珠玉の欠片 〜塵も積もれば山となる〜

一 千之助

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 襲い来る混乱 4

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《生まれたかっ!!》

 ひゅるんっと突然現れた三人の人外に、拠点の人々は驚いた。

「人……? いや、違う?」

「これが、トムの言っていた……?」

「え? え? 人間じゃないよな?」

 有に二メートルを越える人型の何か。

 それらはトムが胸に抱く白い魔獣を、揃ってガン見する。

《………? 誰の子だ?》

《顔はそなたに似ているな、海の》

《だが体毛は…… 俺か? おおう、愛いのう》

《海のや陸のならば翼はつかぬ。我の子だ》

 それぞれが口にするアレコレ。

 ……そうだよね? なんか、色々混じってるように見えるんだけど。

 中型犬くらいな白い魔獣は、きゅるんっとした紅い目でトムを見上げている。ふかふかな体毛が手触り良く、その温かな身体をトムはぎゆっと抱きしめた。

「これも人化するんかな? こいつらみたく」

 眼をキラキラさせて白い魔獣を撫で回していたカイルの呟きを拾ったのか、件の魔獣はするりとトムの腕から抜け出すと、ひらっと宙で一回転する。
 途端にポンっと現れる小さな子供。
 それはトムによく似た可愛らしい幼児だった。年の頃なら、三つか四つ。

《まぁーまっ!》

 全裸でぽすんっと抱きついてくる子供に、トムは言葉もない。

 ……僕の子? 本当に僕の子なの?

 不可思議な感慨がトムの小さな胸を一杯にした。
 毎日背負って魔力を与えた卵。時に撫でたり、話しかけてみたり。不思議と無機物ではないような気がして、背の温みが愛おしかった。
 
《おおおおっ! もう人化出来るのかっ! 我の子は優秀だのうっ!》

《抜かせ、空の。この見事な毛並みを見よ、これは俺の子だっ!》

《そなたに翼はなかろうがっ、陸のっ!》

 喧々諤々やらかす幻狼の人外と鳳の人外。その隣で佇んでいた龍の人外が、じっと白い子供を見て眼を眇める。

《………いえ。これは、混ざっておりますね。あり得ないことですが》

 至極冷静な彼の分析。

 ……やっぱ、そうだよね? でも可愛いや。

 トムはしゃがんで子供を抱きしめると、頬を合わせてすりすりした。如何にも至福と言わんばかりな姿に、ほっこりするカイルと人外達。

 だが、それを静観できない周りの人々が雄叫びをあげる。

「トムっ!! 説明しろぉぉーっ!!」

 ……あ。

 情けなさげに狼狽えたダレスの声を耳にして、ようやく正気に返ったトムだった。





「つまり、こいつらが例の人外なんだな? で、その白い魔獣が宿っていた卵は、元々トムの魔石だったと……」

 三人に襲われたことだけを隠し、トムは父親やダレス達に今まで隠していたことを話す。ナタリー達職人やテオには席を外してもらった。

 トムのスキル《珠玉》で得る魔石は、溜めておくと勝手に融合して大きな魔石になること。それをギルド経由で売ったが、この三人の人外が手に入れて魔力を注ぎ、卵化させたらしいこと。
 その卵を預かり魔力を注いだトムを、この魔獣は母親認定してしまっているみたいなこと。

「元がトムの魔石で、さらにトムの魔力で育ったってわけね。……どういう理屈かは分からないけど、それならトムの遺伝子を継いでいても可怪しくはないかも」

 サマンサが困惑げに口を開く。

「魔獣の理なぞ、誰も知らないしな。特にダンジョンのは、どうやって生まれているのかすら分からん」

 ショーンも訝しげにトムの膝に座る白い子供を眺めた。

「森とか、ダンジョン外から幼獣も見かけるが…… あれらも魔石に魔力を注いで生まれるのか?」

 疑問顔のダレスに、人外三人が答える。

《そうだ》

《己の体内の魔石に己の魔力を込めて、親は子をなします。産み落とすと同時に、魔石を失った親は死んでしまいますがね》

《まあ、弱い魔物なら一つの卵から三匹は産まれる。繁殖としてはまずまずな数だろう》

 何の気無しっぽい彼等の説明を耳にして、トムは軽く驚いた。
 魔獣はそれこそ命がけで子供を作るのだ。文字通り。我が子を見ることもなく、新たな生命を生み出すと同時に、朽ちて土に還る。
 その事実は、酷く切ない気持ちをトムに抱かせた。

 だがそこで龍の人外が、はっと顔をひらめかせる。

《そうか、《珠玉》のスキルだ》

「え?」

 他に意識を持っていかれてたトムは、耳慣れた己のスキルを呟かれて、ふいに顔をあげた。

《前に説明したでしょう? 《珠玉》のスキルは、我々が人間に与えたモノだと。通常の魔石では小さいし力も弱いので我々の卵にすることが出来ない。それで我々は、我々の力を分け与え、大きな魔石を造ることが可能なスキルを人に与えたのですよ》

 ……ああ、そういや、そんなことを言ってたっけ?

 あの酷い暴力中に聞いたことなど、全く記憶に残っていないトム。途切れ途切れ覚えているなかで、そのようなことを聞いた気がする。

 そのスキルで得た魔石を溜める者は皆無で、彼らはがっかりしていたらしい。
 かといって、余り大きな力も分け与えられない。最古の生き物な彼らの力は膨大だ。あまり分け与え過ぎると人間の脳や身体が保たないのだという。
 だから小さな魔石を沢山生み出させ、少しずつ大きくさせていく他なかった。そのため《珠玉》のスキルには融合の力が宿っている。

「融合……?」

《同じモノを溶け合わせる力です。そなたが溜め込んだ魔石は、それで大きくなりました。我々の卵足り得る見事な魔石に》

 その力が、卵に注がれた魔力をも融合させ、この混ざりきったキメラのような子供が生まれたのではないかと彼は語った。
 人化した姿がトムにそっくりなあたり、その予想は当たっているかもしれない。

 ……なるほど。そういうことか。

「自分の魔石で卵を造ろうとは思わなかったの?」

 他の魔獣に出来ることが、この三人にやれないわけはない。素朴なトムの疑問に、人外達はシニカルな笑みで答えた。

《我らは唯一無二な存在だ。消えるわけにゆかぬのだよ》

《俺が消えたら陸が割れるからな。この世界が終わるまで見守らねばならん》

《それで次代を作るため、奇跡が起きるのを待っていたのです》

 人間にスキルを与え、それが実るのを首を長くして待っていたと語る人外達。

「陸が割れる……? それって、どういう……」

 そこまで口にしたトムの肩を、がっとダレスが掴んだ。驚いて振り返ったトムの視界には、驚愕の面持ちなダレスが口を引き結んでいる。
 若干、青ざめても見える彼は、震える唇を戦慄かせてトムに問いかけた。

「……お前。さっきっから、なに独り言を言って? ……まさか、こいつらと話せてるのか? この、風のように流れる音は、こいつらの言葉か?」

 えっ? と眼を丸くし、トムは人外らを見つめる。側に立っていたカイルも似たような顔で人外らを見上げていた。

《我らの言葉は、そなたらにしか理解出来ておらぬ》

《当然でしょう? 私達は高貴な血族。地を這う羽虫どもと語る言葉は持ち合わせておりませんよ?》

《人間の文明なぞ、何度も滅びを繰り返しておるわ。過去には我々と同じ言葉を操る人間もいたが、遥か無窮の話よ》

 ……ここにきて、またまたチートかよぉぉっ!

 彼らにとって血族たるは、同じ力を持つ仲間か、力を分け与えたスキルを持つ人間のみ。

「じゃ、俺は……?」

 憮然としたカイルの呟き。

《お前は、これの番であろうが》

《仲間と体液を共有する者にも、ほんの少し我らの力が宿ります》

《それで言語も共有されてるってことだ》

 ……体液の共有。

 思わず顔を見合わせ、ぼんっと頭を沸騰させる御子様達。

 ……周りに、こいつらの言葉が理解出来てなくて良かったぁぁーーーっ!!

 体液の共有云々は削り、トムは大まかな話をダレス達にも説明する。

 説明されても理解の及ばない周りの人々。

 そんなこんなで波乱に満ち満ちたトムの誕生日。

 色々判明したものの疑問は尽きず、人間VS人外の話は深夜遅くまで続いた。

 これが後に訪れる混乱の序曲とも知らず、我が子を胸に抱いて御満悦なトムである。
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