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運命との遭遇 2
しおりを挟む「アントンは逃げやせん。私が買い取ったのだし、逃げてもすぐに捕まえてやるから。仲良く順番に愛し合おう。……何度でもな」
ぐぷっと抜き出されたウォーバルの一物。未だ硬質なままのソレに絡むモノを見て、アントンを受け取ったジャッキーが胡乱げな顔をした。
「受胎スライム殺してんぞ? どんだけ深く挿れたんだよ、バル」
「むっ? しまったな……」
「まあ、替えは幾らでもありますから」
にっこり笑って、リグルドが替えのスライムを取りにいく。番う最重要案件は子作りなのだ。ちゃんとスライムを入れて睦まねば意味がない。
穏やかな面持ちで並ぶ熊獣人の兄弟。
そして熊とは執着心が強く、非常に過保護でねちっこい生き物なのだ。この後どうなるかもお察しである。
過激な夜の営みと過保護を通り越した溺愛に溺れ、毎日瀕死なアントン。今の少年の首には、鎖で縁取られた重厚な革と三人の色目の宝石のついた首輪がつけられていた。
「チェーンは合金製だ。ちょっとやそっとじゃ外れない。安心しろ」
「石にもそれぞれ魔法を付与してある。追跡と防護と転移な。万一、防護が働いた場合、即座に家へと転移する仕様になっている。思わぬ被害にも遭わずに済むな」
「こちらは私個人から。治癒のブレスレットです。多少の傷なら瞬く間に癒やしてくれます。……その。我々は繊細から程遠い生き物なので。知らずアントンに傷を負わせる可能性もありますから……」
至れり尽くせりな熊兄弟の配慮。
「ありがとうございます…… 僕、兄弟が出来て嬉しい…… 大切にしますね」
心底、幸せそうに笑う少年。
しかし、この後も過剰な束縛と監禁が続くことをアントンは知らない。そして、それが監禁や束縛だと知らぬまま、少年は成長していく。
「買い物に行きたい? 何を買うんだ? 俺が買ってきてやるよ。……迷惑かけたくないだぁ? ふざけんなよ? 妻に尽くすのは夫の義務であり権利だ。なんだってしてやるさ、お前自身であろうと、邪魔はさせねえっ! 覚えろ、『自分はジャッキーの番。欲しい物は必ずジャッキーにねだる』、復唱っ!!」
「料理? ……うーん、アントンは小さいから、まだ無理ですねぇ。火傷したり、刃物で切ったりしたら…… うう、考えたくないっ! ……え? 何か役にたちたい? ……また、そういう…… 貴方の存在自体が奇跡なんですよ? そこに在るだけで私達は幸せなんです。あまりに可愛らしいことばかり言うと、ベッドに縛り付けて動けなくしてしまいますからね。……そうしましょうか? そうだ、それが良い。そうすれば、貴方がこっそり料理したり、掃除したりとか心配せずに済みますし。……おや? どこへ? アントン? まだ話は終わってませんよ?」
「……ジャッキーやリグルドが可怪しい? …………… ふむ。まあ確かに行き過ぎかもだが、それだけ私達はアントンが可愛いんだよ。それに番というのはそういうものだ。家の中でも歩かせず抱き上げ、風呂も同伴し、日がな一日中睦みあう。そんな獣人兄弟も少なくない。こうして自由に歩かせている私達は珍しいのさ。……うん? 娼館では働いていた? ……娼館の話はやめたまえ。あそこは不条理の掃き溜めだからね。君を救い出せて本当に良かったよ。本来、妻には労働をさせないし、真綿で包むように甘やかし、手ずから食事を与えて風呂でも指の間まで洗ってやる。それが夫というものだ。……うん、分かってくれて嬉しいよ。じゃあ、早速今夜から食事は私が食べさせてあげよう。愉しみだ。お風呂はジャッキーかな? 添い寝はリグルドで。夫には平等に権利を与えないとね。 ……どうした? アントン。顔が真っ赤だぞ?」
こうして自ら墓穴を掘り、さらなる束縛に羞恥で身悶える少年である。
そして後日、アントンは知らない誰かが家の外から自分を指さすのを見た。
「あっ! あの子っ!」
「ん? おう、前に抜いた箱孔嬢か」
そこには千里とラウル達。
「首輪してるね。庇護者が見つかったのかな?」
「そうかもな。大事にされてるみたいだし、良かったじゃねぇか」
四人が見つめる窓辺には三人の熊獣人と元箱孔嬢。黒い毛並みの熊獣人に抱えられた少年は、口にケーキを運ばれ御満悦だ。
大きな家だが自宅だろうか。エプロンと布巾をつけた熊獣人が、千里にはやけに可愛らしく見える。
……これも他生の縁かなあ。お幸せにね。
ふくりと笑みを深め、千里は自分の首にはまったチョーカーを撫でた。これも首輪の一種。鈴がついており、ラウル達から半径十メートル以上離れるとけたたましく鳴り響く仕様だ。
『女とバレなくても小さく可愛い生き物は拐かされやすい。……チイに手を出した奴は地の果てまで追い詰めて五寸刻みにしてやる』
『うっかりもあるしなっ! うん。はぐれても、すぐに見つけられるぞ?』
『懐かしいな。それ、俺も使ってたんだよ。兄さん達、過保護だからさあ』
過保護という言葉が、こんな優しく感じる日が来ようとは。ラウル達の執着や溺愛は、そんな可愛らしい言葉でおさまるモノではない。
その洗礼を全力で浴び続ける、未来の千里。
窓の外の四人を何気に見つめるアントンの口元に、ウォーバルのフォークがケーキを運ぶ。
「どうした?」
「……ん。あの日を思い出しちゃった」
「あの日?」
「なんだよ、あの日って」
成人したばかりのアントンを引っ張り出し、箱孔嬢としての慣らしもなく蕾を引き裂かれた、あの日。
アントンは、思い出すだけで身震いするほど残酷な記憶がそぞろ浮かぶ。
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