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番外編:抱き締めたい
抱き締めたい
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コトコトとシチューが煮える。
あと数分で出来上がるかなと、洗い終わったお皿を拭きながら、自分の家事の手際の良さに大満足していた。
「美麗、美麗」
「はいはーい」
エプロンで手を拭きながら、パタパタとスリッパの音を響かせると、デイビーが「しー」っと人差し指で静かにするよう促す。
「さくらと私を、写真に撮ってくれませんか」
「……」
私、今料理してたんですけど。
すっかり親バカなデイビーの一眼レフを手に取りながら、こめかみがひきつる。
それでも、桜と同じポーズで寝たふりするデイビーと、気持ちよさそうに眠るさくらを見ていたら、そんな気持ちもどうでもよくなる。
「撮れた?」
「撮れました。もうご飯をよそいますよ」
「ああ。もうお腹がペコペコです」
にっこり笑うと、名残惜しげに起き上がり桜をベビーチェアに移動させた。
オムツも変えなくていいか確認しつつの、手なれた素振りで。
首が据わった桜は、もぞもぞと動くようになりデイビーは初寝がえりを見たくて家でもほとんど桜にべったりだった。
その、ちょっと寂しいなっとか思ったり思わなかったり。
でも、家事も料理も手伝ってくれるし、夜泣きには何故か一緒に起きてあやしてくれる上に、仕事も忙しいし。
世の奥様方からしたら、私の不満なんてきっとただの我儘でしかないはず。
「頂きます」
「どうぞどうぞ。私も頂きます」
デイビーは、トマトが好きなのか食事の席では一番にサラダのトマトをお皿に乗せる。
それが、ちょっとだけ可愛くて私は好き。
「そう言えば、桔梗さんは三カ月でお子さんを保育園に預けたんですよね? 美麗はどうします?」
「うーーん。まだ手離したくないし、近くの保育園に空きが無いから待機中」
三月生まれというのもネックで、月齢が低いとそれだけ保育園の入るのは難しい。
「早く、春月堂を手伝いたい気持ちもあるけど」
「佐和子さんへの弟子入りは?」
「本格的にしていきたいなら、――今は急いじゃ駄目って。私もそう思う」
残念ながら、自分の要領のなさ、悪さには自信がある。
きっと、家事と子育てと書道なんて上手く両立できない。
それに、桔梗さんが一人で取り仕切ってくれてる春月堂だってお世話になったのに、すぐに関係ないと放り出したくないし。
「色々ね、悩むの。英語と日本語、両方で会話して育てていこうか、それは負担にならないのか。言語も大切だけど、小さな頃の純粋な心で、日本の四季を感じて心を養って行って欲しいとか。私は親が決めた稽古事がばりで嫌だったけどこの子はどうしよう、自分で言えるかな、私は背中をおしてあげれるかな、とか」
まだ生まれて三カ月の桜に対して、私の考えは重すぎて締めつけにならないかな、と。
「美麗、ご飯中ですが許して下さいね」
頬に手を当てて、美味しいと蕩ける顔をしていたデイビーは、スプーンを置くと少し椅子を引いた。
そして自分の膝をポンポン叩く。
「おいで、美麗」
「――っ」
そんなに優しい声で言われたら、抱き締めずには居られなくて。
ちょこんとデイビーの膝に横向きで座ると、そのままデイビーにお姫様だっこで抱えられた。
「最近、桜にデレデレしすぎて、貴方を一人で悩ませ泣かせる所でしたね」
「そ、そんなこと! あ、でも、ちょっとは寂しかったです、でも、その」
「可愛い!」
ぎゅうっと抱き締められると、デイビーはそのまま立ち上がった。
「可愛いです。――食べてしまいたい、美麗」
「あの、食べるのは、先にシチューにしてくださ」
「我慢できません」
やすやすと私を抱えて、寝室へと向かう。けど、その。
「桜がそろそろお腹を空かせて起きると思います」
「大丈夫。さっき寝たからまだまだ起きませんよ」
「でもっ」
「賭けてもいいですけど、どうしますか?」
うううう。桜、ごめんね。
今は、ちょっとだけデイビーを独り占めさせて。
久しぶりに、甘えたいの。
観念した私は、デイビーの首へ抱きついた。
「次は、男の子でしたよね」
「い、言わないでください」
真っ赤な茹でたこみたいな私を、デイビーは蕩けんばかりの笑顔で見つめてくる。
貴方の賭けは、信用しているから。
だから、甘く甘く抱き締めて。
甘く甘く、抱き締めたい。
あと数分で出来上がるかなと、洗い終わったお皿を拭きながら、自分の家事の手際の良さに大満足していた。
「美麗、美麗」
「はいはーい」
エプロンで手を拭きながら、パタパタとスリッパの音を響かせると、デイビーが「しー」っと人差し指で静かにするよう促す。
「さくらと私を、写真に撮ってくれませんか」
「……」
私、今料理してたんですけど。
すっかり親バカなデイビーの一眼レフを手に取りながら、こめかみがひきつる。
それでも、桜と同じポーズで寝たふりするデイビーと、気持ちよさそうに眠るさくらを見ていたら、そんな気持ちもどうでもよくなる。
「撮れた?」
「撮れました。もうご飯をよそいますよ」
「ああ。もうお腹がペコペコです」
にっこり笑うと、名残惜しげに起き上がり桜をベビーチェアに移動させた。
オムツも変えなくていいか確認しつつの、手なれた素振りで。
首が据わった桜は、もぞもぞと動くようになりデイビーは初寝がえりを見たくて家でもほとんど桜にべったりだった。
その、ちょっと寂しいなっとか思ったり思わなかったり。
でも、家事も料理も手伝ってくれるし、夜泣きには何故か一緒に起きてあやしてくれる上に、仕事も忙しいし。
世の奥様方からしたら、私の不満なんてきっとただの我儘でしかないはず。
「頂きます」
「どうぞどうぞ。私も頂きます」
デイビーは、トマトが好きなのか食事の席では一番にサラダのトマトをお皿に乗せる。
それが、ちょっとだけ可愛くて私は好き。
「そう言えば、桔梗さんは三カ月でお子さんを保育園に預けたんですよね? 美麗はどうします?」
「うーーん。まだ手離したくないし、近くの保育園に空きが無いから待機中」
三月生まれというのもネックで、月齢が低いとそれだけ保育園の入るのは難しい。
「早く、春月堂を手伝いたい気持ちもあるけど」
「佐和子さんへの弟子入りは?」
「本格的にしていきたいなら、――今は急いじゃ駄目って。私もそう思う」
残念ながら、自分の要領のなさ、悪さには自信がある。
きっと、家事と子育てと書道なんて上手く両立できない。
それに、桔梗さんが一人で取り仕切ってくれてる春月堂だってお世話になったのに、すぐに関係ないと放り出したくないし。
「色々ね、悩むの。英語と日本語、両方で会話して育てていこうか、それは負担にならないのか。言語も大切だけど、小さな頃の純粋な心で、日本の四季を感じて心を養って行って欲しいとか。私は親が決めた稽古事がばりで嫌だったけどこの子はどうしよう、自分で言えるかな、私は背中をおしてあげれるかな、とか」
まだ生まれて三カ月の桜に対して、私の考えは重すぎて締めつけにならないかな、と。
「美麗、ご飯中ですが許して下さいね」
頬に手を当てて、美味しいと蕩ける顔をしていたデイビーは、スプーンを置くと少し椅子を引いた。
そして自分の膝をポンポン叩く。
「おいで、美麗」
「――っ」
そんなに優しい声で言われたら、抱き締めずには居られなくて。
ちょこんとデイビーの膝に横向きで座ると、そのままデイビーにお姫様だっこで抱えられた。
「最近、桜にデレデレしすぎて、貴方を一人で悩ませ泣かせる所でしたね」
「そ、そんなこと! あ、でも、ちょっとは寂しかったです、でも、その」
「可愛い!」
ぎゅうっと抱き締められると、デイビーはそのまま立ち上がった。
「可愛いです。――食べてしまいたい、美麗」
「あの、食べるのは、先にシチューにしてくださ」
「我慢できません」
やすやすと私を抱えて、寝室へと向かう。けど、その。
「桜がそろそろお腹を空かせて起きると思います」
「大丈夫。さっき寝たからまだまだ起きませんよ」
「でもっ」
「賭けてもいいですけど、どうしますか?」
うううう。桜、ごめんね。
今は、ちょっとだけデイビーを独り占めさせて。
久しぶりに、甘えたいの。
観念した私は、デイビーの首へ抱きついた。
「次は、男の子でしたよね」
「い、言わないでください」
真っ赤な茹でたこみたいな私を、デイビーは蕩けんばかりの笑顔で見つめてくる。
貴方の賭けは、信用しているから。
だから、甘く甘く抱き締めて。
甘く甘く、抱き締めたい。
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