英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

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イベント当日

イベント当日 五

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「美麗、退屈ですか?」

ぼーっとしていた私の顔を、デイビットさんが覗きこむ。

「あ、やや、その」

本当に宝石に例えられるほど綺麗な碧眼の瞳に私が映るのが、たまらなく恥ずかしい。

両手をブンブン振り回し、頭を振る。

「あっちのマフィンが美味しそうなので取ってきますね」

後ずさりして、距離をとるとデイビットさんは不思議そうに首を傾げた。
そんな姿まで絵になるからずるい。

今さらながらに、この人の隣なんて不釣り合いすぎて悲しくなってくる。

「あ」

後ろから聞こえてきた声に、振り向くよりはやく冷たい何かが足にかかった。

「すいません!」

振り返ると、御盆の上に何枚もの皿を重ねて下げようとしていたウェイトレスさんに私がぶつかってしまったのだ。

「私こそすいません、邪魔してしまって」

身体を半分に折るぎらい深々とお辞儀して謝ると、濡れた足に目が行く。
ベビーピンクの淡いワンピースに、真っ赤なワインが飛び散っていた。
せっかくデイビットさんが用意してくれた服を、私の不注意で、汚してしまった。
くらりと眩暈で一気に血の気がひいてしまう。

「どうされました?」
「あら、大変」

デイビットさんと佐和子さんが駆けつけてくれたけど、申し訳なくて既に涙で視界が滲んでいた。
けれど、おろおろしているウェイトレスさんに心配をかけないように笑う。

「大丈夫です。ちょっと、御手洗い借りますね」

「ちょっと待っててね。私も行くわ」

佐和子さんも着いて来てくれてゲストルームに通され、そこの化粧室の椅子に座りハンカチでトントンと叩くが完全には消えない。

「着替えて早く染み抜きした方がいいわね。家まで送るわよ」

「家は、まだ帰りたくないです」

汚れたスカートを握りしめ、嫌だけどもうこれしか無かった。

「着替えてきます。近くの職場で着替えて此方に来たので、戻って着替えて」

着物になんて着替えたくなかったけど、服を汚したのは私だからときつく唇を噛む。
デイビットさんに頂いたものを私……。

「美麗?」

化粧室をノックされ、佐和子さんがすぐにドアを少し開けた。

背が高いから、佐和子さんの頭の上からすぐに私に視線を送って、心配そうに首を傾げる。

「服なんて気にしないで下さいね。今から着替えを買いに行きましょうか?」

デイビットさんは借りれそうな服がないか聞きまわっていたと佐和子さんとの会話で分かったけど、それ以上は甘えられなかった。

「この服が良いんです。あの、だから御願があります」

立ち上がって、ワンピースの裾を握りしめながらデイビットさんの顔を見上げた。
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