とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

篠原愛紀

文字の大きさ
13 / 63
ニ、結婚×仕込み

ニ、結婚×仕込み⑧

しおりを挟む
 社交辞令だけで逃げろうとしたら、フッと笑われ私も笑顔が固まる。

「大丈夫です。院長から聞いてますよ。ご結婚おめでとうございます」
「え、あの、まだ、結婚はしていません」

 しどろもどろになっていたら、不思議な顔をされた。

「そうなの? 院長が可愛いお弁当箱を使っているからどんな恋人がいるのかなってずっと気になっていたのよ」
「可愛いお弁当箱、ですか?」
「そう。紫色の水玉模様のお弁当箱。本人の趣味ではないって思ったんだけど」
「紫色……」
「年季が入ってるから、数年はお付き合いしてたんじゃないかなって思ってたんだけど、勘が外れたかしら」

 納得できないような顔だったけど、私も深く気にしないようにその場は濁すように笑っておいた。

「もう受付時間は終わってますし、貴方が来たら院長が渡しておいてほしいって言っていたのがあるのよね」
「いえ、本当に私は……」

 断ろうと逃げるように後ずさるのに、しっかり腕を掴まれて中に引きずられるようにして入ってしまった。
「こんばんわ」
 受付の二人に会釈をすると、深々と頭を下げられた。
 クリーム色のワンピースで、仕事着まで可愛い。



「ここで待っていてください」
 日色先生が奥に消えてしまったので、患者さん用のソファに座るのも気が引けて、廊下に飾られた絵画を眺める。

 この冬に染まる時期に合わせた絵画ばかりで、雪が山を白く染めている絵やクリスマスツリー、サンタクロースの絵まであった。
 受付に座っていた最後の患者さんが診察代を払って病院から出ると、値踏みされるような視線を感じた。
「ほら、古舘医師にはやっぱり本命がいらっしゃったのよ。綺麗な人だし」
 やっぱりってどういう意味だろうか。
 そして私に聞こえているのを若干分かってて言っているように聞こえて、少し不快だ。


「えー。だって前の職場から引き抜くほど日色医師を気に入ってるんじゃないの。あの人だって仕事中は古女房気取りじゃない?」
「でも日色先生は年増でしょ」

 ひ。年増?
 喬一さんより数歳年上ってだけでまだアラサーだし、あんなに綺麗な人なのに。
 いや、周りがそんな反応だから本命だと言えず、私でカモフラージュ?

「南城さん、こちら。渡すように頼まれていたものです」
「ありがとうございます」

 なんだろううと、渡された紙袋に視線を移したら、受付からひそひそと声が聞こえてくる。
「今カノと元カノ対決」
「ちょっと、聞こえるって」

私が視線を向けると、急に微笑んで取り繕っている。
「すいません。急にお邪魔しちゃって。日色先生、またごゆっくりお話させてください」
「ええ。私も聞きたいわ。時間を見つけてお話を聞かせてちょうだい」
「はい。今日は急にすいません。お邪魔しました」

 受付の二人が邪推するようなことは全くないとアピールして、受付の二人に笑顔で会釈する。
 何もやましいことはないので、堂々と二人を見た。
 あんな性格のいい日色先生の影口を二度と言わせないぞっと凄みを聞かせて微笑む。
 効果は分からないけど、あとで落ち込むよりは何か意思表示しておきたい。
 私より若そうな二人は、少しだけ顔を引きつらせたように見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...