「夢」探し

篠原愛紀

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エピローグ

忘れないよ。

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いつか会えた時には、ごめんねとありがとうを言わなくちゃ、ね。


ーーーーーーーーーー


「ありがとうございました」

私とお兄ちゃんは、医師と看護士さんに、深々とお辞儀をし、御礼を述べて病院を後にした。

「本当に、心配かけやがって、この馬鹿」

お兄ちゃんに軽く小突かれても、私は苦笑いしかできない。

私は、1週間前に、車に跳ねられた。

――らしい。

覚えていない。

ただ、小さい女の子が飛び出したのを、私は無意識の内に助けようとしてしまったんだ。
叫んだ気がするけれど、間に合って良かったって思った。

女の子は、無事で元気にこの前、私をお見舞いに来てくれた。

事故に会ったその日から、私は3日3晩、意識不明の重体。

どこかの、弱々しい王子様みたいで笑ってしまったけれど、お父さんとお母さんとそして、口の悪いお兄ちゃんには散々怒られた。

「本っっ当に愛理は目が離されねぇな。今度から毎日学校に迎えに行くからな!」
お兄ちゃんに睨まれた。

心配かけた事は謝るけれど、私だってもう来年から高校生だし、いくらなんでも、いい加減に妹離れしてよ、お兄ちゃん。

「なんで迎えに行くのが嫌なんだ! ハッ――! もしかしてお前! 彼氏いるのか!?」

お兄ちゃんの検討違いの考えに、ため息しか出ない。
立場上、強く言い返せないのも辛い。

「相手の名前は!? お兄ちゃんはまだ愛理には早いと思うぞ!!」

――言い返せない立場なので、無視することにした。

空は、快晴。
雲一つない。
ごちゃごちゃしたビルが、鉄の森みたいに立っている。

そんなコンクリートの町で、私は、人の歩く方向に止まることも流れる事もなく、ただ立ち尽くす。

「好き、どころか名前さえ、知らなかったもの」

ちょっと自分自身を悲観していた、
優しすぎる、あの人を。

私は、『夢』から覚めても過ごした『時』間は忘れてなかったから。

「名前さえ知らないってどういう意味だ! 説明しろ!」

ああ、もう。人が感傷に耽っているっていうのに。

すると『風』が吹いて、いつの間にか、小雨が。

手をかざしても、雨の感触は伝わって来ないけれど、こんな、晴れた日に、雨が降るなんて。

私は、近くにあった歩道橋を駆け登った。

だって空は、虹色の夢を見る時、優しく奇跡を降らすから、だから、奇跡を夢見らずにはいられなくて。

「愛理っ」

お兄ちゃんの声、が遠くにする。

「時」はゆっくり、流れた。

歩道橋の上に、奇跡が存在したから。

風が、空に雪の変わりに紙を撒き散らしていた。

それ、を私はゆっくりキャッチした。
その人は情けない笑顔で、飛び散った紙切れを集めていた。

小雨で少し濡れた紙切れを何枚も、何枚も。

歩道橋を歩く人達は少し伺いながらも通り過ぎでいく。

私は、震える手と心臓を、深呼吸して無理矢理押さえて、集めた紙切れを、その人に差し出した。

「……ありがとう」

ちょっと照れ臭そうに笑って、紙切れを大事そうに抱えている。

「やっぱり、君だけしか立ち止まらないよ」

相変わらず、世界は何も変わりはしないさ。

世界が変わらないのに、俺の存在があるという事は、なんて素敵な奇跡なんだろうね?

「けれど、君にまた逢えるならば、なんて幸せな世界だろうって思うよ」
そうだね。確かに、素敵な世界かもしれない。

こうして、貴方の人間らしい笑顔が見れたのだもの。

風も、雨も、もしかしたら、「時」間さえも、感じられないこの心地よさ。

それでも、お互い、現実と向き合う為に『夢』から覚めるために。

「愛理っていうの」

番人さんは?

その人は集めた紙切れを、スケッチブックに雑に挟み閉じると私の背まで、掛かんで言った。

「俺は、ね」

これで、私と番人さんの物語は終わり。

夢から覚めてしまったけれどそれでも今度は、この鉄の森の中の彼のいう素敵な世界で、一緒に時間を過ごしていく。

「素敵な名前だね」

って私が笑うと、ありがとうって彼は言った。
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