艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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四夜、現実はあふれんばかりに攻め込んでくる。

四夜、現実はあふれんばかりに攻め込んでくる。四

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「なるほど」

 泉さんの母親が入院中に浮気していたかもしれないと。

「泉のじいさんが亡くなった時も、親父は参列できなかったし、じいさんの土地や会社の管理を任されるはずだったのが、遺言状では一切無くなってたらしい。全部、泉に。浮気相手である俺の母や、俺には一銭も渡したくなかったんだと思うよ」

 なるほど。父親に少しでも渡せば、結果的に浮気相手も生活が豊かになってしまうんだものね。
 きっと泉さんの母方の親戚は激怒だったんだろうな、と浮気されまくっていた私は邪推してしまう。

「だが刑事になれたんだから、身辺に問題はない。俺の母親も兄貴と俺に差はつけなかったし」
「でも複雑だから結婚式は面倒臭そうよね。私はしなくても別にいいんだけど」

 うちの親は田舎の人だからきっと結婚式は派手にしてほしいとかいいそうだからさくさく二人で決めていかなければいけない予感しかしない。

「しない方が面倒だったら、兄貴はするだろ。嫌な顔ひとつせずに俺の母親に式に出てもらうように促すと思う」
「え――……それはどうだろ」
「で、母方の親戚がしゃしゃり出てくるなら、呼ばないと思う。自分の結婚式で張りつめた空気が面倒だろうし」

 改札口を抜け、駅のホームへ下りながら、淡々と言う。
 この人も、泉さんがどんな人が熟知している。私なんかよりもずっと。

「そこまで流されるかな」
「兄貴はそういう人間だってば。面倒臭くない方に楽に楽に浮かんでいたいタイプ」

「遊馬さんって泉さんの事どんな風に見てるの」

 一応はお兄さんなのに、客観的に観察し過ぎというか。

「今は海月みたいだなあって。昔も笑って誤魔化すような人当たりのいいふりしてたけど、芯はあった」
「ブラコン?」

 酔っ払いが席で爆睡してたり、仕事帰りや飲み帰りの大学生がぽつぽついる電車の中、二人でいるのがなんだか違和感を覚えてしまった。


「ブラコンって言えば納得するなら肯定しとくけど、本当はアンタが心配だからこんなにお節介してるだけ」
「心配しすぎってば。ちゃんと最善を考えて行動してるだけ」


 またいつものつまらない言い争いになりそうだったので流したけれど、遊馬さんはそれ以上は言ってこなかった。
 いつもならばもう少し食い下がる気がしたけど。
 良く見ればなんだかちょっと顔色が良くない気がする。

「じろじろ見てなんだよ」
「ちょっと良い?」

額に手を当ててみると、ホッカイロみたいな温かさに思わず手を離した。


「体調悪いんじゃないの?」
「まじで?」
「自分で気づいてなかったの!?」

 こんなに熱があるのに。
 よくよく見れば、厚手の上着を着ている。
 バイクに乗るから厚手なのかと思ったけど、桜も散ったこの時期にその上着は暑いはず。


「右手が痛いから、そっから来る熱かと思ってたんだけど。うわー、面倒くせえ」
「もー! まだソファベッド届かないからソファで眠ってたのも悪かったのかも。今日は私がソファで寝るから、私のベッド使ってよ」

 風邪薬とか売っている店はもうどこも閉店している時間だ。
 急患に行くか、家にもしあればそこで飲んで大人しくしていればいいけど。

「美琴」

 不意に呼び捨てにされて、怪訝そうに見上げると、遊馬さんは反対に上機嫌だった。


「何?」
「おかゆとか作ってよ」


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