とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

篠原愛紀

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一、誤解×素材

一、誤解×素材③

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私も携帯を床に落としてしまった。携帯の画面には東大寺くんのドアップが映し出されている。

「おかえり。ごめん。待ってる間にちょっと寝かせてもらったんだけど」
「な、なんでいるのおお!?」

 目の前にいるのは、東大寺くん――ではなく、兄が大学時代に家庭教師をしてもらっていた古舘 喬一さんだ。私のことも気にかけてくれて勉強を教えてくれたり、大学選びの相談に乗ってくれた人。
 確か外科医として就職してから忙しくなって数年前に開業したときに、うちが全プロデュースしたっきりだから数年ぶりの再会だ。

 ストイックな銀色のフレームの眼鏡に、軽くワックスで後ろに流れるように整えられた髪、くっきりした切れ長の瞳にスッと力強く吊り上がった眉、そして嫌みじゃない程度の爽やかな柑橘系の香水。

 ああ。私がゲームキャラで眼鏡の男の人を選んでしまうのは、この人が私が今まで見た一番の美形だからかもしれない。

「その……それ」
 喬一さんが私の手に持っている生ハムきゅうりを指さした。
「それが夜ご飯って言わないよね? 体に悪いよ」
「……っ」

死にたい。理想だって思っていた美形な知り合いに、数年ぶりに再会した今。

 私は酎ハイと生ハムきゅうりを握り、両手を塞いでいる。
 そして冷蔵庫を足で締める、お行儀が悪い行動。
 さらにさらに、ゲームのイベントについて熱く語ってしまった。

 喬一さんが帰ったら、このタワーマンションから飛び降りよう。

「あの、ご飯は兄が帰ってきてからって思って」
「そうだよね。俺も今日、一矢から話があるって呼び出されてたんだけど、ごめんね。夜勤明けでそのまま来たからさ」

「そ、そうだったんですね。眠っててください」

 そして全部夢だったと忘れてください。
 ああ。喬一さんみたいに素敵な人に、なんて行動を見せてしまったんだ。
 ゲームなら好感度下げるどころか、攻略対象から外れてしまうに違いない。


「お腹空いてるなら、何かおつまみ作ろうか?」
「いいいいえ! そんなお客様にとんでもないです! 喬一さんこそ、何か召し上がりますか? 冷蔵庫の中身が全くないけど、フロントに電話したら夜食を用意してもらえますよ」
「はは。俺に気を使わなくていいよ。紗矢は、いつも気が利くよね」
「……っ」
 片手にきゅうり持ってますけどね。
 鼓動が早くなるので「へへっ」と笑ってごまかしていたら、落ちていた携帯を拾ってくれた。私の携帯画面は、ゲーム攻略対象の東大寺くんが映ったままだ。

「ゲームが好きなの?」
「う……まあ、その、出会いもありませんし」
「そうそう。君のご両親も一矢も心配していたな。厳しくしすぎたから全く浮いた話が出ないって。こんなに可愛いのに」

 きゅうり持ってるのに?
 恥ずかしくって携帯を受け取ろうにも両手が塞がっていたのでお皿を出しに行った。
 きゅうりについては何も言わないようだけど、せめて引いてるなら嫌な顔したり、フォローしたりしてほしい。恥ずか死ぬから。

「喬一さんの意地悪」
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