珠玉の欠片 〜塵も積もれば山となる〜

一 千之助

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 襲い来る混乱 3

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「十二歳だ。もう働ける歳だろ? ギルドに囲い込むぞっ?!」

「トム君は立派に流通をこなしています。我々がつけいる余地はありませんっ!」

「その流通に一枚噛ませろってなだけだっ! 個人が独占して良いものじゃねぇだろうがっ!」

 だんっと強くテーブルを叩きながら激高する冒険者ギルドのマスター。それを冷たく一瞥し、ソリュートも負けじと反論した。

「それに倣うなら、全ての冒険者が個人の秘匿ごとを公開しなくてはなりませんね? 優秀な冒険者ほど隠している穴場ややり方がある。それらをぜーんぶギルド権限で取りあげると? 独占させないと? そんなんされたら上級冒険者はおまんまの食い上げだ。強者ほど、ギルドから抜けていくでしょうねっ!」

 ガチガチの理論で論破され、ギルマスの顔がみるみる赤らんでいく。

「なんでそうなるんだよっ! 相手は子供じゃないかっ! 大人が面倒見てやるのが、そんなに悪いのかよっ!」

「面倒をみられるのは大人の方でしょうがっ! 子供だからと侮り、初対面でやらかしたのを、もう忘れたのですかっ!!」

 四年前、トムが大きな魔石を売りに来た時、トムの言うことを信じられなかったギルマスは、声を荒らげて詰問した。
 小さな子供だ。少し脅せば正直に話すだろうと、高をくくる。
 その結果、逆ギレしたトムに、泥棒だ強盗だと罵られ、眼の前のソリュートから大目玉を食らったのだ。
 さらにはその件に尾びれ背びれどころが、胸びれ腹びれまでついた噂が駆け回り、しばらく大勢の冒険者達に白い目で見られ続けた。



『子供から魔石を取り上げようとしたって……』

『無理やり? どんな魔石だったか知らないけど、大人のするこっちゃないよねぇ?』

『ないわー。ないない。子供ギャン泣きさせて平気な男は人間のクズ』



 未だ、思い出すたびに、ギルマスは穴があったら埋まりたい気分になる。

「トム君は冒険者ギルドに所属しておりません。安価で癒しや祝福をしてくれていただけです。ギルマスの強権の適応外です」

 ソリュートの言い分が正しいことは百も承知のダンガ。それでも諦めきれないのが正直なところだ。

 この国境の街は国境の辺境にある。

 大した資源も名産もなく、細々と営まれる田舎町。やってくる冒険者もしれたもの。国境であるがゆえに各ギルドが配置されているが、実際は何の旨味もない土地だった。
 そこにいきなり現れたダンジョン。
 騎士団が調査にゆき、その報告を聞いた時はがっかりしたものだが、後々になって、あのダンジョンが宝の山だったと判明した時の歓喜。
 未知の植物と未知の農産物。非常に美味なそれらは高値で飛ぶように売れ、やってくる冒険者も激増した。
 景気の良いところには人が集まる。
 けっこう手軽に行けるダンジョンのため、深層目指して優秀な冒険者らもここを拠点にしてくれた。そういった冒険者でも、トムが流通に乗せるような農産物は、僅かにしか手に入れられない。

 どこかに見落としがあるのか? あんな子供達の行ける階層に、本職の冒険者達が行けないわけはないと、ギルドを挙げて躍起になって探索するが、何も見つからなかった。

 右肩上がりな今を逃したくない。

 そう思い詰めたダンガは、トムを脅してでも、どこで採集しているのか暴きたくて仕方がないのだ。

「……ちくしょう。なんで、あいつらだけ」

 袖を絞るようなギルマスの呟き。

 その気持ちは痛いくらいよく分かるものの、ソリュートはあの小さな白魔術師を裏切る気にはなれなかった。

 さらに今、この街では物騒な事件が相次いでいる。

「えらく人死が出てますし、この街の評判も下がる一方で…… 気持ちは分かりますよ?」

 そう。色んなところで起きた虐殺事件。

 明らかに人間の仕業には見えない遺体と、血の海に残された不気味な足跡。
 人のモノではないソレは、まるで宙に消えたかのように殺害現場にしか残されていないのだ。
 どこにも出ていった様子はなく、兵士や騎士団も頭を抱えている。

 恐ろしい魔物が出没すると巷でも噂になりつつあり、ダンガが焦るのも仕方がない。

 因果は巡る。

 カイルや人外達が善かれと思ってやった行為がトムの首をしめているとも知らず、暢気なダンジョンの拠点は賑やかにトムの誕生日を祝っていた。





「十二歳、おめでとうトムっ! これで一端だなっ!」

 毎年、指輪を贈っているカイルが、今年もトムの指にソレをはめる。

「あれ? いつもと違う?」

 通されたリングをしげしげと見つめ、トムはソレに埋め込まれた小さな石を凝視した。真っ黒だけど透明感を持つ不可思議な石。
 それを一瞥したダレスが、悪い顔でカイルを小突く。

「お前~っ、魔法付与したな?」

「魔法付与?」

 トムの手を取って確認していたサマンサも小さく頷いていた。

「そうね。これは魔石だわ。追跡の付与がされているの。どこに居てもトムの居場所がカイルに筒抜けよ?」

 へえ……? と、トムは埋め込まれた小さな魔石を見つめる。

「逆に、トムにも俺の居場所が分かるんだぜ? こうして軽く魔力を流して眼をつぶってみな?」

 言われたとおり、トムは指輪を握りしめて魔力を流す。……と、このリビングが瞼の裏に浮かんだ。

「うわ…っ、すごいっ!」

「だろ? なんかあったら、すぐに俺んとこへ逃げて来い。なるべく離れないようにはするけどさ」

 ちう…っとほっぺにキスをされながら、素直に頷くトム。
 それを、じっとりと据えた眼差しで見つめ、ダレスやテオは複雑そうに笑った。

 ……分かってんのか? トム。それ、ビーピングだぞ? 覗き見される道具だぞ?

 本人が幸せそうなので、余計な水を差さない二人。

 ……魔石かぁ。そういや、燃料にする以外にも、こういう使い方出来るんだよねぇ。魔力って不思議。

 ぽう……っとトムの手が光り、貰った指輪に魔力を込めた。

 その瞬間、背後で眩い光が炸裂する。

 え? と振り返った人々の眼に映ったのは、宙で燦然と輝く大きな魔石。
 絶句する人々が見守るなか、ぴきき……っと縦横無尽な亀裂が卵に走り、その欠片一つ一つが弾けるように爆散した。

「何が起きてっ?!」

 条件反射のごとくトムを抱きしめていたカイルの肩越しに浮かぶ何か。

《まぁーま……》

 パタパタと小さな羽音をたててやってくる何かを、トムは咄嗟に受け止める。
 それは獣の身体に龍のような頭を持つ奇妙な生き物。尻尾も龍のように長いが鱗は見当たらない。柔らかな体毛で覆われ、その四肢も獣のような肉球がついていた。
 立派な翼をも併せ持つ不可思議で真っ白な生き物は、トムの両手に抱えられ甘えるように鳴く。

《まぁーまっ!》

「まま? 僕のこと?」

「トムの子かっ?! やった、すげえっ!!」

 例の卵から生まれたらしい生き物を、カイルは大興奮でトムごと抱きしめる。
 もがもがとカイルの胸で暴れるトム。その隙間から抜け出して飛び回る生き物を、周囲の人々が唖然と見つめていた。

「なにこれ……」

「いやっ、話には聞いていたがっ? トムっ! どういうこったっ?! 白い魔獣だとっ?!」

 魔獣は色が薄いほど強く狡猾。白い魔獣の存在までは知らなくとも、その不文律は冒険者が当たり前に知っていることだった。

 ……あちゃあ~。不味いことになったかも?

 カイルの陰に隠れて冷や汗を垂らしつつ、トムの誕生日は、我が子の誕生日にもなった。
 そして同じく、我が子の誕生を察知した人外らが押し寄せてくるまでがお約束だ。

 こうして予想外のハプニングに呑まれながら、トムは十二歳になる。
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