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六、過去×余韻
喬一視点②
しおりを挟む『なあ、喬一くん、家庭教師に来てくれないか』
親同士の付き合いで、偶に会っていた一矢に言われ、ちょくちょく家に行くようになった。
彼の成績で家庭教師がいるのか謎だったが、今思えば、家の事情を知って彼なりに気を使ってくれたんだと思う。
伝統やら歴史やら、分家とは無縁の一矢の家は楽しく、いつも灯がついた家の中で毛布に包まりぬくぬくと寝転んでいるような解放感があった。
『ちょっと。お父さん、信じらんないから』
一矢と卒論のテーマを考えて、意見を出し合いつつのんびりケーキを食べていた時だ。
はっきり言って、甘いデザートが好きではなかったが、レッスン後に出されるケーキを時間をかけて食べるのは苦ではない。長くここに居られると安心感があった。
『お兄ちゃん、お父さんが私の携帯のメールを見ようと奪ったの』
『父さんは、やりすぎなんだよ。今度はどいつだ』
『お兄ちゃん……っとえ、あ、いらっしゃいませ』
完全に俺がいるのを知らなかっただろう紗矢が、珈琲を飲んでいる俺を見て、マッチに火が付いたように真っ赤になった。
あまり話はしたことがないが、良家のお嬢様だけあって、淑やかで上品で、そして綺麗な子だった。
『あーもう。まただ』
『どうしたんだ?』
珍しく一矢が不機嫌なオーラを漂わせて、隣に座りテレビをつける。
なのに苛々しているのか、リモコンでチャンネルを変えていくだけだ。
『妹に変な虫がよく群がるんだよ。あいつもさっさと恋人でも作ればいいのに』
『ああ、紗矢ちゃんは可愛いからね。変な虫ってどんな?』
『うちの会社の内定を狙うとか、取引先の社長の息子とか? 父さんの部下とか。あと家が金持ちだからって理由で近づいてくるのもいる。純粋に近づいてくる奴らが、必死なそいつらに圧倒されて近づいてこないしな』
『ふうん。大変だねえ』
過保護すぎじゃないのか。
俺の最初の感想はそれだ。子どもでもないし、高校生の女の子に、メールをチェックするほど過保護で大丈夫だろうか。
まあ詳しく聞けば、本人には言っていないが、財産目当てでストーカー紛いの男が一時期うろうろしていたらしい。
こんな幸せな家庭の中で、彼女だけ家のせいで縛られてるようで少し哀れに思えた。
そんな彼女から偶に向けられる熱い視線も、男性に慣れてない故だろうと気づかない振りもしていた。
でも俺で男性に慣れるのも悪くないのかなと、少し彼女を自分と重ねてみている部分もあった。
一矢が家を出て一人暮らしをすることになり、おじさんが『紗矢は家から出さない』と口を酸っぱくして言っていた時、彼女は進路に悩んでいるように思えた。
おじさんと一矢が泥酔して、おばさんがのんきに音楽を聴きながら洗い物をしていた時、勉強をしていた彼女に近づいて、力になれないか尋ねた。
『我慢をしなくてもいいんだよ』と、進路ぐらい好きにすればいい。
俺も分家の口出しなんて、みじんも聞かず医大に進学したのだし、誰に気兼ねする必要もない。
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