「夢」探し

篠原愛紀

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天使の話。

天使の話。

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心って目に見えないけれど、全部気持ちを受け止めてしまったら、その中はとても窮屈じゃないのかな?

灰色に染まる空の下、建物は全て瓦礫と化していた。

灰と墨で辺りは砂漠のようだ。

煙がまるで霧のように広がって、高い時計塔を包み込んでいた。

少し斜めになった時計塔の天辺に、まるで雪の様に降る灰に手を伸ばし掴みながら座っている天使がいた。

「ねぇ、王子様。こんな風に簡単に形ある物は壊れちゃうんだね。オレが何一つする間もなく消えてしまうんだね」

【王子様】と彼は俺をからかう。
工場の島を譲りうけた事を話してからだ。

首にかけている黒い十字架を強く握り、地面に這いつくばっている俺を見下ろしてた。

「しょうがないよ。一人でできないならする必要ないさ」
「ふぅん。一人で出来ない事が皆でできるのかなぁ」
軽い口調で突っ返された。

おどけた口調で軽口を叩きながら、誰よりも慈悲深く思慮深いこの天使が、こんな現実を見て傷ついていないはずはない。

「ねぇ。形が無いものも壊れるの?」

雪の様に手の平に灰を載せても、黒く汚れるだけだと気づき、その動作を止めた。

「壊れるんじゃないですかね。」
「心も?」

天使は俺の返答を、にこにこ笑いながら待っていた。

――――試すように。気持ちは「壊れる」じゃなくて「失う」のかな。

気持ちの変化みたいな、ね。

気持ちは形をもたないけれど、確かに存在する。

そして失っていく思いもある。

「形が無いものは壊れたらどこにいくんだろうね。
心の中に溜まっていくのかなぁ?」

俺は分からないと首を振った。
彼も分からないと言った。

「失って心に溜まったら、いつかは溢れてしまうでしょ? 溢れたらどうなるんだろ。満たされたと喜ぶのか二度と溜まらないくらい壊れてしまうのか」

時計塔からみる瓦礫の山を見下ろして――俺に聞いた。

「どっちなの?」

あぁ、そっか。ここはオレが……。
彼は俺の真意を探っていた。

異物を見るように冷たい眼差しと、何か哀しそうな眼差しで、尚も俺に問う。

「ただ余りにも失ったものが多すぎて……。形の無い思いや、この……壊れた町のように、君は何を失ったの?
何を奪ったの?」

首の十字架を握りながら聞いた。
何を失った?
何を奪ったって?
失ってはないよ、消したんだ……全てを。

奪ったんだ。

『        』

を。

「それが答えなんだね」

天使は優しく包み込むような言葉をくれた。

「オレはずっと君が心配だったんだ。オレと同じで異質だから……そして君のせいでオレは、しばらく彼女からもらった十字架を首からかけれないから」

天使は時計塔の上から砂漠へ、
黒い艶やかな十字架を突き刺した。

空へ大きな翼を広げ、彼は俺を見下ろした。

彼の片方の翼の色は……黒色。

「俺も『時』の神が暴走した世界のお陰で、生まれた存在だけれど」

君はこの何十年も苦しんだ町を守った、とも言える

そうなりゃ、残された道は一つだろ?

意地悪で甘く俺を誘惑する綺麗な言葉。

―――あぁ。そう綺麗な言葉で片付けられたら素敵だよな……
「大切なものからは絶対に手を離さないで。

また会える日を待ってるよ。

その時は…オレも自分の存在を認められているかな……」

彼は遠くを見つめて。

俺に言った。

必ず……と。

必ずの後を少し暈した。

暈して濁した言葉の裏の意味を理解してオレは深く頷いた。

天使は安心したようで、その美しい翼で羽ばたき、消えていった。

俺は笑顔でそれを見送った。

彼が飛び去った後には、いつしか灰は消え去り、灰空だった空に光を照らしだした。

彼がまだ、自分の翼の色で
自分が『 』である事を否定していた天使の頃の話だ。
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