珠玉の欠片 〜塵も積もれば山となる〜

一 千之助

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 ここは聖獣の棲家 7

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「大丈夫なのか? その……」

「大丈夫。ポータルに触れなければ飛ばされないしね」

 例のダンジョンが遠目にみえる山裾で、トムとカイルは資材の運搬をしていた。
 ここに拠点を造り、あのダンジョンの収穫を流通する計画。それの実行を始めたのだ。
 トムの父親であるロイドは腕の良い石工。家や倉庫の土台を任せて安心出来るし、カイルも長く木樵を手伝っていた。近くの山から材木を切り出し、簡単な加工までは任せられる。
 あとは大工が居れば完璧なのだが、それは冒険者ギルドで募集した。
 幸い、良い職人に恵まれ、後日来てくれることになっている。その案内はダレス達が引き受けてくれた。
 急ぐ事案でもないため、それぞれ自分のペースで作業する。特にカイルが切り出した木材は、乾燥させないといけないから時間がかかるのだ。

「村にいると親父がうるさいしな。ちょうど良いやな」

 にっと笑う恋人に、トムの胸が少し傷んだ。



『この盗人めがっ! うちの息子を誑かしやがってっ! その黒髪や黒目どおり、悪魔みたいな子供だなっ!!』

 比較的色素の薄い人々ばかりなアトロスの世界で、黒髮黒目は珍しい。皆無というほどでもないが、何千人に一人くらいの確率だろう。
 ロイドの母親である祖母も、この色のせいでかなり凄絶な人生を送ってきたらしい。祖父に出逢い、伴侶と望まれるまで、きっと苦労の連続だったに違いない。
 そんな祖母譲りの容姿を、トムとて呪ったことはある。黒といえば闇色。魔術師のなかでも特に残忍といわれる黒魔術師が好む色だ。
 魔術はその系統ごとに専門職がおり、焔系統なら赤魔術師。水系統なら蒼魔術師など、その属性で区別される。
 ちなみにトムは容姿に能わず、白魔術師だった。
 サマンサに学び、研鑽したこの一年。他も少しは使えたが、一番相性が良く、伸びたのは白の癒やし。次に祝福や解呪に長けた光。これは金髪のサマンサが得意な魔術だった。

『良いわねぇ。白はどこでも引っ張りだこな属性よ? 専属の治癒師として御貴族様に仕えることも可能だわ』

『サマンサの祝福だって優秀じゃないか。非力な私は、君の祝福によるブーストが必須なんだからね』

 祝福による一時的な能力ブースト。これと、魔物の呪いを消せる解呪は、冒険者が喉から手が出るほど欲しがる属性だ。
 トムも前世で見たアニメや漫画で知っている。こちらで祝福と呼ばれる魔術は、付与とか増強とかそういった力を持つ魔術だ。下手な火力よりも、ずっと大切なアシスト。
 トムもまだ慣れないソレを、父親やカイルに使っている。練習させてくれと頼み込み、毎日かける祝福を二人は喜んでくれた。

 能力は白なのに、見てくれが黒なトム。

 通常、所持する属性は髪色や瞳の色に依存するという。そして含有魔力の上限は非力な者ほど高い。これも筋力と反比例していると説明された。
 だから魔術師は女性が多い。肉体の構造からして、そうなってしまうのだろう。
 ゆえに、暗めな髪色の人は、総じて黒魔術師に間違われることもある。逆に明るめな髪色の人は、白や光魔術が使えると誤解されることも。
 黒も白も滅多にない髪色だから。そういう勘違いが横行するのは仕方ない。

 ……僕は黒い髪だけど、癒やしが使えて良かったな。これで本当に闇魔術しか使えなかったら、それこそ悪魔と呼ばれても否定出来ないよ。

 トムの得た属性が白なことは村でも有名だ。練習を兼ねて、簡単な癒やしや治癒を村人にかけてあげたため、そこそこ重宝されている。

 そのせいで、カイルの父親がトムを悪魔と罵っても信憑性は薄い。周りは信じないし、当のカイルが、『親父が出て行けと言ったんだろうがっ!』……と、暴露して特に誤解はされていない。
 何より、元々仲良しな幼馴染みだ。その延長で恋人同士でもあった。それを良く知る村人らは、誰もドニの発言を信じない。
 むしろ、『子供はいずれ独り立ちするものだよ?』とか、『トムは畑仕事もよく手伝うし、癒やしや治癒をかけてくれる。出来た嫁じゃないか。何が不満なんだい?』と、トムを擁護してくれる。
 さすがに同じ村人らの前で、怪我をして腕を失った足手まといな父親が気に入らないとは言えなかったらしく、ドニは渋々引き下がる。

 そんなこんなが何度か続き、キレたカイルがトムを連れ出すようになったのだ。あんな逆ギレ親父のいる村に置いておけないと。
 前々からサマンサに魔術を習っていたのもあり、トムはカイルのお供としてダレスらの仕事に加わった。
 祝福に続き、癒やしの使えるトムが入ったことで、ダレスのパーティは一気に強化され、少し難易度の高い依頼も受けられるようになる。
 飛躍的に収入も増え、ある日、前に話したトムの構想を現実にしてみてはどうかという話になったのだ。

『良い思い出はないかもしれないが、あの発想は悪くない。諦めるには勿体ないと思うんだよ。何なら、採集も俺達がやるし、トムは流通を主体にして、やってみないか?』

 そうトムを励ましてくれるダレス達。

 たぶん、彼らの罪悪感も根深い。小さなトムを守れなかったというトゲが、未だに抜けず、生々しく残っているのだろう。
 そんな彼らの罪の意識を軽減するため、トムは夢の実現に踏み切った。
 普段は冒険者カイルのお供をし、空いた時間は拠点の建築に精を出す。少しずつ出来てきた拠点に合わせて、職人や資材の手配もトムがした。
 ダレス達に教わって、一つずつ色んな知識や技術をモノにしてきたトム。
 前世の記憶や知識があるせいだろう。アトロスの子供に分からない理屈も、トムは理解できた。知識先行世代の本領発揮である。

 ……やってやるぞ。ダンジョン印農作物の流通を完成させてやるからな。

 むんっと仁王立ちして天に拳を振り上げるトム。

 そんな彼は、今日が自分の九つの誕生日なことを、すっかり忘れていた。



「……どうする?」

「言い出しにくいね? カイル? それなに?」

 レナとダレスに尋ねられたカイルは、頬に朱を走らせて呟いた。

「……指輪。トムは成長するだろうから、毎年贈ろうと思って……」

 糖度マシマシな二人の関係。それに呆れるダレス達。

「婚約出来るまで、あと三年だろうが。我慢しろよ。嫉妬深い男は嫌われるぞ?」

「トムは嫌わない。むしろ喜ぶ。だから良いんだよっ」

 素で惚気けるカイルを見て、『子供のくせにーっっ!!』……と、ショーンが爆発したのはお約束だ。

 そしてカイルの宣言どおり、その細い指輪を喜んだトム。さらに、お揃いの指輪にキスを落とす二人の姿。
 微笑ましいソレに、周りの大人達は苦笑しか浮かばない。

 色々、苦労は絶えないけれど。二人の甘い暮らしには、そんな苦労も良いスパイスでしかなかった。
 
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