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神様の話。
┗少女と。
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二人の間には、大きい、とてつもなく大きい壁があった。
好きでも、大切でも、その壁は壊れない。少女の顔はどんより落ち込んでしまっていた。
幼い少女にはまだ早い現実だったかと俺は後悔と覚悟をした。
けれど
「―間違ってたって……時の神様は大地の女神様にとても優しかったよ……」
少女は腕の中に顔を埋ませて言った。
それは酷く悲しく切ない話。
「しょうがないよ。価値観が食い違っていたからね」
もっともっと互いに話しをして理解しても無理なんだ。
生きる意味をくれた大地の神だけが、時の神の魂を輝かしてくれたから。
時の神には大地の神が絶対的存在なんだよ。
「でも、時の神様は今も孤独と生きているんでしよ?」
「そうだよ」
「今はどこにいるの?」
「俺もよく分からない」
時の番人ですら、滅多に会わない時の神の事を、俺が知るわけないだろう。
「ただ、壊れたオルゴールみたいに同じメロディばっか歌ってその歌の中に、大地の神との記憶を封じてしまったらしいけどね」
歌っている間は、忘れてしまっているらしい。
全てを忘れる事は出来ないけれど、気を紛らわすにはそれしか方法はないからね……。
「でも、忘れていいものなんて何も無いと思うの」
大地の神は、ずっと愛しているのに、辛い思い出ばかりに目をやるなんて、過去を嘆いてばかりじゃ未来の幸せに気付かない。
「全くその通りだね…」
罪に囚われて、心を凌駕されて、怯えて……。
君から見たらきっと、なんて愚かで馬鹿なのかと思うだろうね。
人の命を奪ったことのない人がいう、もっともまともで誠実な意見だ。
間違ってはいないけれど。
綺麗すぎて俺とは違いすぎるよ…‥。
君の心の中には、生きた時間が、ちゃんと輝いて存在しているんだから。
だから、俺は醜い化物なんだ。
君の前でははっきりそう、感じられる。
「君は今孤独かい?」
俺が意味深に問いかけると、君は挑むように答えた。
「寂しいって事でしょ? 当たり前だよ。友達が死んだもの。
でもお兄ちゃんもパパも帰ってくるわ。そしたらまた皆で泣くもん。だから寂しくなくなる」
まるで、自分に言い聞かせるみたいに。
全身が震えて、足だって頑張って踏ん張っているのに。
本当は寂して、寂しくて、寂しくて
沢山沢山泣いたろうに。
それでも君は泣くのを止めた。
……俺は目を伏せて、少女に敬意を示すように跪く。
「君は決して狂わないでね」
少女は首をかしげる。
「くるわないよ」
狂う、と意味は難しかったか。
君は、俺が理想する答えをくれるからつい、年相応な感情以上を聞いてしまう。
君には、まだ何も知られたくないのに、君の答えを知りたがる。
なんて俺は馬鹿なんだ。
大丈夫。
君は「時」の神のように狂わない。
君は友達の事を決して忘れたりしないから。
そして、君が友達に抱いていた思いはもしかしたら…
「ねぇ、次はこんな話はどうかな?」
少女は俺の言葉にまた耳を傾ける。
この世界は、地位や名誉や家柄がその人の価値を決めるんだよ。
不平等な世界なんて少なくないし、それに気付かず、それが当たり前だと思ってる世界、なんて
まだ少女には知らなくて良い世界なのにね。
俺は何に焦って先走っているのだろうか?
ただ、少女が友人に抱く気持ちが、恋心だったらと思って。
余計な事まで話しすぎたね……
「絵描きさん……どこか痛いの?」
心配そうに覗き込まれた。
少女の瞳は吸い込まれそうに綺麗だ。
「なんで?」
ちゃんと笑っているだろう?
「だって辛そうだもん。熱があるみたい」
――まさか。
化物の俺が熱なんて
「絵描きさんは、こんな小さな島の農村まで旅をするのは何でなの?」
――困ったなぁ。
どんな答えも君は首をかしげるよ。
強いていえば、
つばめが冬になったら南の島へ旅立つだろう?
冬の寒さを凌ぐために。
そんな感じ。
南の島を探しているんだよ。
――今も。
そしてここにいる。
尚も少女は俺の顔色を心配気に見ている。
「私、絵描きさんの話聞くの好きだよ」
でもね?と少女は言う。
無理に話さなくていいからねって
それは、
俺の心に沁みる最高の優しさ。
だから、話させて。
もっともっと君の笑顔を。
好きでも、大切でも、その壁は壊れない。少女の顔はどんより落ち込んでしまっていた。
幼い少女にはまだ早い現実だったかと俺は後悔と覚悟をした。
けれど
「―間違ってたって……時の神様は大地の女神様にとても優しかったよ……」
少女は腕の中に顔を埋ませて言った。
それは酷く悲しく切ない話。
「しょうがないよ。価値観が食い違っていたからね」
もっともっと互いに話しをして理解しても無理なんだ。
生きる意味をくれた大地の神だけが、時の神の魂を輝かしてくれたから。
時の神には大地の神が絶対的存在なんだよ。
「でも、時の神様は今も孤独と生きているんでしよ?」
「そうだよ」
「今はどこにいるの?」
「俺もよく分からない」
時の番人ですら、滅多に会わない時の神の事を、俺が知るわけないだろう。
「ただ、壊れたオルゴールみたいに同じメロディばっか歌ってその歌の中に、大地の神との記憶を封じてしまったらしいけどね」
歌っている間は、忘れてしまっているらしい。
全てを忘れる事は出来ないけれど、気を紛らわすにはそれしか方法はないからね……。
「でも、忘れていいものなんて何も無いと思うの」
大地の神は、ずっと愛しているのに、辛い思い出ばかりに目をやるなんて、過去を嘆いてばかりじゃ未来の幸せに気付かない。
「全くその通りだね…」
罪に囚われて、心を凌駕されて、怯えて……。
君から見たらきっと、なんて愚かで馬鹿なのかと思うだろうね。
人の命を奪ったことのない人がいう、もっともまともで誠実な意見だ。
間違ってはいないけれど。
綺麗すぎて俺とは違いすぎるよ…‥。
君の心の中には、生きた時間が、ちゃんと輝いて存在しているんだから。
だから、俺は醜い化物なんだ。
君の前でははっきりそう、感じられる。
「君は今孤独かい?」
俺が意味深に問いかけると、君は挑むように答えた。
「寂しいって事でしょ? 当たり前だよ。友達が死んだもの。
でもお兄ちゃんもパパも帰ってくるわ。そしたらまた皆で泣くもん。だから寂しくなくなる」
まるで、自分に言い聞かせるみたいに。
全身が震えて、足だって頑張って踏ん張っているのに。
本当は寂して、寂しくて、寂しくて
沢山沢山泣いたろうに。
それでも君は泣くのを止めた。
……俺は目を伏せて、少女に敬意を示すように跪く。
「君は決して狂わないでね」
少女は首をかしげる。
「くるわないよ」
狂う、と意味は難しかったか。
君は、俺が理想する答えをくれるからつい、年相応な感情以上を聞いてしまう。
君には、まだ何も知られたくないのに、君の答えを知りたがる。
なんて俺は馬鹿なんだ。
大丈夫。
君は「時」の神のように狂わない。
君は友達の事を決して忘れたりしないから。
そして、君が友達に抱いていた思いはもしかしたら…
「ねぇ、次はこんな話はどうかな?」
少女は俺の言葉にまた耳を傾ける。
この世界は、地位や名誉や家柄がその人の価値を決めるんだよ。
不平等な世界なんて少なくないし、それに気付かず、それが当たり前だと思ってる世界、なんて
まだ少女には知らなくて良い世界なのにね。
俺は何に焦って先走っているのだろうか?
ただ、少女が友人に抱く気持ちが、恋心だったらと思って。
余計な事まで話しすぎたね……
「絵描きさん……どこか痛いの?」
心配そうに覗き込まれた。
少女の瞳は吸い込まれそうに綺麗だ。
「なんで?」
ちゃんと笑っているだろう?
「だって辛そうだもん。熱があるみたい」
――まさか。
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――困ったなぁ。
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そんな感じ。
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「私、絵描きさんの話聞くの好きだよ」
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もっともっと君の笑顔を。
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