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デート記録と婚姻届。
デート記録と婚姻届 十一
しおりを挟む「子供の為にも、国籍だって日本で良いのか、それでいて貴方がイギリスに、全てを捨てていけるのか。私が知りたいのはそれだけです」
優しいデイビーの口調にほだされそうになる。
でも、違う。そうじゃない。
私は、また誰かに決められてその上のレールを歩くだけじゃ、結局何も変わっていない。
デイビーに守られて、今度は彼に餌を貰うだけになってしまう。
「ごめんなさい、貴方の事は好きだけど着いて行くのはもうちょっと待ってほしいし、国籍とかは子供が大きくなったら選べるなら選ばせてあげたいし、私、私、今、したいこと放ってイギリスに行ったら、きっと後悔する。
後悔して、きっと貴方のせいにしてしまうんだ」
そう。他人のせいにするのは、簡単。気持ちだってきっと軽くなる。彼もきっと私を許してしまうし。
自分だけがどんどん嫌な奴になってしまうんだ。
「でも、でも、デイビーとも離れたくないよ」
やっと傍に居れると思ってたのに。
一夜限りじゃなかったし、母のことだって、赤ちゃんのことだってやっと乗り越えられたのに。
「行かないで、下さい。嫌だ」
酷いワガママだ。彼の事も、彼の仕事も考えない、自分だけの気持ちを優先にした、我儘。
「分かりました」
彼の受け止めてはくれたけど、口を押さえて下を向いてしまった。
我儘できっと厭きられている。
それがとても悲しくて。
でも、中途半端なまま着いてくより、はっきりこう言うしかなくて。
「泣かせてごめんなさい。ぎゅってしてキスするから、――許して下さいね」
デイビーは、そう言うと私をそのまま胸に押しつけるようにぎゅうぎゅうに抱き締めてて、頭にすりすりすり寄って、何度も何度も額に口づけしてくる。
「泣かせて、でもこんなにいじらしくて、純粋で。――どうか美麗、私の嘘を御許しください」
「え?」
嘘?
今、嘘って言った?
「どれぐらい貴方がその道へ進むのに本気かどうか試してしまいました」
「試すって……え?」
「嘘です。任期が終わるのは嘘です」
「ええ!?」
「離れたくないと、涙を溜める美麗、可愛かった。ああ、お腹に愛しいわが子が居なかったら大変なことでした」
どう大変なのかは聞きたくないけど、――今、任期が終わるのは嘘って言った?
「で、デイビーの馬鹿!」
「ごめんなさい」
にっこり甘い笑顔で謝るその顔は、全然反省していない!
試すなんて、そもそも賭け事もそうだ。人の気持ちをそんな風に試して私があたふたするのが面白いだけなんだ。
「そんなに信用されていないなら、知らない! デイビーなんて嫌い」
「私は、大好きです、今、ますます好きになってしまいました。愛してます」
「うるさい! うるさいです!」
ポロポロ涙が溢れてくる。
真剣に悩んだのに。真剣に考えて、デイビーの足かせになるような我儘だって吐いたのに。
「そんなデイビーさんなんてこうだ!」
私は、観覧車の中でぴょんとジャンプした。
すると、微かに揺れた気がしてデイビーが少し目を泳がせる。
「美麗、駄目ですよ。揺らしたらもしかしたら落ちてしまいます」
「知りません。えいっ」
「美麗!」
座っている部分にデイビーが両手を着く。
組んでいた足も戻し、高所恐怖症のデイビーは表情に微かに焦りが浮かぶ。
デート記録と婚姻届 十八
「美麗! 駄目ですって。ロマンチックにキスしましょうって」
「しませーん!」
とっくに頂上なんて過ぎているし、私だって怒っている。
言葉で伝わらない場合、多少は行動しようって決めた。
ゆらゆら揺れる観覧車。
空に浮かぶ私たちの揺れる観覧車。
キスしようと抱き締めてくるデイビーから逃げる為に向こう側にジャンプするとよく揺れた。
それがとても面白くて、声を出して笑う。
ちょっとだけ、デイビーは真っ青になっていたけれど、私の笑い声に目を細めてくれた。
その後、降りた私たちは、どちらからともなく手を繋ぎ、また観覧車に乗った。
揺らして仕返しをしただけでは伝わらないことを、話すために。
デイビーは私が佐和子さんの下で勉強することをすごく喜んでくれて、だからこそついきつい賭けをしてしまったと心からの謝罪を貰い、私もあそこまで言ってくれなければきっと甘い考えを持ってしまっていたかもと感謝した。
その観覧車の中で、空に月が輝きだすのを二人で見て、頂上で仲直りのキスをした。
夜に隠れて、甘く蕩けるキスを。
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