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六、過去×余韻
喬一視点③
しおりを挟む『我慢はしてないのですが、親に言われたとおりにするだけでは、後悔するんじゃないかなって、進学するならちゃんと理由を見つけたくて』
パンフレットを眺めながら唸る彼女は、俺の考えていた我慢をしている女の子ではなかった。
父や兄の行動が愛情ゆえであること、それでもしっかり自分で意見を言っていたこと。
彼女は家族の愛をちゃんと気づいて、吸収できている。
俺とは違っていた。
『でも……相談に乗ってもらえますか? 父は仕事はできるんですが、頭の回転が速すぎて周りがついていけない時があるって部下の方が愚痴をこぼしていた時があって』
『高校生の君に、そんなことを言う大人がいるの?』
一矢やおじさんの心配は杞憂で、ただ仕事の愚痴を漏らすために近づいてきたのか。
『あ、いえ。なぜか私に話しかけてくれる方だったから何か会社で悩みがあるのかなって』
『……一矢たちが心配する理由が少しわかってきたよ』
俺の発言の意味も分かっていない様子で、彼女は悩んでいるという大学のパンフレットを見せてくれた。
『だから、父や兄をサポートするのに事務系の資格が取りたいので専門学校にするか、ここの秘書科がある大学がいいのか悩んでるんです。秘書科って品格や幅広い教養を身に付けるって、息が詰まらないかなとか』
とても可愛らしい悩みをもっている彼女の相談役はとても楽しかった。
ご両親や兄からもらった愛情を、こうやって愛情で返そうとしている部分が、自分にはないもので、そして自分に足りないもの。欲しかったもの。
……もし。もし彼女が迷惑でなければ、大人になったとき、浚ってもいいだろうか。
相談に乗るうちに、頼られるのが嬉しかった。
甘えてくれる存在は、どうやら自分をしっかりさせる成長につながるらしい。
彼女の前では少しだけ、大人ぶってしまう自分に気づくと、もう自覚せずにはいられなかった。
一矢が一人暮らしを決め家を出るときに、俺も丁度大学が忙しくなるので家庭教師を一旦やめることにした。
辞めても、一矢とは今後も付き合いがありそうだし、俺の方はこれで繋がりがなくなるとは思っていなかった。
だから家庭教師の最後の夜、おじさんと一矢が飲みすぎて寝落ちした後、彼女と二人でタオルケットをかけながら、互いに顔を見合わせ笑いあった時、確かに俺は未来を感じていた。
『喬一さん、一人暮らしですか?』
『あー、そうだよ。でも忙しいときは、洗濯物をカバンにつめて実家に眠りに帰ったりしてる。この歳で情けないんだけどね』
『命を預かる仕事ですから、大学も大変なんですよね。良かったら、おばあちゃんのお野菜が沢山あるので持って帰ってください』
『自炊はしないから、野菜をもらっても。でも本当に美味しいよね』
『喬一さんはいつも祖母の野菜で作ったおかずを褒めてくださるから、私も嬉しいです』
そういうと『これ、今日買ったお弁当箱だから』とお弁当箱を洗い、中に野菜のおかずを沢山詰めてくれた。
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