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序
序 一
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夜の淡い光の中浮かび上がる彼の身体のラインは、私を艶夜に甘く誘う。
浮世離れしたその人は、綺麗な笑顔でやんわりと人を拒絶していた。
このラインから入ってくるな。
そう全身から刺々しいオーラを放ちながら、柔らかい笑顔で人と適当に関わって逃げている。
この世に興味なんてなさそうな人。
「泉部長って」
残業するふりをして、残っていた彼に珈琲を差しいれしながら私は笑った。
普段は名字で賢木部長って呼ぶのに、馴れ馴れしく下の名前で呼ぶ。
「高校時代に亡くなった彼女が忘れられなくて人に興味ないんですか?」
「え」
貼りつけた笑顔が剥がれて切れ長の目を見開いた。
「私はそんな泉部長がちょっと気になってます。なんか、面白くて」
「えー、面白いって酷いな」
困惑しながらも笑おうとしている姿が、なんだか一生懸命自分を隠してて、可愛いなんて思ってしまった。
「だってお局の望月女史が必ず新入社員に言うんですよ。『賢木部長は恋人を亡くされてから特定の人を作らないの』って。なんだか私たちも腫れものに扱わなきゃいけないみたいに言ってくるんです」
「はは。彼女は優しいからね。会社にも母親が居るみたいだ」
差しだした珈琲を飲みながら、優雅に香りを嗅ぐその仕草は、泉部長の育ちの良さが伺えた。
「恋人を引きずっている男って、重たすぎるかな」
「かなり。どうせ二番目か、彼女の代わりかなって思っちゃいますね」
そう言いつつ、正面のディスクに腰をかけると、誘うように首を傾げた。
「でも、――他に浮気もしないし自由になんでもさせてくれそう」
「寂しいとか思わないの?」
「珈琲の香りぐらい仄かでいい。それぐらいの愛情でも愛情を持ってくれるなら、それでいい」
言葉での駆け引き。
それに泉部長は乗っているのか乗っていないのか分からない態度。
失敗だったかな。
「昨日、彼氏と別れたんです」
「その割には、清々しいですね」
「六年付き合って、一番若くてキラキラした時間をあいつに奪われて、――なんだか恋愛が面倒になっちゃいました。浮気……っていうんでしょうか。二重同棲されてて相手は妊娠――んで、四股のうちの私は四番目だったらしいです。6年間、ずっと」
「ヘビーな話ですね」
珈琲を飲み終わったら泉部長はパソコンの電源を切った。
「まな板を縦に投げたら、鼻血ブーっでした。自分の鼻血にビビって気絶して……面白いから写メ取って荷物まとめてゴミ収集所に捨ててきた。あいつ、写メ送ったら大人しくなったんですけどね、なんだろう。一瞬で冷めちゃいました」
「それでも、懲りずに恋をするの。逞しんだね、君は」
帰り支度する泉部長は、まるでお天気の話をするかのように、反応は薄い。
どんな表情をしていいか戸惑った顔が見たかったのに、この人っいつも冷静だけど、いつ尻尾をだすのかな。
「恋をしたいって思ってるのか自分でも疑問です。でも、どうせするなら、楽な相手が良いなって思ったら、部長の顔が一番に浮かんじゃいました」
浮世離れしたその人は、綺麗な笑顔でやんわりと人を拒絶していた。
このラインから入ってくるな。
そう全身から刺々しいオーラを放ちながら、柔らかい笑顔で人と適当に関わって逃げている。
この世に興味なんてなさそうな人。
「泉部長って」
残業するふりをして、残っていた彼に珈琲を差しいれしながら私は笑った。
普段は名字で賢木部長って呼ぶのに、馴れ馴れしく下の名前で呼ぶ。
「高校時代に亡くなった彼女が忘れられなくて人に興味ないんですか?」
「え」
貼りつけた笑顔が剥がれて切れ長の目を見開いた。
「私はそんな泉部長がちょっと気になってます。なんか、面白くて」
「えー、面白いって酷いな」
困惑しながらも笑おうとしている姿が、なんだか一生懸命自分を隠してて、可愛いなんて思ってしまった。
「だってお局の望月女史が必ず新入社員に言うんですよ。『賢木部長は恋人を亡くされてから特定の人を作らないの』って。なんだか私たちも腫れものに扱わなきゃいけないみたいに言ってくるんです」
「はは。彼女は優しいからね。会社にも母親が居るみたいだ」
差しだした珈琲を飲みながら、優雅に香りを嗅ぐその仕草は、泉部長の育ちの良さが伺えた。
「恋人を引きずっている男って、重たすぎるかな」
「かなり。どうせ二番目か、彼女の代わりかなって思っちゃいますね」
そう言いつつ、正面のディスクに腰をかけると、誘うように首を傾げた。
「でも、――他に浮気もしないし自由になんでもさせてくれそう」
「寂しいとか思わないの?」
「珈琲の香りぐらい仄かでいい。それぐらいの愛情でも愛情を持ってくれるなら、それでいい」
言葉での駆け引き。
それに泉部長は乗っているのか乗っていないのか分からない態度。
失敗だったかな。
「昨日、彼氏と別れたんです」
「その割には、清々しいですね」
「六年付き合って、一番若くてキラキラした時間をあいつに奪われて、――なんだか恋愛が面倒になっちゃいました。浮気……っていうんでしょうか。二重同棲されてて相手は妊娠――んで、四股のうちの私は四番目だったらしいです。6年間、ずっと」
「ヘビーな話ですね」
珈琲を飲み終わったら泉部長はパソコンの電源を切った。
「まな板を縦に投げたら、鼻血ブーっでした。自分の鼻血にビビって気絶して……面白いから写メ取って荷物まとめてゴミ収集所に捨ててきた。あいつ、写メ送ったら大人しくなったんですけどね、なんだろう。一瞬で冷めちゃいました」
「それでも、懲りずに恋をするの。逞しんだね、君は」
帰り支度する泉部長は、まるでお天気の話をするかのように、反応は薄い。
どんな表情をしていいか戸惑った顔が見たかったのに、この人っいつも冷静だけど、いつ尻尾をだすのかな。
「恋をしたいって思ってるのか自分でも疑問です。でも、どうせするなら、楽な相手が良いなって思ったら、部長の顔が一番に浮かんじゃいました」
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