「夢」探し

篠原愛紀

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出会う。

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「あなたはだあれ?」

 舌足らずなたどたどしい口調。

岬の上に小さな墓があった。海がどこまでも遠く見える様な高い岬。少女は、その墓に白い花冠を掲げていた。
俺はその場から、――その少女から目を離せずに立ち止まっていた。


まだ幼いだろう。
10歳にも満たない少女。

でも意志は誰よりも強そうに輝く瞳をしていた。



「だれなの?」


少しムッとした口調でまた尋ねてきた。
まっすぐにこちらを見る瞳。



「俺は……」


どう言えばいいだろうか……?

どうすれば……。墓から少し離れた場所にあった大きな石に腰をかける。

「赤い……」


「赤い……目だけギョロギョロ光らせた化物から逃げてきた。俺も昔その化物だった」


まっすぐに見つめてくれる少女に、しっかり話を聞いてくれる少女に
敬意を示したくても……言える事はここまでだった。

情けなくて、惨めだけれど。真実は話せない。

淋しそうに墓を見つめる少女には、
真実を話してはいけないから。
「ウソッ」

フフフっと花の様に笑った。

「嘘つきね。そのスケッチブック、さっき見てたの。絵を書いてたでしょ?」

「やっぱりそう見える?」


かなわないな。
疑ってるかと思えば、
自分は試されていただけか。

「うん。か~な~り嘘くさいけどね」


にこにこ笑いながら
俺の全身を見る。


「ねぇ! 絵描きさん どこから来たの?」

こんな島国の小さな農村に、
俺はどうして来たのだろうか?


どこから来たのか聞かれても、もうその場所は存在しないのに。


「沢山の海を渡り、何日も歩き続け、
お兄さんは旅をしながら世界を歩いているんだ。
どこからが旅の始まりかは、忘れちゃった」


少女の目から逃げるように
スケッチブックの白紙の部分を開けた。



「海を描きたかったんだけど、君も書いて良いかな?」

「―――もう少し」


少女の顔から笑顔が消えていた。


「もう少し、早く来てくれたら良かったのに」

少女の大きな瞳が涙で光る。

「もう少し早く来てくれたら、彼も絵描きさんに会えたのに。
皆で笑って、私と彼の二人の絵を描いてもらえたのに」


小さいお墓を向いて、少女は言った。

それは、俺を責めている様で、必死に何かから目を逸らしていた。

「――友人かい?」

俺は立ち上がり、少し近づいてお墓を指さした。


「うん。大っっ好きな友達だよ。
でも、もう会えないんだよ」

大粒の涙を流しながら、それを手で拭う事なく手をギュッと握りしめていた。


泣きたくて泣けなかった俺の目の前で、

我慢する必要もない少女は泣いている。

当然の様で、羨ましくもあった。

あの灰色の空から、何十年たったのだろうか。


俺は墓の前に座りこんだ。


「綺麗な海の見えるこの大地で、友人は幸せに眠れているかな……。幸せな夢を見ているかな」


海は残酷な程に綺麗だった。

水面が光を吸収し、輝いていた。

「友人と君の為に、俺が旅で出会った、沢山の話を聞かせてあげるよ」

一人でここで泣いているぐらいなら、
俺なんかの話でも聞いて欲しい。


ただそう純粋に思った。

君が笑ってくれるなら
俺はかけがえのない思い出を全て語り尽くしても良かった。


「赤い目の化物だった頃の話はしないからさ」

なるべく落ち着いてもらえる様に優しく笑った。


「また嘘つく!
嘘は私嫌~い!」

微かに笑顔が戻った。

「嘘じゃないよ。
全部本当なんだよ」


少女はじっと俺の顔を覗きこんだ。


「これから聞かせる話を信じてくれないなら
少し悲しいな」


少しだけ、離れて少女が座る。


じっと大きな瞳をこちらに向けて。



「私の友達にも聞こえるように、お話ししてくれる?」




俺は頷くと、少女は笑った。
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