっていったのは、王座に座るダニエルの口の中だった。全ての邪気を飲み込んだダニエルは真っ直ぐにこちらを見ていた。
「ほら立派なお姿でしょう? 新しい国王陛下のお誕生ですよ」
小さなダニエルは王座に座ると足が床に付いていない。それでもそこから放たれる尋常ではない圧力に、ハイスはずるりと片膝を突いていた。背負っていたリアムが肩から落ちかける。ブリジットが支えながら床に横たえさせた。
邪気の晴れた王の間は人の気配がほとんどなくなっていた。出口の近くで放心したままのリリアンヌと、少し離れてローレン伯爵と官僚がいるのみ。マチアスだけが自由に王の間を平然と歩いている。状況を飲み込んだ先、行き着いた答えにハイスはマチアスを見上げた。
「まさかあなたが全ての元凶なのか?」
「酷い事を言ってくるね。僕が元凶だって? 冗談じゃない」
後ろに手を組みながらコツコツと踵を鳴らしながら動かないリリアンヌの側にいく。そして長い髪にさらりと触れた。
「元凶はお前らだろう」
鋭い視線が王の間にいる者達を射抜いた。
「ここは欲に塗れている。権力と暴力と情欲に満ちている。権力の為に人を欺き殺し、弱者に平然と暴力を振るい、己の欲望のままに色を貪る。恨みは晴らされる事なく、澱としてその足元に溜まり続けていく。邪気を生み出しているのはお前達自身だ。自らの業に飲まれる姿は実に滑稽だったよ!」
ハイスは背中にブリジットとリアムを庇うようにしてマチアスを睨みつけた。
「確かにあなたの生い立ちには同情する部分があります。ダニエル王子にもです。でもだからと言って許される事ではないと分かりませんか?」
「国王が罪を犯した場合、誰がその罪を問う? それ以上の権力者がいない以上裁かれる事はないじゃないか。精霊は何もしてやくれない。僕が祈っても祈っても祈っても助けてはくれなかった! そしてその代わりに声を返してくれたのは、この力だったんだよ」
「城に溜まりに溜まった恨みがあなたの祈りに反応したという事か。邪気に魅せられてしまったようですね」
「母様が耳元でずっと囁くんだ。“復讐して”ってね」
立ち上がると剣を構えた。マチアスは逃げる様子もなく笑っている。するとマチアスの前で黒い蠢く物が床から躍り出てきた。身体の輪郭は揺らめき、漆黒の顔で牙を向く。飛びかかってそれをハイスは剣で受け止めるのが精一杯だった。尋常ではないその重さに足が絨毯を滑っていく。その時、後ろからブリジットが剣を持つハイスの手に重ねてきた。重かった剣が少しずつ押し返されていく。そして横に弾いた黒く蠢く物は飛び退くように後ろに下がった。
「ブリジット様、力が戻られたのですか!」
するとブリジットはポケットの中から石を取り出した。
「精霊様のお力です」
「見つけられたのですね!」
「リアム様のおかげです」
今にも泣きそうな顔でブリジットは横たわるリアムを見た。
「でもこれでは到底あの本体を祓う事は出来ません。八年前に私が祓った邪気とは比べ物にならない程だと、ハイス様ならお分かりですよね!?」
王座に座るダニエルは微動だにしない。邪気が肉体を得てしまった。本来なら飲み込まれやがて死んでしまうのに、ダニエルはそこに存在し続けている。どれほどの悪夢を見続けているのか、考えるだけでもゾッとしてしまう。そして感じるのは圧倒的は負の力だった。
「その石を私にお預け頂けますか?」
ブリジットは一瞬躊躇ったが、そっとハイスの握り締めている手の間に押し込んだ。その瞬間、黒く蠢く物が再び飛び掛かってくる。とっさに振った剣は蠢く物を振り払い、マチアスの方に飛んでいく。その瞬間、マチアスはリリアンヌの髪を掴んで前に持ち上げた。黒く蠢く物はリリアンヌを避けるように地面に落ちた。
「こっちに来るな! ちゃんと仕留めろ!」
しかしゆらりと起き上がった黒く蠢く物はハイスの方向ではなく、マチアスに向き直った。とっさにダニエルを見るマチアスの目が怯えていく。ブリジット達も王座の方に目を向けると、座っていたダニエルはいつの間にか立ち上がりマチアスを睨みつけていた。
「違う! リリアンヌは生きているよ、ほら!」
マチアスが慌ててリリアンヌから手を離すと、何本もの長い髪が抜け落ちた。その手に黒く蠢く物が噛み付く。そこからじわじわと侵食されていくマチアスは、のたうち回りながら黒いしみをこそげ取ろうとしていた。
「……めんなさい。母様、ごめんなさい!」
全身が真っ黒に覆われたマチアスは、それでもまだ小さく口を動かしていた。
「お父様を連れて来れなくて、ごめんなさ……」
動かなくなったマチアスは床に出来た黒いしみにとぷんと飲まれて消えていった。ハイスは蠢く黒い物に剣を振り下ろして真っ二つにした。姿は一瞬にして立ち消えたのち、耳をつんざくような悲鳴が王座から上がった。ダニエルの身体からはなぜか血が流れている。そして息を荒げながらこちらを睨みつけていた。
「まさか邪気を斬る毎にダニエル王子の身体も傷ついてしまうのか?」
邪気の禍々しさはダニエルから伝わってくる。それでも目に映るのは幼い少年の姿なのだ。ハイスは躊躇ってしまった。すると剣から光が失われていく。
「何をしている! 早くそいつを殺してくれ!」
錯乱しているローレン伯爵が叫んだ瞬間、黒い影が伸びてローレン伯爵の足を絡め取った。そのまま引き摺られてダニエルの足元に連れて行かれる。
「ヒッ! わ、私は祖父だぞ! リリアンヌの父親なんだ! 私を殺せばリリアンヌが悲しむのだぞ!」
「……おじいさま?」
「そ、そうだ! 私はお前のおじいさまだ! 丁重に……」
その時、背後に一際大きな邪気の壁が現れた。
「母様は言ってました。自分の事を道具としてしか見ていない人が父親だって。だから自分も子の愛し方が分からないと」
「そんな事は……」
言い終わる前に黒い壁は音なくローレン伯爵を潰すように倒れた。
「ブリジット様、お一人でお逃げください。部屋を出れば神殿の者達が控えています」
「出来ません!」
「あなた一人では殿下を担ぐのは無理です。今は一人でも助かる道を」
「出来ません! 絶対にあなたを一人で戦わせはしません!」
涙を溜めながらブリジットが服にしがみついてくる。ハイスは思わず小さな笑みを浮かべてしまった。
「あの日を思い出しますね。あなたが大きな邪気の本体と対峙したあの時を」
「そんな事を言っている場合ではありません!」
「あの時、どれだけあなたの背中が頼もしく思えたか。そしてそんな背中に守られているだけの自分がなんと情けなく感じた事か」
「それは仕方のない事です、私は聖女だったのですから」
「関係ありません! 惚れた女性に守られるだけの自分が本当に悔しかった」
「惚れた?」
ハイスは一瞬振り向くと小さく、お許しください、と言ってブリジットの額に触れるか触れないかだけの口付けをした。
「行って下さい!」
ダニエルの周囲で黒い影が蠢き出す。また邪気で視界を奪われれば勝機はない。ハイスは剣を構えると走り出した。
「ブリジット――! お待たせぇ!」
気の抜けた声で王の間に入ってきたのは、ネリーだった。
手には大きなボウルを抱えている。たっぷり水が入っているのか、溢しながら走ってきた。
「ネリー!?」
「あ! ハイス様まだ生きてた!」
へらっと笑いながら絨毯に躓く。案の定、ボウルの水は辺りにぶち撒けられた。
「ネリー大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! 結果的にはね」
へへっと笑うと絨毯に広がった水溜まりを上機嫌に指差した。
「……全く、お前に任せるとろくな事がないな。もう少し綺麗な場所してほしかったんだが?」
水の中から出来てきたのは、白銀の長い髪をした長身の男だった。
「ウンディーネ様、どうしてここに!」
ブリジットは呆然としたまま、水溜りから出てきた精霊の姿を見つめた。
「我が妻が随分と奮闘しているようなのでな、とりあえず石を見つけた褒美をやろう」
「本当はブリジットが心配だったくせにぃ! 素直じゃないんだから」
通り過ぎざまネリーの頭をこつんと叩きながら、ウンディーネはブリジットの前で手を出した。
「え?」
「え、じゃない。早く石を出せ」
「えっと、石はハイス様にお渡ししました」
「私の物だぞ」
深い溜息をつきながら歩き出したウンディーネの前に黒い邪気が現れる。しかしウンディーネは邪魔くさそうに腕で祓うと黒い邪気は嘘のように消え去った。ダニエルは再び、今度は大きな壁のような邪気を出現させると、ウンディーネに向かって放った。しかしその壁もウンディーネの前では無力だった。ウンディーネの美しい着流しに埃ひとつ付ける事は叶わず、掌であしらわれると床に突っ伏して消えていく。
「すごい、これが精霊の力……」
ハイスは横に来たウンディーネを見上げた。無言のまま手が差し出される。我に返ったように石をその掌に乗せると、ウンディーネは躊躇いなくこくりと飲み込んだ。様子は何も変わっていない。それでもウンディーネは上機嫌にダニエルに近づいてく。そして怯えて座り込むダニエルの前に立った。
「ウンディーネ様! 殺さないでください!」
ブリジットはとっさに叫んでいた。怒る訳でも、呆れている訳でもない顔でウンディーネが振り返った。ただ分からないというように首を傾けた。
「これがいるとお前達は滅びるぞ」
「ダニエル王子は生まれる前から邪気の犠牲者なんです。どうかお願いします!」
「なんと甘い事を。これだけの事をしていて許すというのか」
「……私からも、お願い、いたし、ます」
声にとっさに振り向くと、意識を失っていたはずのリアムが顔を上げていた。
「リアム様! 良かった、本当に」
依然として危険な状態に変わらない。それでもリアムは血の気の引いた顔でじっとウンディーネを見つめた。
「これはお前の子ではないぞ。分かっているな? 不義の子だ」
「恨まれるのは、当然……」
そういうと再び意識を失ってしまった。
「リアム様!」
後ろからネリーが肩を掴んでくる。
「ブリジット、リアム殿下を助けたい?」
ブリジットは躊躇う事なく頷いた。
「ネリー、余計な事はするな」
「だってその石はリアム殿下がいたから見つかったんだよ。僕はウンディーネ様の代わりにお礼をするだけ」
ネリーはブリジットに向かって片目を瞑ってみせるとリアムの腰に手を当てた。
「……勝手にしろ」
「ウンディーネ様! 私からもお願い致します。ダニエル様をどうかお救い頂けませんか? 神殿に身を置く者としては邪気の本体を残すなどあってはならない事です。それでも、ダニエル様の運命はあまりに過酷過ぎます」
「だからこそ終わらせてやった方がいいとは思わないか?」
ハイスは一瞬考えてから首を振った。
「ダニエル様の生はまだ、始まってすらおりません」
「そうか。それなら……」
そう言うと扉から覗いていた者達に視線を向けたウンディーネは、人差し指を立てて来い、と合図を送った。扉にはいつの間にか水の膜が張ってあるようで、向こう側が歪んでいる。その奥にいたアレクは驚いたようにしながらも足を踏み出した。しかし水の膜に弾かれるように拒まれ、後ろに尻もちをついた。
「お前ではない。お前の主は別にいるだろう」
ウンディーネは真っ直ぐに一人の女を見ている。ルイーズはその視線を辿りながら、恐る恐るアマンダを見た。
「あなた、まさか聖女なの?」
アマンダは青ざめた顔をして首を振った。その場から逃げ出そうとするその腕を引き止めたルイーズは後ろに隠した。その間もダニエルは絶えずウンディーネへの攻撃を止めようとはしない。
「何かの間違いです! この子は聖女じゃありません!」
「今はまだ、な。聖女になるには何もかもがまだ幼い。だが今はそうも言っていられなくてな。直接我が力を仕えばこの者の身体は跡形もなく邪気と共に滅んでしまうだろう。力を調整する道具が必要だ」
苛立ち始めたウンディーネの掌がダニエルの額を掴む。邪気は放たれてもウンディーネの身体を取り巻く光に打ち消されていく。暴れるダニエルを掴む手に力が込められた。
「「ダニエル王子!」」
ブリジットとハイスの声が重なった時、アマンダはルイーズの手に触れてそっと外すと、水の膜に入っていった。
「アマンダ! 戻ってきて! 危険よ!」
アマンダは一瞬だけ振り向くと、怯えた表情で、それでもぎこちなく笑ってみせた。
「駄目よアマンダ!」
アマンダはウンディーネの元に行くと、じっとその姿を見つめた。
「そう怯えるな。取って食いはしない」
差し出された手に震えるアマンダの手が乗る。そしてダニエルを掴んでいた手をアマンダにすり替えた。アマンダの身体を経由してウンディーネの力がダニエルに流れ込んでいく。ブリジットは堪らずに走り出していた。
「ブリジット様!」
ハイスの横を通り過ぎてアマンダの手に自らの手を重ねた。
「私にはもう力はないけれど、私の方が使い慣れた道具ですよね?」
「ブリジット様、聖女ではないのにそれだけの大きな力を流せばお身体が危険です!」
ハイスの声が遠くに聞こえる。一瞬にして冷たい水に浸かったかのような寒気が走って意識が遠のく。勝手に震え出す身体をアマンダと共に寄せ合った瞬間、一際大きな激流が身体を通り過ぎていく。そして意識は共に流されるように途絶えていった。
「これが邪気に飲まれるという事なのか」
悪夢は覚めた今もなお背後から迫ってきている。ハイスは剣を振りながら邪気を斬り、手当たり次第に辺りを確認した。その時、倒れている聖騎士を見つけた。
「おい! しっかりしろ、邪気に飲まれるな!」
しかし聖騎士の身体はみるみるうちに真っ黒になっていき、やがて飲まれていった。
「誰かいないか? 意識のあるものはいないか!」
「……ハイス様?」
声は小さくしか聞こえない。それでもその声を聞き間違えるはずはなかった。
「ブリジット様! どこにおられるのですか!」
「こ、です……」
「ブリジット様!」
「ここ、ハイス様」
慎重に剣を動かしながら辺りを斬った先、ブリジットは意外と近くに座り込んでいた。その膝には顔面蒼白のリアムを抱えていた。
「殿下! 何があったのですか!」
駆け寄るとブリジットは首を振って涙を流していた。
「大丈夫、もう大丈夫ですから。取り敢えずここを出ましょう。陛下はどちらに?」
「……陛下は、邪気に飲まれてしまいました」
「他の者は?」
「分かりません。ダニエル王子が暴走したように見えました。でもすぐにこのように視界を奪われてしまい、すみません」
「待って下さい。これはダニエル王子のせいなのですか?」
ブリジットは相当消耗しているようだった。もう聖女ではないブリジットがこの邪気の中でも意識を保っていられたのには奇跡だったが、猶予は残されていないようにも思えた。
「私が殿下を担ぎます。私の服を掴んで離さないで下さい」
コクコクと頷くブリジットの頭を撫でると、リアムをそっと背中に背負った。意識はないが小さく呻いた声に安堵する。だがおびただしい血の量からするに、一刻の猶予もないように思えた。
――出口が分からないから仕方ないか。
「取り敢えず前を剣で斬りながら壁まで行きます。そこから壁伝いに出口に向かいます。歩けますか?」
「私は大丈夫です。でも、でもリアム様が……」
服を掴んでいる手が震えている。
「なんとしても助けてみせます」
「ハイス様の事はいつも信じています」
そして剣を一振りした先、合間に映ったのはマチアスだった。再び黒い靄によって姿が見えなくなる。しかし一瞬見えたその顔はこちらを向いていた。
「あ、あぁ」
尋常ではない程の震えを起こしながらブリジットが呻き出す。
「マチアス殿下も駄目です!」
「マチアス殿下もいらっしゃるならお助けしないと」
「やっぱり神官長はお優しい人だよね。だから精霊に選ばれたのかな?」
声はすぐ耳元でした。次第に邪気が晴れていく。そして黒い靄が一気に集まっていったのは、王座に座るダニエルの口の中だった。全ての邪気を飲み込んだダニエルは真っ直ぐにこちらを見ていた。
「ほら立派なお姿でしょう? 新しい国王陛下のお誕生ですよ」
小さなダニエルは王座に座ると足が床に付いていない。それでもそこから放たれる尋常ではない圧力に、ハイスはずるりと片膝を突いていた。背負っていたリアムが肩から落ちかける。ブリジットが支えながら床に横たえさせた。
邪気の晴れた王の間は人の気配がほとんどなくなっていた。出口の近くで放心したままのリリアンヌと、少し離れてローレン伯爵と官僚がいるのみ。マチアスだけが自由に王の間を平然と歩いている。状況を飲み込んだ先、行き着いた答えにハイスはマチアスを見上げた。
「まさかあなたが全ての元凶なのか?」
「酷い事を言ってくるね。僕が元凶だって? 冗談じゃない」
後ろに手を組みながらコツコツと踵を鳴らしながら動かないリリアンヌの側にいく。そして長い髪にさらりと触れた。
「元凶はお前らだろう」
鋭い視線が王の間にいる者達を射抜いた。
「ここは欲に塗れている。権力と暴力と情欲に満ちている。権力の為に人を欺き殺し、弱者に平然と暴力を振るい、己の欲望のままに色を貪る。恨みは晴らされる事なく、澱としてその足元に溜まり続けていく。邪気を生み出しているのはお前達自身だ。自らの業に飲まれる姿は実に滑稽だったよ!」
ハイスは背中にブリジットとリアムを庇うようにしてマチアスを睨みつけた。
「確かにあなたの生い立ちには同情する部分があります。ダニエル王子にもです。でもだからと言って許される事ではないと分かりませんか?」
「国王が罪を犯した場合、誰がその罪を問う? それ以上の権力者がいない以上裁かれる事はないじゃないか。精霊は何もしてやくれない。僕が祈っても祈っても祈っても助けてはくれなかった! そしてその代わりに声を返してくれたのは、この力だったんだよ」
「城に溜まりに溜まった恨みがあなたの祈りに反応したという事か。邪気に魅せられてしまったようですね」
「母様が耳元でずっと囁くんだ。“復讐して”ってね」
立ち上がると剣を構えた。マチアスは逃げる様子もなく笑っている。するとマチアスの前で黒い蠢く物が床から躍り出てきた。身体の輪郭は揺らめき、漆黒の顔で牙を向く。飛びかかってそれをハイスは剣で受け止めるのが精一杯だった。尋常ではないその重さに足が絨毯を滑っていく。その時、後ろからブリジットが剣を持つハイスの手に重ねてきた。重かった剣が少しずつ押し返されていく。そして横に弾いた黒く蠢く物は飛び退くように後ろに下がった。
「ブリジット様、力が戻られたのですか!」
するとブリジットはポケットの中から石を取り出した。
「精霊様のお力です」
「見つけられたのですね!」
「リアム様のおかげです」
今にも泣きそうな顔でブリジットは横たわるリアムを見た。
「でもこれでは到底あの本体を祓う事は出来ません。八年前に私が祓った邪気とは比べ物にならない程だと、ハイス様ならお分かりですよね!?」
王座に座るダニエルは微動だにしない。邪気が肉体を得てしまった。本来なら飲み込まれやがて死んでしまうのに、ダニエルはそこに存在し続けている。どれほどの悪夢を見続けているのか、考えるだけでもゾッとしてしまう。そして感じるのは圧倒的は負の力だった。
「その石を私にお預け頂けますか?」
ブリジットは一瞬躊躇ったが、そっとハイスの握り締めている手の間に押し込んだ。その瞬間、黒く蠢く物が再び飛び掛かってくる。とっさに振った剣は蠢く物を振り払い、マチアスの方に飛んでいく。その瞬間、マチアスはリリアンヌの髪を掴んで前に持ち上げた。黒く蠢く物はリリアンヌを避けるように地面に落ちた。
「こっちに来るな! ちゃんと仕留めろ!」
しかしゆらりと起き上がった黒く蠢く物はハイスの方向ではなく、マチアスに向き直った。とっさにダニエルを見るマチアスの目が怯えていく。ブリジット達も王座の方に目を向けると、座っていたダニエルはいつの間にか立ち上がりマチアスを睨みつけていた。
「違う! リリアンヌは生きているよ、ほら!」
マチアスが慌ててリリアンヌから手を離すと、何本もの長い髪が抜け落ちた。その手に黒く蠢く物が噛み付く。そこからじわじわと侵食されていくマチアスは、のたうち回りながら黒いしみをこそげ取ろうとしていた。
「……めんなさい。母様、ごめんなさい!」
全身が真っ黒に覆われたマチアスは、それでもまだ小さく口を動かしていた。
「お父様を連れて来れなくて、ごめんなさ……」
動かなくなったマチアスは床に出来た黒いしみにとぷんと飲まれて消えていった。ハイスは蠢く黒い物に剣を振り下ろして真っ二つにした。姿は一瞬にして立ち消えたのち、耳をつんざくような悲鳴が王座から上がった。ダニエルの身体からはなぜか血が流れている。そして息を荒げながらこちらを睨みつけていた。
「まさか邪気を斬る毎にダニエル王子の身体も傷ついてしまうのか?」
邪気の禍々しさはダニエルから伝わってくる。それでも目に映るのは幼い少年の姿なのだ。ハイスは躊躇ってしまった。すると剣から光が失われていく。
「何をしている! 早くそいつを殺してくれ!」
錯乱しているローレン伯爵が叫んだ瞬間、黒い影が伸びてローレン伯爵の足を絡め取った。そのまま引き摺られてダニエルの足元に連れて行かれる。
「ヒッ! わ、私は祖父だぞ! リリアンヌの父親なんだ! 私を殺せばリリアンヌが悲しむのだぞ!」
「……おじいさま?」
「そ、そうだ! 私はお前のおじいさまだ! 丁重に……」
その時、背後に一際大きな邪気の壁が現れた。
「母様は言ってました。自分の事を道具としてしか見ていない人が父親だって。だから自分も子の愛し方が分からないと」
「そんな事は……」
言い終わる前に黒い壁は音なくローレン伯爵を潰すように倒れた。
「ブリジット様、お一人でお逃げください。部屋を出れば神殿の者達が控えています」
「出来ません!」
「あなた一人では殿下を担ぐのは無理です。今は一人でも助かる道を」
「出来ません! 絶対にあなたを一人で戦わせはしません!」
涙を溜めながらブリジットが服にしがみついてくる。ハイスは思わず小さな笑みを浮かべてしまった。
「あの日を思い出しますね。あなたが大きな邪気の本体と対峙したあの時を」
「そんな事を言っている場合ではありません!」
「あの時、どれだけあなたの背中が頼もしく思えたか。そしてそんな背中に守られているだけの自分がなんと情けなく感じた事か」
「それは仕方のない事です、私は聖女だったのですから」
「関係ありません! 惚れた女性に守られるだけの自分が本当に悔しかった」
「惚れた?」
ハイスは一瞬振り向くと小さく、お許しください、と言ってブリジットの額に触れるか触れないかだけの口付けをした。
「行って下さい!」
ダニエルの周囲で黒い影が蠢き出す。また邪気で視界を奪われれば勝機はない。ハイスは剣を構えると走り出した。
「ブリジット――! お待たせぇ!」
気の抜けた声で王の間に入ってきたのは、ネリーだった。
手には大きなボウルを抱えている。たっぷり水が入っているのか、溢しながら走ってきた。
「ネリー!?」
「あ! ハイス様まだ生きてた!」
へらっと笑いながら絨毯に躓く。案の定、ボウルの水は辺りにぶち撒けられた。
「ネリー大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! 結果的にはね」
へへっと笑うと絨毯に広がった水溜まりを上機嫌に指差した。
「……全く、お前に任せるとろくな事がないな。もう少し綺麗な場所してほしかったんだが?」
水の中から出来てきたのは、白銀の長い髪をした長身の男だった。
「ウンディーネ様、どうしてここに!」
ブリジットは呆然としたまま、水溜りから出てきた精霊の姿を見つめた。
「我が妻が随分と奮闘しているようなのでな、とりあえず石を見つけた褒美をやろう」
「本当はブリジットが心配だったくせにぃ! 素直じゃないんだから」
通り過ぎざまネリーの頭をこつんと叩きながら、ウンディーネはブリジットの前で手を出した。
「え?」
「え、じゃない。早く石を出せ」
「えっと、石はハイス様にお渡ししました」
「私の物だぞ」
深い溜息をつきながら歩き出したウンディーネの前に黒い邪気が現れる。しかしウンディーネは邪魔くさそうに腕で祓うと黒い邪気は嘘のように消え去った。ダニエルは再び、今度は大きな壁のような邪気を出現させると、ウンディーネに向かって放った。しかしその壁もウンディーネの前では無力だった。ウンディーネの美しい着流しに埃ひとつ付ける事は叶わず、掌であしらわれると床に突っ伏して消えていく。
「すごい、これが精霊の力……」
ハイスは横に来たウンディーネを見上げた。無言のまま手が差し出される。我に返ったように石をその掌に乗せると、ウンディーネは躊躇いなくこくりと飲み込んだ。様子は何も変わっていない。それでもウンディーネは上機嫌にダニエルに近づいてく。そして怯えて座り込むダニエルの前に立った。
「ウンディーネ様! 殺さないでください!」
ブリジットはとっさに叫んでいた。怒る訳でも、呆れている訳でもない顔でウンディーネが振り返った。ただ分からないというように首を傾けた。
「これがいるとお前達は滅びるぞ」
「ダニエル王子は生まれる前から邪気の犠牲者なんです。どうかお願いします!」
「なんと甘い事を。これだけの事をしていて許すというのか」
「……私からも、お願い、いたし、ます」
声にとっさに振り向くと、意識を失っていたはずのリアムが顔を上げていた。
「リアム様! 良かった、本当に」
依然として危険な状態に変わらない。それでもリアムは血の気の引いた顔でじっとウンディーネを見つめた。
「これはお前の子ではないぞ。分かっているな? 不義の子だ」
「恨まれるのは、当然……」
そういうと再び意識を失ってしまった。
「リアム様!」
後ろからネリーが肩を掴んでくる。
「ブリジット、リアム殿下を助けたい?」
ブリジットは躊躇う事なく頷いた。
「ネリー、余計な事はするな」
「だってその石はリアム殿下がいたから見つかったんだよ。僕はウンディーネ様の代わりにお礼をするだけ」
ネリーはブリジットに向かって片目を瞑ってみせるとリアムの腰に手を当てた。
「……勝手にしろ」
「ウンディーネ様! 私からもお願い致します。ダニエル様をどうかお救い頂けませんか? 神殿に身を置く者としては邪気の本体を残すなどあってはならない事です。それでも、ダニエル様の運命はあまりに過酷過ぎます」
「だからこそ終わらせてやった方がいいとは思わないか?」
ハイスは一瞬考えてから首を振った。
「ダニエル様の生はまだ、始まってすらおりません」
「そうか。それなら……」
そう言うと扉から覗いていた者達に視線を向けたウンディーネは、人差し指を立てて来い、と合図を送った。扉にはいつの間にか水の膜が張ってあるようで、向こう側が歪んでいる。その奥にいたアレクは驚いたようにしながらも足を踏み出した。しかし水の膜に弾かれるように拒まれ、後ろに尻もちをついた。
「お前ではない。お前の主は別にいるだろう」
ウンディーネは真っ直ぐに一人の女を見ている。ルイーズはその視線を辿りながら、恐る恐るアマンダを見た。
「あなた、まさか聖女なの?」
アマンダは青ざめた顔をして首を振った。その場から逃げ出そうとするその腕を引き止めたルイーズは後ろに隠した。その間もダニエルは絶えずウンディーネへの攻撃を止めようとはしない。
「何かの間違いです! この子は聖女じゃありません!」
「今はまだ、な。聖女になるには何もかもがまだ幼い。だが今はそうも言っていられなくてな。直接我が力を仕えばこの者の身体は跡形もなく邪気と共に滅んでしまうだろう。力を調整する道具が必要だ」
苛立ち始めたウンディーネの掌がダニエルの額を掴む。邪気は放たれてもウンディーネの身体を取り巻く光に打ち消されていく。暴れるダニエルを掴む手に力が込められた。
「「ダニエル王子!」」
ブリジットとハイスの声が重なった時、アマンダはルイーズの手に触れてそっと外すと、水の膜に入っていった。
「アマンダ! 戻ってきて! 危険よ!」
アマンダは一瞬だけ振り向くと、怯えた表情で、それでもぎこちなく笑ってみせた。
「駄目よアマンダ!」
アマンダはウンディーネの元に行くと、じっとその姿を見つめた。
「そう怯えるな。取って食いはしない」
差し出された手に震えるアマンダの手が乗る。そしてダニエルを掴んでいた手をアマンダにすり替えた。アマンダの身体を経由してウンディーネの力がダニエルに流れ込んでいく。ブリジットは堪らずに走り出していた。
「ブリジット様!」
ハイスの横を通り過ぎてアマンダの手に自らの手を重ねた。
「私にはもう力はないけれど、私の方が使い慣れた道具ですよね?」
「ブリジット様、聖女ではないのにそれだけの大きな力を流せばお身体が危険です!」
ハイスの声が遠くに聞こえる。一瞬にして冷たい水に浸かったかのような寒気が走って意識が遠のく。勝手に震え出す身体をアマンダと共に寄せ合った瞬間、一際大きな激流が身体を通り過ぎていく。そして意識は共に流されるように途絶えていった。
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