30 / 36
五夜、本気になったら負けだと思う。
五夜、本気になったら負けだと思う。一
しおりを挟む「俺のベッド? イイよ。もちろん」
次の日、出勤すると泉さんが居た。
どこに泊まったのか、はたまた何をしていたのか私には言う必要がないって思ってるのか、いつも通りだ。
確かにこんな時は温度差を感じちゃうけど、私が選んだんだ。
さり気無く、お昼休みに電話で待ち合わせしてランチを食べながら聞いてみた。
別々に入って半個室のオムライス屋だったのに泉さんが苦笑していた。
いざ、遊馬さんのことを伝えると、あっさりとイイよと返事がきたのだ。
「あんな身体のくせに熱なんて出るなんて繊細だよね」
クスクスと長い指先で口元を隠しながら笑うと、じっと私を見る。
「用事はそれだけ?」
「……」
ずるい聞き方。自分からは言わないんだね。
「私はお墓参りに行っちゃ駄目なの?」
「……」
カチャカチャと、お皿に残ったチキンライスを寄せながら、微かに泉さんの口元が緩んだ気がした。
嘲笑うみたいに。
それを見逃せなかった私は馬鹿だ。聖女なんてなれやしない。
「つまらないし退屈だと思うよ。君は他人だし」
形だけ、妻と言う立場でお参りするという上辺だけの私の本心を、泉さんは見透かしている。
「結婚するから泉さんとは他人じゃなくなると思ってた」
「あはは。そっか。そう考えてくれたんだ」
「もういいです。馬鹿みたい」
頑固なオーラが伝わってきたので、こっちも興ざめした。
別に行きたくて言った言葉でもないし。
「たまには泉さんのことを聞いた方が良いかなって思ったそんな程度の思い付きですから」
可愛くない。
本当は、自分に何も言わない泉さんにちょっとだけ傷ついているくせに。
「最近、弟のせいで構えてなかったしね。――可愛いよ」
卒がないというか。
甘やかして、優しい言葉をかけまくり、自分が嫌な時は匂わせて此方からブレーキをかける。
そして抜かりなくフォロー入れてくるあたり、経験数がちがうのかな。
結局は泉さんの都合のいい女に育てられてると思う。
ここで私が機嫌を直さないといけないのまで計算してる。
「俺も君に大事な話があるんだけど、ここじゃなくてちゃんとした場所で言うから、帰るまで待ってて」
「そうします」
いつ帰るのか分からないけれど、自分の家だからそのうち帰ってくるんでしょう。
何も期待しなければ、楽なことは分かっている。
「それと、帰ったら君のハンバーグが食べたいな」
「……次はレンコンと鶏肉で作って上げます」
「それは楽しみだ」
『ハンバーグ』が好きなだけで、味が好きなわけじゃないと知ってるのに。
私はこれから彼と、何百回とこんな中身がない会話をつづけて行くのだろうか。
「そうだ」
お会計では有無を言わさずスマートに払ってくれた泉さんが、思い出したかのように言う。
「君って、弟のタイプだから、熱が出てくれて本当に良かったかも」
0
あなたにおすすめの小説
彼が指輪を嵌める理由
mahiro
恋愛
顔良し、頭良し、一人あたり良し。
仕事も出来てスポーツも出来ると社内で有名な重村湊士さんの左薬指に指輪が嵌められていると噂が流れた。
これはもう結婚秒読みの彼女がいるに違いないと聞きたくもない情報が流れてくる始末。
面識なし、接点なし、稀に社内ですれ違うだけで向こうは私のことなんて知るわけもなく。
もうこの恋は諦めなきゃいけないのかな…。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる