英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

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イベント当日

イベント当日 六

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時間はまだ20時を過ぎてもいなくて。
調理場には明かりが着いていたのですぐに覗いてみた。

「あの、幹太さん」
「!?」


幽霊を見たかのように、ばっと振り返られ、へらりと笑ってしまった。

「お前、迎えも俺が頼まれてたんだが、どうやって帰った?」

少ししかめっ面な幹太さんは、普段なら怖かったけど今は外でデイビットさんを待たせていたから気にしない。
早口で要件だけ言って逃げかえろうと決めていたし。

「着物、預かってくれてありがとうございました。迎えは大丈夫です。幹太さんに迷惑かからないように連絡いれましたから」

今日は友人の家に泊りますとお手伝いさんに伝言を頼んできた。
生娘の言いわけみたいだと苦笑しそうだったがその通り過ぎて上手く笑えない。

その代わり、汚してしまったワンピースを綺麗にしたかっとので着たくもない着物に着替えて調理場を覗いていたんだから。

「あのイギリス人の所か?」
呆れたように溜息を吐かれたけど、嘘を付きたくなくて頷く。
幹太さんは洗い物をしていた手を止めて、射るような目で私を真っ直ぐ見た。


だから私も真っ直ぐに目を見る。やはり、ちょっと怖いけど。

「そうです」
「嘘ん臭いけど、俺は知らないぞ」
「嘘臭いですか?」

あんな綺麗な瞳のデイビットさんが?

首を傾げると、幹太さんは小さく舌打ちする。

「そんなに隙だらけだから、俺なんかと!」

俺なんかと?
その次の言葉を待っても、幹太さんは黙ってしまった。
そのまま背を向け、蛇口を捻るとまた洗い物を再開する。

「お前がうちに来た意味を理解した時にはもうお前に選択権はなくなっているかもしれんぞ。しっかり流されるなよ」

口調は突き放すように冷たいけれど、きっと心配してくれてるんだと思った。

「ありがとうございます」

幹太さんの言葉の意味が分からないことだらけだったけど、考える余裕なんてどこにもない。
私は重くてキツいだけの私を鳥籠に縛り付ける鎖のような着物を巻きつけて、デイビットさんの元へ駆けだす。約束の夜を過ごすために。
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