英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

文字の大きさ
56 / 71
甘い紅茶。

甘い紅茶。一

しおりを挟む
結納が終わったある午後のこと。
結納と言っても、デイビーのご両親は亡くなってるし、お兄さんの船は今はオランダ辺りだし、仲人を引き受けてくれた佐和子さん達や、叔母さん伯父さん達が挨拶を交わしたぐらいのうちの親にしては簡単なものだった。

それでも、うちの親と同じぐらい頭が堅い方々だからデイビーを見てぎょっとしていた。

でも母のオーラが文句を言わせないといった頑固たるものだったことと、お父さんの古くからの友人の息子だということ、デイビーの人柄がなんとか伝わったのだと思う。



「私、いつお義兄さんって呼ぼうかな」

座敷に飾った結納の品を眺めながら、美鈴が言う。
すっかり、あの悪い大人の虜になっている。
デイビーは、優しい顔の裏は強かで計算高くって、ちょっと悪い匂いがするのにだまされちゃって。

いや、一番私が騙されてるけど。


「美麗、貴方、立花さんの御手伝いしなさい」

「え?」
いつの間に背後に現れたのか、母は縁側からひょいと現れる。

「嫁に行くならそろそろご飯も作れるようになりなさい」
「え、あ、はい……」

「デイビットさん、どんな御飯が好きなのかも聞かなきゃね。和食でいいのかな。イギリス料理?」

料理、薄々頭の中で浮かんできたりしてたのだけどそろそろ習わなきゃ、か。

御庭を佐和子さんと見ているデイビーの背中を見ながら台所へ歩く。

今日はもう結納用の会席が届くことになっているけど。

「あら、良かった。ねえ、美麗さん」
台所で立花さんが料理本を机に置いてにらめっこしていたが、私を見て駆け寄って来る。


「どうしたんですか?」
「デイビットさんって、紅茶の本場イギリスの方ですよね。美味しい紅茶の入れ方を見てたのですが、種類はどれが良いでしょうか」

「ええ!?」
台所のテーブルの上には、高級そうな紅茶の缶が何個も置かれている。

でも、私もデイビーが紅茶を飲んでいるところ見たことないし、どれが美味しいとか分からないけど。

「好きな銘柄だけでも聞いてきて頂けますか? ティーバックなんて出したら怒るかもしれませんし」

立花さんは、戸棚からどんどん紅茶の葉を取り出す。
有名百貨店でしか買えない、本場イギリスからの取り寄せの品とか、貴族御用達とか、美味しい紅茶の入れ方入門書には、付箋だらけだ。
ティーバックの紅茶も味の研究の為に買っている始末だ。

「えっと悩むより、本人に教わった方がいいかもしれません」

「駄目です。駄目です! 殿方を御台所に入れるなんて!」

50半ばの立花さんは、そんな今時誰も言わないような台詞で慌てていたけれど、それはこの家が女性しかいなかった時間が長かったからだと思いたい。


台所から縁側を通り、デイビーが佐和子さんと談笑する桜の木の前に行く。

緑の葉の桜の木の下なのに、私には鮮やかな桃色の桜の花びらが舞い交う様子が見えるようだ。

「デイビー」

私が呼ぶと、彼はすぐに振り向き、忠犬のように駆け寄って来る。

「どうされました? 危ないから縁側から身を乗り出さないでください」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...