英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

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賭けの夜の行方。

賭けの夜の行方。二

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彼の大きな手が、私の胸を覆う。その温もりと、その愛撫に思わず体が大きくしなった。

「可愛いね」

私の慣れていない様子に、彼が笑った。そして覆いかぶさっていた身体を起こすと、ジャケットを脱ぎ、ソファに投げた。
そして袖口のボタンを外す。そんな仕草さえ絵になる。

いつの間にか、淡い月の光の中、目が慣れてしまっていた。

浮かび上がるデイビットさんの上半身。引き締まった筋肉は、私の丸みのある体とは全然違った。

「貴方を一目見た時から、こうしたいと思っていました」

固まっている私の唇に触れながら、彼が言った。


「貴方を抱きます。――私に一夜、貴方をください」

真っすぐで、嘘偽りなんて感じない。
日本語で話してくれるから、飾らないシンプルな言葉ばかりだ。


「わ、私、初めてで、何もわからないで、す」

恥ずかしくなって両手で顔を覆い隠すと、彼は笑わなかった。

「その方が、嬉しい。私をずっと待っていてくれたんですね」


覆い隠していた両手を掴まれ、顔から離されると彼の顔が近づいてきた。

触れる唇。確かめるように何度も角度を変えた口づけ。
数回目のあと、温かい舌が侵入してきた。

「んっ」

上手く息ができなくて、声が漏れる。

苦しいのに、身体が甘く切なくなるのはどうしてなんだろう。

 デイビットさんは、初めてだと泣く私を優しく抱いた。奉仕するように、一つ一つを丁寧に、そして暴いていく。足のつま先から、髪の毛一本まで丁寧に丁寧に扱われる。


彼の指が、唇を撫でた後、肌を這い、――私の下着の中へ入ってくる。

 馬鹿な日本人の一人だと思われているかもしれない。言い寄って来る日本人の一人でしかないかもしれない。でもそれでもいい。この人は少しだけ、鳥かごから出して外を見せてくれたのだ。

 初めてを知らない人に捧げるぐらいなら、金髪碧眼の王子様に捧げてもいいじゃない。一夜だけ、賭け事にノッて、魔法をかけられた気分に浸っても。

「まだ、怖い?」

緊張している私に、指を動かしながら聞いてくる。

「こ、ひゃ、ぁっ……こ、怖い、です、んっ」

戸惑う私に、デイビットさんは優しく耳元で囁いた。

「では私のキスで貴方が蕩けるか賭けませんか?」

その言葉が紡ぎ出される優しい唇が、私に優しく触れた。

賭ける必要なんてない。蕩けて溶けて、一つになるんだから。

身体の奥を暴かれる。けれど、その指が、その唇が、その吐息が甘くて、私も受け入れたくて身体を濡らした。

シーツの海を、何度も何度も爪で引っ掻いて波を立てては、押し寄せる快楽を押し返す。

「ふぁっ」

情けないぐらい甘い声が出た。不安だった。

「美麗」

ただ、強張ったり震えていた私を、何度も呼ぶ彼の甘い声。

その声を聞くだけで、身体がじわりと甘く濡れていく。

「……美麗。ずっとあなたをこうやってこの胸に抱きとめたかった」

「ぁっああっ」

シーツに爪を立てていた腕を、彼は自分の背中へ回す。

「君の痛みを、私にも下さい」

背中に流れる赤い線。

彼は赤い糸みたいだと笑ってくれるかもしれない。

でも私には、貴方を縛ってしまいそうで、嫌だった。

一夜限りの、甘い賭けなのに。

ゆっくりと入ってくる彼の熱が、私の頭を真っ白にさせる。

腰を動かし、入り口をやわやわと刺激しながら口づけし、首に舌を這わせた。

「――っ」

苦しそうなデイビットさんの押し殺した声はセクシーだった。

「一緒に、気持ち良くなってくれますか?」

私は、下半身の快感に目をぎゅっと閉じて頷くしかできなかった。

大きくピストンされ、くちゅっと繋がっている部分が卑猥な音を立てた。

なのに、体中は甘く痺れて幸せだった。

「私の――美麗」

腕の中に閉じ込めるように抱きとめると、中で大きく彼のモノが波打って暴れ、爆せた。



「このまま、閉じ込めてしまいたい」

涙を浮かべた瞼に口づけされながら、彼のその言葉だけで幸せだった。

お互い、荒い息を整えたのち、どちらからともなく口づけた。


 お互いの汗で肌が滑り、シーツはぐちゃぐちゃになったが構わない。その日は、デイビットさんの腕枕で朝まで眠った。硬くて冷たい腕枕をされながら聞いたのは、またあの言葉。

「私は、賭けが好きなんです。この賭けにも負けませんよ」

 その意味を知るのは、まだ先のことだけれど。
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