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火曜日 リヒト&トールこの世に生まれてきたすべての女性が愛しい。
火曜日 リヒト&トールこの世に生まれてきたすべての女性が愛しい。1
しおりを挟むカフェ『アルジャーノン』。みかどは外から中を覗くと、ショーウインドウにいつものメニューもぬいぐるみも無く、香水が並べられているのを見る。色とりどりの宝石の様な香水と、綺麗な硝子の靴。そしてコスメセット。カフェが一気に大人っぽくお洒落な雰囲気に変わっている。毎日インテリアがその日に入った従業員によって変わるらしい。みかどは、ウエイトレスの茶色いタイトなスカートと白いブラウス姿でそのインテリアを見渡していた。
きっかけは、店長と一緒に千景の夕飯を御馳走になっている時だった。
『居候の身で食費も払えないのに御馳走を頂く訳にはっ』
並べられたカレーを見て、涎を我慢しながらみかどが言うと、千景は笑った。
「じゃあ、勉強の邪魔にならない程度にお店を手伝って。聖マリア女学院はバイト禁止よね。だからバイトではなく手伝い。報酬はないけど、食費も家賃もいらないよ」
そんなにうまい話が世の中に転がっているはずないと思いつつも、その話しはまさに藁をも掴む素敵な提案だった。だから今、その提案に乗り、ウエイトレスの姿をし手伝いをしている。今日の従業員はまだスタッフルームから出て来ない。
「リカー、モカー、ジャロ、モナー!」
スタッフルームから出てきたのは、それぞれの猫用にブレンドされたキャットフードを入れた猫皿を四つ、御盆に乗せた店長だった。店長はしきりに名前を呼ぶが、返事が何処からも帰って来ない。
「誰をさがしているのですか」
「みかどちゃん、可愛いウエイトレスさんですね。とても似合っています。お人形見たいです」
店長が笑えば、みかどは一気に耳まで真っ赤にした。優しい笑顔は、整った顔立ちの店長がすると極上に甘くなり心臓に良くないようだ。
「ひい、とんでもない。可愛くないでごめんなさい。所で、探している方々は?」
「そうでした! 探しているのは、定宗さんの子分さんたちで、猫四天王です」
新しいメンバーに思わず息を飲む。
「えー、鳴海んったら、名前呼ぶだけで本当に探す気あるの?」
「名前の呼び方も適当だよね」
ドアがスライドされ、中から甘ったるい匂いと共に艶やかな声が聞こえてきた。
「リカ、今日も君は綺麗だね」
「ジャロとモカとモナもおいで。俺の膝は順番だが、そばで顔を見せてくれ」
噎せる様な、甘ったるい声。まるで、恋人に囁いているかのようにな身体の芯から熱くなるようなセクシーな声にみかどは思わず赤面する。
勇気を出して近寄ると、猫四天王はうっとりと撫でられながらスタッフルームから出てきた。
「あれ、新しいバイトちゃん?」
優しく話しかけてくれたのは、オレンジ縁のメガネをかけた、色んな方向に髪をひねって硬めた金髪の青年。口元のホクロがセクシーで、ピンク色のTシャツに赤いGパンと、なかなか派手な格好をしている。蛍光ピンクのエプロンで、原色を愛すお洒落なイケメンのようだ。
「ああ、リヒトは仕事で千景ちゃんのLINE見てないんだったね」
今度は三匹に甘い言葉を囁いていた青年が此方を見上げる。黒いスーツに黒縁眼鏡、サラサラで艶のある黒髪。切れ長の目元にあるホクロがこれまたセクシー。長い脚を組み替える姿が、見とれてしまう程、美しい。ついついみかどは二人の余りのかけ離れた美しさに凝視してしまう。男に綺麗の形容詞はおかしいとは思うが、化粧でもしているのか、同じ人間の様には思えない、ここだけ、芸能人が来たかのようなオーラが出ている。
二人が携帯を開き、千景のLINEの内容を見ている中、みかどは大きく息を飲む。
「あ、あのっ201号室に引っ越しました、楠木みかどと申します」
顔を上げて金髪の人は目を細めて、微笑んだ。ただ、それだけのことなのに、みかどは倒れてしまいそうな恥ずかしさが込み上げてくる。深々と頭を下げ、再び2人を見ると、二人を奇声を上げ驚いた顔でみかどを見る。
「どうして、君みたいな可愛い子が家を追い出されなくちゃいけないの!?」
美しくハモる2人は顔を見合わせ、そして、段々と瞳を輝かせて喜びだす。
「このカフェに兄が居るかもしれないって! それ俺じゃない?」
「そうそうそうそう! 俺達しか居ないってば。ね、俺の子とお兄ちゃんって呼んで」
二人は、名残惜しげに猫を下ろし、みかどに詰め寄る。
「あ、あの、お兄ちゃん?」
二人は美しく倒れると、その場で床を叩いた。
「神様ありがとう!」
「是非とも、デザートを一緒に食そう。ご馳走させてくれ」
笑顔の安売りと言わんばかりに、天使のような笑顔を絶やさない2人。ドキドキして、目が離せない。
「お、お兄さん、助けて下さいまし! キラキラしてます!」
焦って怪しい日本語を発しながら逃げるように店内へ戻る。だがまだ胸は興奮でドキドキしていた。
「もーう! 二人とも止めて下さい!」
閑古鳥が鳴く店内で、テーブルを拭きながら、店長が口を尖らせる。
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