英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

篠原愛紀

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それからそれから。

それからそれから。三

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「よし。着いたが、ちょっと座って待ってろ。後ろに積んでいる和菓子、納品してくる」

停めたのは、イギリス大使館の南口。雪が積もった桜の木が良く見える。
門は開け放たれておらず、イベント開始時刻までまだ時間があるようだ。

台車に乗せた和菓子を押しながら、幹太さんが大使館の管理室の方へ向かっていく。


(このイベント準備で最近は一緒に夜ご飯食べてないんだからね)


定時にきっかり帰って来るデイビーが、イベント前になると忙しいのか楽しいのか、仕事に夢中で家に帰って来るのが極端に遅くなる。


お腹が大きくなる前にと、縁のある神社で身内だけの結婚式は済み、まだ悪阻もなかった時は少しづつデイビーの家に私の荷物を送っていたけれど、出産も出産後も家で少し御世話になるからとデイビーは、鹿取家に居候中。

だから、二人でゆっくり出来る時間も今はほぼなく、――ちょっと寂いしいけれど。
「美麗」

「デイビー?」
門から大声で私の名前を呼び、大股で走って来るのはデイビーだった。
私より朝早く出かけたから、今日は初デイビーだ。

「春月堂から連絡を頂きまして、美麗が此処に来るからと」
「お仕事中じゃないの?」
飛び出してきたデイビーが、私の為に息を切らして走って来る姿は嬉しいけれど、迷惑じゃないのか不安になる。

「大丈夫です。あとはゲストを招き入れるだけですので。飾りつけはほぼ業者ですし、あ、でも和菓子の試食がしたいですね」

「もう」

ウインクするデイビーは、車のドアを開けて手を差しだしてくれた。
そしてすっと左腕を組んで、私をエスコートしてくれる。

「中で御茶でもしませんか。できれば、私だけ飛び出してきたので和菓子の説明とか、聞きたいですね」

「ふふ。何回も食べてるし、目を瞑っていても説明文、言えるでしょう」

季節の和菓子が良いからと、何度も春月堂へ赴き、試食と称してほぼ全種類は食べてしまっているくせに。
そう思いつつも大使館へと歩き出す。
お腹が大きくなって、実は車の中で座っているとちょっと腰が痛くなるので、歩いたほうが気分は楽だった。

「美麗は小さいのに、こんなにお腹が大きくなって――私は美麗がひっくり返らないか心配です」

「大丈夫だって。なんで美鈴もデイビーも同じ心配してくるの」

「心配しますよ。大切なのですから」

さらりと甘い言葉を吐き、優しくお腹を撫でてくる。

時間があると、お腹に耳を寄せて会話したり、優しく撫でてくれたり、彼も初めての赤ちゃんに喜んでくれている。

「お母さんがお腹の膨れ方が男の子だって言ってくるんだから、賭けの心配の方をしていたら?」
「お腹が丸いか尖っているかなんかで中の赤ちゃんが分かりますか。絶対女の子です」

デイビーの主張もおかしいのだけれど、彼は赤ちゃん用品をほぼ女の子っぽい色で揃えているから、もう後には引けないのかもしれない。

南門をくぐり、雪で白く覆われた桜の木を見上げていたら、デイビーがハッと白いジャケットを脱いで私の肩へかけた。

「ちゃんと羽織って来てるから大丈夫なのに」

   
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