哲学科院生による読書漫談

甲 源太

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武士道とエロス(3)

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昭和三十年、読売新聞に連載された『東京繁盛記』では、作者の木村壮八が少年時代、美少年のカップルが東京湾の台場で舟遊びをするのを「舟の中にはさくらか梅か」と囃し立てたという回想が載っています。
その美少年二人が桜や梅の花のように美しいということですが、作者を含めた「明治の少年」たちにとって少年同士の恋が異質なものでも憚れることでもなく無邪気な関心の的であったということを表しています。

近代文学には少年愛をテーマにした作品が多くあり、森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』が良い例であります。
主人公の金井は11才でドイツ語学校に入学、そこで男色というものに初めて触れ、先輩に手を握られ、頬ずりされて「うるさくてたまらない」という思いだったというのです。先輩からの誘いを拒んで、危険な目にあいそうにもなりました。
その後、13歳で東京英語学校へ移ると、そこには異性が好きな「軟派」と少年愛を好む「硬派」がいて、またしても硬派の犠牲となるのです。
しかし、鰐口という最年長の級友が彼を守ってくれて、彼が言うには「おれがをらんと、また穴(けつ)をねらふ馬鹿もの共が来るから、用心してをれ」だそうです。
この小説は自伝的な小説でもあり、明言されているわけではありませんが森鴎外の少年期が以上のようなもの、もしくは鴎外少年の目にはこのような光景が頻繁に映ったということです。

明治四十年、『早稲田文学』には『同性の恋』という作品が発表されていまして、これは戯曲家、社会運動家として活動した秋田雨雀の処女作であります。主人公の山川と年上の森岡との関係を描いたもの。
山川が、僕たちは前世で異性同士で結ばれていたのかもしれない、と言うと、森岡はあまりに仲がよかったので運命の女神が嫉妬して男同士の儚い恋にされたと答えました。
作者は冒頭で、男同士の恋ほど不思議なものはなく、魂と魂の合体である男同士の恋より烈しい恋はないと語っています。

太宰治の『思い出』には15、6才の主人公は色黒で小柄な同級生とひそかに愛し合い、家路をともにしお互いの小指が擦れ合うだけで顔を赤くしたということです。

徳富蘆花も自らの体験として、12才のときに先輩に腹の上に抱き上げられて勃起した一物を押し付けられていたと赤裸々に語っています。

川端康成も寄宿舎で同室だった下級生との恋を、当時の日記を参照しながら『少年』を発表しました。『少年』執筆時には50才だった川端は当時の生活を振り返って、たとえどんな事情があっても寄宿舎に子供を送ってはいけないと忠告しています。
それほど、寄宿舎というのは誘惑に満ちたあぶない恋の場所ということです。しかし寄宿舎で恋を謳歌した直後、19才の川端は進学先でなんとこの恋を学校の作文として提出してしまいました。

「お前の指を、手を、腕を、頬を、瞼を、舌を、歯を、脚を愛着した。僕はお前を恋してゐた」

という内容です。過激内容でありますが、しかし教師はその内容について注意をすることなく、当時の少年愛に対する世間のおおらかさを知ることができます。

明治時代、男色が大流行し、これをうけて明治三十二年に船岡英之助という医学博士が「男色に就て」と題して学術講義を行うほどです。

このごろ男色が流行り時々人を傷つける、もしくは学校から帰宅するものを待ち伏せて捕らえて犯すものもいる。

と、男色傷害事件の頻発を憂いたことが講義の開講理由であると述べています。

このような男色の流行は、来日した異邦人の目にも奇異に映り、民俗学者のフリードリヒ・クラウスは、男子同性愛が兵士や士官の間に非常に蔓延、日本の兵士たちがわれわれ一般人よりもはるかに情愛がこもり、友情的な態度でお互いに付き合っていると書き表し、そしてその男色関係が清、ロシアと強国を打ち破ることができた理由としているのです。
当時の戦争が少年や兵士に「雄雄しく愛し合う」ことを促したのです。

そして、さらに根にある明治から始まる男色の流行源は、明治維新後、東京に居ついた薩摩藩士の風習にあったのです。

薩摩藩には「郷中」という青少年集団が各地に構成され、彼らは年齢に応じて「稚児」と「二才(にせ)」と分けられていました。
「稚児」は7~14才、「二才」は15~妻帯までの25才ほど。この集団は青少年たちが自発的に立派な薩摩武士になるべく人格形成をするための活動をしていました。
「二才」は「稚児」に剣術の稽古をつけ、「稚児」から「二才」にあがるときには成人儀礼のような「肝試し」をしていたのです。
しかし、この集団において「稚児」は他郷の「二才」と関わることを禁じ、美しい「稚児」は他郷の「二才」に奪われぬよう寝ずの番をするなど美少年を奪い合う明治の少年たちを先行する風習が確認できます。

明治の男色流行は武士の問題に行き着くのです。
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