艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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五夜、本気になったら負けだと思う。

五夜、本気になったら負けだと思う。一

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「俺のベッド? イイよ。もちろん」

 次の日、出勤すると泉さんが居た。
 どこに泊まったのか、はたまた何をしていたのか私には言う必要がないって思ってるのか、いつも通りだ。
 確かにこんな時は温度差を感じちゃうけど、私が選んだんだ。

 さり気無く、お昼休みに電話で待ち合わせしてランチを食べながら聞いてみた。
 別々に入って半個室のオムライス屋だったのに泉さんが苦笑していた。
 いざ、遊馬さんのことを伝えると、あっさりとイイよと返事がきたのだ。

「あんな身体のくせに熱なんて出るなんて繊細だよね」

 クスクスと長い指先で口元を隠しながら笑うと、じっと私を見る。

「用事はそれだけ?」
「……」

 ずるい聞き方。自分からは言わないんだね。

「私はお墓参りに行っちゃ駄目なの?」
「……」

 カチャカチャと、お皿に残ったチキンライスを寄せながら、微かに泉さんの口元が緩んだ気がした。
 嘲笑うみたいに。
 それを見逃せなかった私は馬鹿だ。聖女なんてなれやしない。

「つまらないし退屈だと思うよ。君は他人だし」

 形だけ、妻と言う立場でお参りするという上辺だけの私の本心を、泉さんは見透かしている。

「結婚するから泉さんとは他人じゃなくなると思ってた」
「あはは。そっか。そう考えてくれたんだ」
「もういいです。馬鹿みたい」

 頑固なオーラが伝わってきたので、こっちも興ざめした。
 別に行きたくて言った言葉でもないし。


「たまには泉さんのことを聞いた方が良いかなって思ったそんな程度の思い付きですから」

 可愛くない。
 本当は、自分に何も言わない泉さんにちょっとだけ傷ついているくせに。

「最近、弟のせいで構えてなかったしね。――可愛いよ」

 卒がないというか。
 甘やかして、優しい言葉をかけまくり、自分が嫌な時は匂わせて此方からブレーキをかける。
 そして抜かりなくフォロー入れてくるあたり、経験数がちがうのかな。
 結局は泉さんの都合のいい女に育てられてると思う。
 ここで私が機嫌を直さないといけないのまで計算してる。


「俺も君に大事な話があるんだけど、ここじゃなくてちゃんとした場所で言うから、帰るまで待ってて」
「そうします」
 いつ帰るのか分からないけれど、自分の家だからそのうち帰ってくるんでしょう。
 何も期待しなければ、楽なことは分かっている。

「それと、帰ったら君のハンバーグが食べたいな」
「……次はレンコンと鶏肉で作って上げます」
「それは楽しみだ」


『ハンバーグ』が好きなだけで、味が好きなわけじゃないと知ってるのに。
 私はこれから彼と、何百回とこんな中身がない会話をつづけて行くのだろうか。

「そうだ」

 お会計では有無を言わさずスマートに払ってくれた泉さんが、思い出したかのように言う。

「君って、弟のタイプだから、熱が出てくれて本当に良かったかも」
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