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6個目 恋の試験日
6個目 恋の試験日
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6個目 恋の試験日
土曜日が清人の誕生日だと知ってから楽しみだった。
清人が泊まりにいていいよって言ってたのも楽しみだったが、意外にも両親に伝えたら難色を示されてしまった。
「憂斗は指定校推薦をもらっているからいいけど、この時期の土日は大事なのよ」
「さやちゃんみたいにご両親や志望校知ってる相手ならまだしも他校の最近できた友人だろ? 会ってお祝いするぐらいにしときなさい」
友人じゃなくて恋人と伝えたところで反応は一緒だと思う。
両親に清人がどれぐらい勉強できるか説明するのも大変だし、それに。
「わかった。ありがとう」
それに俺も土曜日に会うのに断る理由を探していたから、助かった。
両親にそう言われると薄々分かっていて相談した気もする。
「にいに、いたい?」
「ひやす?」
妹二人が俺の前髪のゴムを決めるときに、左頬に走る赤い線を心配げに見つめる。
「大丈夫だよ」
薫さんに頬を叩かれたときに爪が当たってしまったんだ。抉る感じではなく頬をひっかくように走った赤い線。
母さん達には野良猫を抱き上げたら引っかかれたと説明したけど、清人にうまく誤魔化せる気がしなかった。
それに薫さんが家族で誕生日を過ごしたいというならば、彼女の誕生日でもあるし遠慮するのは俺の方だ。
綺麗で俺にもったいないとか適当な理由で薫さんをふった癖に、清人との交際は認めてもらえるなんて思えない。
色んな考えが頭を支配する中、土曜ではなく俺の試験が終わってから改めてお祝いしようって提案するつもりだ。
指定校推薦の自己紹介文は何十回も書き直したけれど、今回の誕生日デートを断るメッセージを考える方が何十倍も難しく、何十倍も苦しかった。
金曜日の朝、何回も書き直して送ったメッセージを見て悲しくなった。
でも全部過去の自分の行いが帰ってきただけだから。
『清人! ごめん! 今日は面接の練習やら試験の準備で遅くなるから塾のあとは俺のことを待たずに帰っていいよ。
あと土曜日なんだけど、泊まりは受験前に親が相手に悪いからと説得しても納得してくれなくてさ、あとあまりに面接とか試験勉強が疎かになっているから、試験が終わってから改まってお祝いした方が俺もゆっくりできるかなって思ったんだ。
急で悪いっけど土曜日は家族で誕生日を過ごすのはどうかな。
薫さんだって俺が家に来たら嫌だろうし、家族でお祝いされたいかもじゃん。
なかなか言い出しにくくてギリギリに言ってごめんな。またデートの日にちは改めて決めよう』
言い訳ばっかで自分擁護でひどい内容だ。
誕生日前日にこんな内容のメッセージをもらった清人はどんな気持ちなんだろうな。
申し訳なくて胸が苦しい。今すぐ抱き着いて、お祝いしたいぐらいなのに。
「なあ、誕生日のプレゼントって今の時期何が嬉しいの? 受験お守り?」
「重い。あんたならケーキだけでも大満足よ」
そのケーキが苦手な相手なんだよなあ。
今日はカラコンして爪にお花のビーズをつけようと悪戦苦闘しているさやは、服飾関係の専門学校に行くらしい。いつも奇抜だけどお洒落で自分に似合った化粧や小物を使っているさやにはとっても似合っている。
ただ大好きなブランドのパタンナーが最終的な目標らしく、険しい道のりらしい。
いつか海外に行ってしまうってことでもあるから、今は幼馴染として傍でお互いの進路を見守っていたい。
「誕生日ねえ。肌身離さず持っていたいなら筆箱とかシャーペンとかでも全然嬉しいんだよね、私」
「え、そうなの? ブランド品のアクセサリーとか鞄じゃないの?」
「そんな高いものは親がくれるから。好きな人には最低限でいい、鏡でもいいしパターン引く時に使う文鎮とか嬉しいかも」
文鎮?
文鎮をもらって喜ぶ清人が全く脳内に浮かんでこない。
でも学校行って塾行って勉強してって生活だからシャーペンとかいいな。
「そういえばこの前オープンキャンパス行ったときに手作りの定規とシャーペンのカスタマイズできるお店教えてもらったよ。自分で色を選ぶやつなんだけど」
「えー教えて教えて」
さやがメッセージで公式ホームページを送ってくれたので早速見る。
予約必須でオーダーメイドは出来上がりが一週間以上先だから土曜には間に合わないけど、別日にお祝いするなら間に合う。でも電話で空いてたら当日お店で作れるみたいだ。
「まあ双葉の君なら文房具喜びそう」
「なっ」
さやには誕生日の相手はとっくにお見通しなんだ。
さやの差すとが終わり次第、どうなったか教えてもいいと思っているけど、言わずとももう分かってそう。
「庶民的なプレゼントが嬉しいタイプじゃない?」
確かに持っているものや服はブランド品ばっかだけど、ファーストフードやゲームセンターも好きそうだった。
ケーキを作ってあげたい気持ちは押し付けになりそうだし、プレゼントも用意しよう。
「で、その頬の傷は彼からの暴力ではないんだ?」
「そんなことするわけないだろ。猫に引っかかれたんだ」
「猫がひっかくときは複数の傷が付くのよ」
「えっそうなの?」
じゃあ親にも嘘だってばれたかもしれない。
やっぱり清人にはこの傷が目立たなくなるまで会えない。
「うっそ。あはは、その慌て方からしてあんた嘘つけないよ」
爆笑しているさやには悪いけど、嘘をつけないの分かっているからこうして誕生日前日に会えないって選択を選んだんだぞ。
そんなこと言えるわけもないけど。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。何も言いたくないんだろうけどさ、あんたはそこがいいんだから」
嘘をつかないまっすぐな性格が、あんただよ。
さやにそう言われ、両手に力が入った。
嘘はつきたくない。それは俺もそうなんだ。
でも一番相手が傷つかず、解決する方法を俺は考えなければいけない。
これが分からなければ試験なんて受けている場合ではないと思った。
頬の傷を触る。痛みは全くないし時間が経てば目立たなくなる傷だ。
でも今も彼女はきっと傷ついたままなんだろうな。
「ありがとう。さや、俺、何とか解決してみる」
「……誕生日の話しじゃなかったの?」
不思議そうに首を傾げたさやに俺はあいまいに笑って誤魔化した。
どうせ誤魔化してもバレるんだろうけど。
***
俺を励まそうとしてくれたんだから、俺も頑張らなければと動くことにしてみた。
薫さんは駅二つ離れた聖白百合学園に通っていること以外の情報はない。
というのも清人が通う双葉学園が有名進学校だとすると白百合学園はお嬢様学校という情報しかない。箱入り娘しかいないとか旧華族や政治家、社長令嬢が通う学校。昔の名残らしいけど、校門前に噴水の奥にロータリーがあり車送迎必須だったとか。今も駅には学校関係者が他校の生徒に絡まれないように立っているらしいし、女性車両以外には乗れない。男女交際禁止って噂もある。うちの学校の男友達たちは下品な感じで騒いでいたから嫌だったけれど、大切にされてる女の子が通っているイメージだ。
そんな学校の前で待ち伏せしたら教師とか出てきそうだな。この時期に彼女も進路があるだろうし騒いで迷惑かけられない。でも会ってきちんと話がしたい。
駅で待ち伏せしてみようかな。
そもそも反対されるのは分かってた。
だったら、回りに迷惑かけないでこの恋を育むのは無理なのかもしれない。
理解してもらえなくても、伝わるまで行動でも態度でも気を付ける。今は彼女の傷がいえるのが優先だ。
駅から見える校舎は、教会やらエレベーターつきの校舎やら、設備からして俺の通う公立とは格が違う。確か付属だから短大やら大学もあるんだよな。正に女の園だ。
「あの制服、どこかしら?」
「さぁ? でも可愛い制服ね」
なんか視線が痛い。
男子トイレに立て込もって、薫さんが駅に入ってくるのを見張ってようかな。かなり怪しいよな。
面接の練習をキャンセルにしてまでここに来たんだ。今更怖気づいてしまうわけにはいかない。どうにかして会いたいんだけどな。
トイレに駆け込んで対策を考えようとしたら、出てこようとする人と肩がぶつかりそうになった。
「すみませ」
「……憂斗?」
意外な人の登場に目を見開いてしまう。
やばい。
頬を隠すために口を手で隠したが間に合わなかった。
「清、人……」
なんでこの駅にいるんだ。この駅を使う学生なんて聖マリア女学院の生徒ぐらいのものなのに。
なんでここに清人がいるんだ。
「今日は面接の練習で遅くなりそうってメッセージ貰ってたけど」
「え、あう、うん。そう、これから学校に戻ろうと……」
嘘で誤魔化して取り繕ろうとして、清人の顔が見れなくて視線が地面に落ちていく。
誕生日前日に恋人に嘘をつかれるなんてどんな気持ちになるだろう。
俺は清人に不誠実で嫌なやつだ。
「憂斗?」
「薫さんと話がしたくて。その、……彼女にいい加減な言葉で振ったから気まずいママが嫌だった。きちんと解決してからじゃないと清人と恋人になれないと思って」
勇気を出して顔を上げると、清人が困ったような怒ったような複雑な表情をしていた。
そのあと首を触りながら、唸るように首を傾げた。
「うーん。そうだよな。相談もしにくいかあ、うん」
「ごめん」
「でも確かに嫌だ。複雑だ。でもここで会えるとは思わなかったからラッキーだ」
妹と恋人が微妙な関係だというのは嫌だよな。
なるべく頬を隠すために清人の右側に立ったが、どうか何も触れないでくれ。
「俺は何ができる?」
「えーっとここで薫さんを待っていても怪しまれないかな? 怪しまれるならしばらく隣に並んでいてほしいぐらい」
「なるほど。いいよ。で。その左頬、どうした?」
うわ。
ばっちり気づかれていたか。
どうか神様、これだけはウソがばれませんように。
「猫に引っかかれたからあまり見ないで」
「ふうん」
納得していないような相槌にふいっと横を向くとちょうど信号の向こう側に聖マリア女学院の制服を着た女性が沢山歩いてきているのが見える。
淡い水色のワンピースに水色のスカーフの上品な制服。
その集団の中心で綺麗な髪を風で乱れないように抑えながら歩いている薫さんの姿が見えた。
「最近、後輩たちがなかなか剥がれないって困ってたから迎えに来たんだよ、俺」
「へえ、人気者なんですね」
じゃああの薫さんの周りにいる生徒は後輩たちなのか。
「薫」
清人が俺を背に隠すように一歩出ると、薫さんが此方を向いた。
他の生徒は他校の制服を確認すると海の波のようにさああっと引いていく。
「お兄ちゃん。ふふ、お迎えが来たから失礼するわね」
薫さんが皆に手を振りながらこちらに向かってくる。
背に俺がいるのは分かってそうなのに俺には全く反応しない。
「遅かったな」
「生徒会が長引いたの。引継ぎだけなのになかなか解放してくれないの」
「薫は俺と違って愛想があるし頼られてしまうのかもな」
生徒会長かあ。
凛としてハキハキしゃべる薫さんは確かにぴったりだ。
三年なのに拘束されてしまうのは同情してしまう。
「お兄ちゃんみたいに要領よくないもん。でも幻滅させるのも申し訳ないし」
「お前は自慢の妹だ。幻滅するような奴は許さん」
「お兄ちゃん!」
完全に二人の世界じゃん。俺をわざと眼中に入れないようにも見える。
でも確かに。俺には薫さんは華奢で綺麗で近寄りがたい上品さのある女の子だけど、同じ女子高に通う育ちのいいお嬢さま達からすれば凛として格好いい薫さんはあこがれの対象なんだろうな。アイドルにキャーキャー騒ぐのが楽しいだけ。それを受け止めて格好いい憧れの先輩を演じてあげる薫さんは優しい。演技だけでなく素の部分も素敵だからファンが出来るんだろう。
「で、憂斗が薫と話したいらしい」
本当に『ギクッ』って効果音が出そうなぐらい体が揺れてしまった。
油断していたところで俺の話題に誘導してきたので驚いてしまった。
「さぁ? 私じゃないんじゃないの? だって私はフラれたんだし」
シャッターが閉められる音がした。俺へ心を閉ざしていく音。
なので一歩俺から近づいて、閉められる前に無理やり足をねじ込む。
「いや、薫さんに用事があって来たよ。君も嫌だと思うけど、話がしたい。その、君のお兄さん抜きで」
埒があかないから正直にそう言う。
でも清人が俺の隣で、ますます不機嫌になる。
「俺は関係ないって言いたいのか?」
「そう言うわけじゃないけど……」
「話なら聞かない。私の気持ちは変わらないもの」
「うーん」
どうしよう。正直、とっても話しにくい。隣で清人に聞かれたくないから言いにくいけど仕方ない。
「ごめんな。薫さん。俺からは清人と別れたりしないし、恋人だから会いたいし、その……本気で好きになったんだ。薫さんは、俺、綺麗すぎてびっくりして断ったけど、本当に俺には勿体無いって思ってるんだ。だから、俺は、薫さんを嫌いになれない。泣いてたら慰めてあげたいけど、抱き締めてはあげられないんだ」
息継ぎなしでそう言った。
強気な事を言っても、本当は二人の反応が怖かったから。
どこを見て良いか分からず、自分のぎゅっと握った手を見つめる。
女の子の気持ちも分からず、簡単にフッてしまったけれど、人を好きになって分かったよ。
この甘い気持ち。
そして『好き』って言葉を言うのがどんなに勇気がいるのかも。
相手を思って苦しくて、ギュッと胸が甘く痛んで、伝えないと苦しくて、でも伝えてるのが怖くて。
「やっぱり、薫さん! ちょっと二人で話そう!」
バッと勢いよく手を握りしめた。
そしてそのまま、薫さんの手を引いて駅まで歩く。
ほかの女の子たちの視線を浴びながらも、二人っきりになれる場所を探す。
「ち、ちょっと!」
「清人も居たら、俺嘘バレちゃうんだ。薫さんに叩かれたの、清人にバレたく、ない」
薫さんも俺の頬に傷を残すのは不本意だったろうし、それで二人が喧嘩するのも嫌だ。
「……ありがとう」
「あは。なんでありがとうなの? 薫さんが怒るのは仕方ないんだから」
「うん」
少しだけ薫さんの表情が和らぐと俯いてしまった。
改札口を通り、薫さんと同じ制服が溢れるなか、電車に乗り込んだ。
電車の中は、サラリーマンや女子高生、仕事帰りのOLさんで賑わっていた。
「あの、加賀くん、手……」
頬を染めた薫さんに言われて、未だに手を繋いだままだったのを思い出した。
「うわっ ごめん!」
学園の憧れの生徒会長が俺みたいな平凡野郎と手を繋いでたら嫌なうわさが広がっちゃうかもしれないし、迂闊だった。
「なんか俺、謝ってばっかだね」
「そうですね」
やっと微かに、薫さんが笑ってくれたような気がした。
「こうしてると、カップルに間違えられるかもしれませんね」
満員になりつつある電車で、なんとか壁際の薫さんを守ろうと踏ん張っていたら、ポツリと言われた。
本当は、踏ん張るのがやっとなんだけど、格好つけて笑ってみせた。
でも、薫さんは深刻そうな顔をしている。
「加賀くんと、こうして帰り待ち合わせしてデートしたり、手を繋いだり、……私を好きになって欲しかったの」
こちらに背を向けて、外の景色を見ながらそう言う。
こんなに髪を綺麗に巻いて、甘い香水を薫らせ、綺麗で儚げな背中の美人な女の子。
清人と出会っていなかったら、俺はこの背中を抱き締めてあげられただろうか。
俺は首を振って傷の残った頬を強く叩いた。俺が揺らぐな。俺が終わらせるんだ。
「綺麗だし、守ってあげたいって思う。けど俺、君に告白された時、まだ初恋も知らないガキだったから傷つけてしまったね。今ならもっと真摯に薫さんの気持ちと向き合えたと思う」
誰かを好きになることも知らず、ただただ綺麗過ぎで釣り合わないと状況から逃げてしまった俺を許さなくていい。
「――でも、お兄ちゃんなんでしょ?」
手すりをもつ薫さんの手が震えていた。
「うん。清人が好きだ」
こんなに電車に人が乗っているのに、目の前にこんなに綺麗な女の子が俺を想ってくれているのに、俺の気持ちは、ただ一人。
なんでだろうね。
ただ見てるだけだったのに。
憧れだったのに。
触れられたら止まらなくなっちゃったんだ。
「そこまで偏見は無い……つもりよ。でも大好きなお兄ちゃんと片想いしてた人なら話は別」
「うん」
「時間はかかるかもしれないけど、ちょっと心の整理ができるまで近づかないで」
「……うん」
揺れる電車の中、現実が胸に突き刺さる。
けど、薫さんは優しい。
俺が薫さんの立場なら相手を理解しようなんて思わなかったかも。
こんな子に好きになってもらえたなんて、俺は生涯ずっと誇ったほうがいい。
「でもあなたを傷つけたくて気持ち悪いって言葉を選んだのは、ごめんなさい」
「ん。平気。薫さんの立場ならそうなるのわかるよ」
その言葉に傷ついたというより、清人の大切な薫さんを傷つけたままのこの状況が嫌だったんだ。
俺のことは嫌いなままでも、それこそ気持ち悪くてもいいから、薫さん自身が幸せになるために一歩踏み出せるならそれでいい。
「じゃあ、私はこの駅なんで」
「うん。またね、あっ」
ポケットに入れておいた袋を取り出す。
ラッピングしてもらったのにしわくちゃになっていて、リボンなんてよれてしまっている。
「これ、明日誕生日なんでしょ。おめでとう」
気持ち悪いって拒否られると思ったけれど、薫さんは目を見開いて呆然としていた。
「あ、その全然大したものじゃないんだけど、うちの学校で流行ってるんだ。他校の記念シャーペン」
購買で購入できる数百円の安いやつなんだけど、うちの高校のシャーペンはちょっと有名なデザイナーがデザインしたらしい。有名というか最近有名になってうちの高校のシャーペンがオークションで転売されるようになったとか。
「受験勉強で他校のシャーペン使うと受かるって迷信なんだけど、流行ってて、その単純だけどやる気が上がるなら使った方がいいじゃん」
俺も双葉高校のシャーペンをさやに頼まれたから持ってる。聖マリア女学院はそもそも作ってあるのかわからない。
最近人気漫画の実写ドラマでもやってて全国に広がりつつあるおまじないだし、高等部だからそのまま短大か大学の内部進学かもしれないけど、でも流行りのものを嫌う女の子は少ないし、お嬢さまには珍しいかなって思ったんだ。
「……ありがとう」
ブランド品とか沢山持っている薫さんに数百円のシャーペンなんて、ファンがみたら怒るかもしれない。
でも、本命でもないのにブランドバッグや手作りケーキは違うしね。
「ありがとう」
電車が閉まる瞬間、もう一度お礼を言うと薫さんはそのよれよれになったプレゼントの袋を抱きしめて泣いていた。
ガキだった俺がとても傷つけてしまった相手。
これで許されるとは思わないけど、彼女の傷が早く癒えますように。
「……俺の妹を泣かせたな」
「ひっぃっ」
振り返ると不機嫌そうな清人がいた。
なぜか同じ電車に乗っていた。
「え、あ、え? 降りなくてよかったの?」
「こっそり違う車両から乗り込んだのに、一緒に降りたら気まずいだろ」
「そうか。……ごめんな、いろいろ」
俺は逃げたんだ。
薫さんがケーキ屋の前で掃除していた俺にラブレターを渡してきたときに、耳まで真っ赤になって震える手で手紙を差し出してきたときに、薫さんの気持ちと向き合うのから逃げた。こんな綺麗な女の子が俺にって罰ゲームかもと思ったし、受験だってあるし、恋愛ってなんだ? そんなのよりケーキのほうが好きだって頭の悪い俺は逃げたんだ。
傷つけたくせに、恋愛なんてわからないって逃げたくせに双子の兄と恋人になっていたら、いくら彼女が綺麗な性格であってもどす黒い気持ちがわいてしまうかもしれない。
「いやだ」
ぼすんと俺の肩に頭を乗せてすりするとすり寄ってきた。甘えてくる清人は珍しくて、つい車両のまわりが気になった。
少し混んでいた駅は、彼女が下りた駅でだいぶ人が少なくなった。
座って眠っているサラリーマンが数人と本を読んでいる女性がいるぐらい。
なので俺は恐る恐る甘えてきた清人の頭を撫でた。
「妹は大切だが、俺はお前も大切なんだよ。なにかあんなら相談しろよ」
だから言えないよ。彼女が俺を叩いたと知ったら、俺が彼女の告白から逃げていたと知ったら、二重に傷つくのは清人なんだから。
「嫌だからな。次に妹関係の事で悩むなら絶対に俺に相談しろよ」
でもこんな風に傷つく清人も見たくないので、うまい塩梅を探していこう。
揺れる電車の中、清人の髪をなでながら夕焼け色に染まる窓の外を眺める。
窓に映る清人の大きな背中が、丸く猫のように俺にのしかかっているのが可愛く見えた。
「俺、恋愛なんてしたことないから、一人で燃え上がってるんだ。んで周りが見えなくて、勉強が疎かになったり、知らないうちに人を傷つけたり。だから、俺せめて試験が終わるまでは清人と会わないって決めたのに」
見たら側に居たくて。側に居たら触れたくて。
同性なのに圧倒的に敵わない、存在感。
自分にないものを持ってるから惹かれてしまうあの衝動。
自分でもブレーキが効かなくなるんだ。
これが恋愛だと言うならば、俺はこんな思いもう清人だけで充分だ。
「で、一人で悩もうとしたわけか?」
少し低い声で清人は言った。
窓の外は、俺の家に向かっているいつもの町並み。
「恋愛に不慣れなら相談して欲しいけどな。俺は、お前とキスするだけの関係じゃねーぞ?」
「うう……。清人」
俺だってキスだけの関係じゃないことぐらいわかってる。だから苦しいんだって。
「薫がごめんな。……頑張らせて悪い」
そう言うと、強く強く、抱き締めてくれた。
ミントの匂いが、抱き締められた服の中からする。
俺、この匂いが中毒になってる。
清人だって俺を心配してくれたのに、から回ってばっかりだ。
「この頬の傷、ちょっと頬も腫れてないか」
「虫歯だって。清人への甘い恋で虫歯ができてんだよ。確かに痛いんだ。病院行くのだって怖いよ。まわりの声にいちいち不安になってるけどさ」
顔を上げ、頬に触れようと伸びてきた腕を握り返した。
「こうやって清人が分かってくれるから、俺は、幸せだ。すっごい幸せだ。もう一生虫歯でも良いぐらい」
「憂斗」
赤い腫れが引かなかった頬を愛しげに触ってくれた。
「虫歯の治療、してやるよ」
清人は唇を舌で舐めながら、妖しく笑った。
俺も上着を脱ぐと、清人の首に抱きついた。
この体温も、この腕も、この唇も、甘く締め付ける恋の痛みや悩みも、全部全部、俺のものだ。
口を啄むような軽いキスがおでこ、鼻、頬に降り注ぐ。
でも俺は、そんな軽いキスが欲しいわけじゃ、ない。
「約束しろよ。泣きたくなったり辛くなったら、俺に相談するって」
「うん」
「俺もお前が言えなくても気づけるように、もっと憂斗を見とくから」
「ありがとう」
どれぐらい大人になれば、清人を好きでも回りに迷惑をかけないんだろう。
どれぐらい大人になれば、清人を好きでも回りを傷つけなくて済むんだろう。
好きで、好きで、好きで。
キスだけじゃ足りないぐらい好きで。
相手をこんなに求めてしまうのは、この溢れる思いを言葉だけじゃ伝えられないからなんだ。
「……やべ。帰りたくない」
俺もだよ。でも言わない。だって俺に甘い清人は次の駅で俺を下ろしてくれなくなるから。
「来週の試験が終わったら、ケーキ作る。ケーキ作ったら俺の家でお祝いしよう」
「結果発表は待たなくていいの?」
「待てない」
土曜に試験があって専門学校へ受けに行って、結果はいつ来るのか知らない。月曜に来るとしても、待てないよ。
「――お前も、親御さんに嘘つくのは胸が痛むだろ」
「それは……」
薫さんみたいに両親が傷つくのは胸が痛む。
「だろ? 今、憂斗がすることは、試験を無事に終える事だけでいい」
清人は俺の頭をポンポンすると、目元を優しく細めた。
「で、俺も薫の気持ちが落ち着いたら話し合ってみる。で、俺は別にこの先も憂斗と居たいから、お前の親御さんに挨拶に行く気持ちもあるし」
「挨拶?」
話が飛躍し過ぎて口からお昼に食べたお弁当が飛び出してくるかと思った。
俺だってまだ清人のご両親に会ったこともないのに。
「でも急ぐ必要はねぇ。何年先でも行く。まずは、憂斗の目の前にある課題を頑張ろうな?」
「うん」
「じゃあ、試験まで俺からは連絡しないから」
駅が近づくアナウンスが流れ、俺も掴んでいた清人の服の裾を離した。
親とか兄妹とか、甘くない現実はちょっとだけ忘れて少なくても試験が終わるまでは忘れよう。
人を好きになる事って楽しいだけじゃない。
片想いの時は両思いになる事が目標かもしれないけど、恋人をスタートさせたばかりの俺たちは何が目標になるんだろう。
胸が痛い。
ただ俺は、人を好きになっただけなのに。
土曜日が清人の誕生日だと知ってから楽しみだった。
清人が泊まりにいていいよって言ってたのも楽しみだったが、意外にも両親に伝えたら難色を示されてしまった。
「憂斗は指定校推薦をもらっているからいいけど、この時期の土日は大事なのよ」
「さやちゃんみたいにご両親や志望校知ってる相手ならまだしも他校の最近できた友人だろ? 会ってお祝いするぐらいにしときなさい」
友人じゃなくて恋人と伝えたところで反応は一緒だと思う。
両親に清人がどれぐらい勉強できるか説明するのも大変だし、それに。
「わかった。ありがとう」
それに俺も土曜日に会うのに断る理由を探していたから、助かった。
両親にそう言われると薄々分かっていて相談した気もする。
「にいに、いたい?」
「ひやす?」
妹二人が俺の前髪のゴムを決めるときに、左頬に走る赤い線を心配げに見つめる。
「大丈夫だよ」
薫さんに頬を叩かれたときに爪が当たってしまったんだ。抉る感じではなく頬をひっかくように走った赤い線。
母さん達には野良猫を抱き上げたら引っかかれたと説明したけど、清人にうまく誤魔化せる気がしなかった。
それに薫さんが家族で誕生日を過ごしたいというならば、彼女の誕生日でもあるし遠慮するのは俺の方だ。
綺麗で俺にもったいないとか適当な理由で薫さんをふった癖に、清人との交際は認めてもらえるなんて思えない。
色んな考えが頭を支配する中、土曜ではなく俺の試験が終わってから改めてお祝いしようって提案するつもりだ。
指定校推薦の自己紹介文は何十回も書き直したけれど、今回の誕生日デートを断るメッセージを考える方が何十倍も難しく、何十倍も苦しかった。
金曜日の朝、何回も書き直して送ったメッセージを見て悲しくなった。
でも全部過去の自分の行いが帰ってきただけだから。
『清人! ごめん! 今日は面接の練習やら試験の準備で遅くなるから塾のあとは俺のことを待たずに帰っていいよ。
あと土曜日なんだけど、泊まりは受験前に親が相手に悪いからと説得しても納得してくれなくてさ、あとあまりに面接とか試験勉強が疎かになっているから、試験が終わってから改まってお祝いした方が俺もゆっくりできるかなって思ったんだ。
急で悪いっけど土曜日は家族で誕生日を過ごすのはどうかな。
薫さんだって俺が家に来たら嫌だろうし、家族でお祝いされたいかもじゃん。
なかなか言い出しにくくてギリギリに言ってごめんな。またデートの日にちは改めて決めよう』
言い訳ばっかで自分擁護でひどい内容だ。
誕生日前日にこんな内容のメッセージをもらった清人はどんな気持ちなんだろうな。
申し訳なくて胸が苦しい。今すぐ抱き着いて、お祝いしたいぐらいなのに。
「なあ、誕生日のプレゼントって今の時期何が嬉しいの? 受験お守り?」
「重い。あんたならケーキだけでも大満足よ」
そのケーキが苦手な相手なんだよなあ。
今日はカラコンして爪にお花のビーズをつけようと悪戦苦闘しているさやは、服飾関係の専門学校に行くらしい。いつも奇抜だけどお洒落で自分に似合った化粧や小物を使っているさやにはとっても似合っている。
ただ大好きなブランドのパタンナーが最終的な目標らしく、険しい道のりらしい。
いつか海外に行ってしまうってことでもあるから、今は幼馴染として傍でお互いの進路を見守っていたい。
「誕生日ねえ。肌身離さず持っていたいなら筆箱とかシャーペンとかでも全然嬉しいんだよね、私」
「え、そうなの? ブランド品のアクセサリーとか鞄じゃないの?」
「そんな高いものは親がくれるから。好きな人には最低限でいい、鏡でもいいしパターン引く時に使う文鎮とか嬉しいかも」
文鎮?
文鎮をもらって喜ぶ清人が全く脳内に浮かんでこない。
でも学校行って塾行って勉強してって生活だからシャーペンとかいいな。
「そういえばこの前オープンキャンパス行ったときに手作りの定規とシャーペンのカスタマイズできるお店教えてもらったよ。自分で色を選ぶやつなんだけど」
「えー教えて教えて」
さやがメッセージで公式ホームページを送ってくれたので早速見る。
予約必須でオーダーメイドは出来上がりが一週間以上先だから土曜には間に合わないけど、別日にお祝いするなら間に合う。でも電話で空いてたら当日お店で作れるみたいだ。
「まあ双葉の君なら文房具喜びそう」
「なっ」
さやには誕生日の相手はとっくにお見通しなんだ。
さやの差すとが終わり次第、どうなったか教えてもいいと思っているけど、言わずとももう分かってそう。
「庶民的なプレゼントが嬉しいタイプじゃない?」
確かに持っているものや服はブランド品ばっかだけど、ファーストフードやゲームセンターも好きそうだった。
ケーキを作ってあげたい気持ちは押し付けになりそうだし、プレゼントも用意しよう。
「で、その頬の傷は彼からの暴力ではないんだ?」
「そんなことするわけないだろ。猫に引っかかれたんだ」
「猫がひっかくときは複数の傷が付くのよ」
「えっそうなの?」
じゃあ親にも嘘だってばれたかもしれない。
やっぱり清人にはこの傷が目立たなくなるまで会えない。
「うっそ。あはは、その慌て方からしてあんた嘘つけないよ」
爆笑しているさやには悪いけど、嘘をつけないの分かっているからこうして誕生日前日に会えないって選択を選んだんだぞ。
そんなこと言えるわけもないけど。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。何も言いたくないんだろうけどさ、あんたはそこがいいんだから」
嘘をつかないまっすぐな性格が、あんただよ。
さやにそう言われ、両手に力が入った。
嘘はつきたくない。それは俺もそうなんだ。
でも一番相手が傷つかず、解決する方法を俺は考えなければいけない。
これが分からなければ試験なんて受けている場合ではないと思った。
頬の傷を触る。痛みは全くないし時間が経てば目立たなくなる傷だ。
でも今も彼女はきっと傷ついたままなんだろうな。
「ありがとう。さや、俺、何とか解決してみる」
「……誕生日の話しじゃなかったの?」
不思議そうに首を傾げたさやに俺はあいまいに笑って誤魔化した。
どうせ誤魔化してもバレるんだろうけど。
***
俺を励まそうとしてくれたんだから、俺も頑張らなければと動くことにしてみた。
薫さんは駅二つ離れた聖白百合学園に通っていること以外の情報はない。
というのも清人が通う双葉学園が有名進学校だとすると白百合学園はお嬢様学校という情報しかない。箱入り娘しかいないとか旧華族や政治家、社長令嬢が通う学校。昔の名残らしいけど、校門前に噴水の奥にロータリーがあり車送迎必須だったとか。今も駅には学校関係者が他校の生徒に絡まれないように立っているらしいし、女性車両以外には乗れない。男女交際禁止って噂もある。うちの学校の男友達たちは下品な感じで騒いでいたから嫌だったけれど、大切にされてる女の子が通っているイメージだ。
そんな学校の前で待ち伏せしたら教師とか出てきそうだな。この時期に彼女も進路があるだろうし騒いで迷惑かけられない。でも会ってきちんと話がしたい。
駅で待ち伏せしてみようかな。
そもそも反対されるのは分かってた。
だったら、回りに迷惑かけないでこの恋を育むのは無理なのかもしれない。
理解してもらえなくても、伝わるまで行動でも態度でも気を付ける。今は彼女の傷がいえるのが優先だ。
駅から見える校舎は、教会やらエレベーターつきの校舎やら、設備からして俺の通う公立とは格が違う。確か付属だから短大やら大学もあるんだよな。正に女の園だ。
「あの制服、どこかしら?」
「さぁ? でも可愛い制服ね」
なんか視線が痛い。
男子トイレに立て込もって、薫さんが駅に入ってくるのを見張ってようかな。かなり怪しいよな。
面接の練習をキャンセルにしてまでここに来たんだ。今更怖気づいてしまうわけにはいかない。どうにかして会いたいんだけどな。
トイレに駆け込んで対策を考えようとしたら、出てこようとする人と肩がぶつかりそうになった。
「すみませ」
「……憂斗?」
意外な人の登場に目を見開いてしまう。
やばい。
頬を隠すために口を手で隠したが間に合わなかった。
「清、人……」
なんでこの駅にいるんだ。この駅を使う学生なんて聖マリア女学院の生徒ぐらいのものなのに。
なんでここに清人がいるんだ。
「今日は面接の練習で遅くなりそうってメッセージ貰ってたけど」
「え、あう、うん。そう、これから学校に戻ろうと……」
嘘で誤魔化して取り繕ろうとして、清人の顔が見れなくて視線が地面に落ちていく。
誕生日前日に恋人に嘘をつかれるなんてどんな気持ちになるだろう。
俺は清人に不誠実で嫌なやつだ。
「憂斗?」
「薫さんと話がしたくて。その、……彼女にいい加減な言葉で振ったから気まずいママが嫌だった。きちんと解決してからじゃないと清人と恋人になれないと思って」
勇気を出して顔を上げると、清人が困ったような怒ったような複雑な表情をしていた。
そのあと首を触りながら、唸るように首を傾げた。
「うーん。そうだよな。相談もしにくいかあ、うん」
「ごめん」
「でも確かに嫌だ。複雑だ。でもここで会えるとは思わなかったからラッキーだ」
妹と恋人が微妙な関係だというのは嫌だよな。
なるべく頬を隠すために清人の右側に立ったが、どうか何も触れないでくれ。
「俺は何ができる?」
「えーっとここで薫さんを待っていても怪しまれないかな? 怪しまれるならしばらく隣に並んでいてほしいぐらい」
「なるほど。いいよ。で。その左頬、どうした?」
うわ。
ばっちり気づかれていたか。
どうか神様、これだけはウソがばれませんように。
「猫に引っかかれたからあまり見ないで」
「ふうん」
納得していないような相槌にふいっと横を向くとちょうど信号の向こう側に聖マリア女学院の制服を着た女性が沢山歩いてきているのが見える。
淡い水色のワンピースに水色のスカーフの上品な制服。
その集団の中心で綺麗な髪を風で乱れないように抑えながら歩いている薫さんの姿が見えた。
「最近、後輩たちがなかなか剥がれないって困ってたから迎えに来たんだよ、俺」
「へえ、人気者なんですね」
じゃああの薫さんの周りにいる生徒は後輩たちなのか。
「薫」
清人が俺を背に隠すように一歩出ると、薫さんが此方を向いた。
他の生徒は他校の制服を確認すると海の波のようにさああっと引いていく。
「お兄ちゃん。ふふ、お迎えが来たから失礼するわね」
薫さんが皆に手を振りながらこちらに向かってくる。
背に俺がいるのは分かってそうなのに俺には全く反応しない。
「遅かったな」
「生徒会が長引いたの。引継ぎだけなのになかなか解放してくれないの」
「薫は俺と違って愛想があるし頼られてしまうのかもな」
生徒会長かあ。
凛としてハキハキしゃべる薫さんは確かにぴったりだ。
三年なのに拘束されてしまうのは同情してしまう。
「お兄ちゃんみたいに要領よくないもん。でも幻滅させるのも申し訳ないし」
「お前は自慢の妹だ。幻滅するような奴は許さん」
「お兄ちゃん!」
完全に二人の世界じゃん。俺をわざと眼中に入れないようにも見える。
でも確かに。俺には薫さんは華奢で綺麗で近寄りがたい上品さのある女の子だけど、同じ女子高に通う育ちのいいお嬢さま達からすれば凛として格好いい薫さんはあこがれの対象なんだろうな。アイドルにキャーキャー騒ぐのが楽しいだけ。それを受け止めて格好いい憧れの先輩を演じてあげる薫さんは優しい。演技だけでなく素の部分も素敵だからファンが出来るんだろう。
「で、憂斗が薫と話したいらしい」
本当に『ギクッ』って効果音が出そうなぐらい体が揺れてしまった。
油断していたところで俺の話題に誘導してきたので驚いてしまった。
「さぁ? 私じゃないんじゃないの? だって私はフラれたんだし」
シャッターが閉められる音がした。俺へ心を閉ざしていく音。
なので一歩俺から近づいて、閉められる前に無理やり足をねじ込む。
「いや、薫さんに用事があって来たよ。君も嫌だと思うけど、話がしたい。その、君のお兄さん抜きで」
埒があかないから正直にそう言う。
でも清人が俺の隣で、ますます不機嫌になる。
「俺は関係ないって言いたいのか?」
「そう言うわけじゃないけど……」
「話なら聞かない。私の気持ちは変わらないもの」
「うーん」
どうしよう。正直、とっても話しにくい。隣で清人に聞かれたくないから言いにくいけど仕方ない。
「ごめんな。薫さん。俺からは清人と別れたりしないし、恋人だから会いたいし、その……本気で好きになったんだ。薫さんは、俺、綺麗すぎてびっくりして断ったけど、本当に俺には勿体無いって思ってるんだ。だから、俺は、薫さんを嫌いになれない。泣いてたら慰めてあげたいけど、抱き締めてはあげられないんだ」
息継ぎなしでそう言った。
強気な事を言っても、本当は二人の反応が怖かったから。
どこを見て良いか分からず、自分のぎゅっと握った手を見つめる。
女の子の気持ちも分からず、簡単にフッてしまったけれど、人を好きになって分かったよ。
この甘い気持ち。
そして『好き』って言葉を言うのがどんなに勇気がいるのかも。
相手を思って苦しくて、ギュッと胸が甘く痛んで、伝えないと苦しくて、でも伝えてるのが怖くて。
「やっぱり、薫さん! ちょっと二人で話そう!」
バッと勢いよく手を握りしめた。
そしてそのまま、薫さんの手を引いて駅まで歩く。
ほかの女の子たちの視線を浴びながらも、二人っきりになれる場所を探す。
「ち、ちょっと!」
「清人も居たら、俺嘘バレちゃうんだ。薫さんに叩かれたの、清人にバレたく、ない」
薫さんも俺の頬に傷を残すのは不本意だったろうし、それで二人が喧嘩するのも嫌だ。
「……ありがとう」
「あは。なんでありがとうなの? 薫さんが怒るのは仕方ないんだから」
「うん」
少しだけ薫さんの表情が和らぐと俯いてしまった。
改札口を通り、薫さんと同じ制服が溢れるなか、電車に乗り込んだ。
電車の中は、サラリーマンや女子高生、仕事帰りのOLさんで賑わっていた。
「あの、加賀くん、手……」
頬を染めた薫さんに言われて、未だに手を繋いだままだったのを思い出した。
「うわっ ごめん!」
学園の憧れの生徒会長が俺みたいな平凡野郎と手を繋いでたら嫌なうわさが広がっちゃうかもしれないし、迂闊だった。
「なんか俺、謝ってばっかだね」
「そうですね」
やっと微かに、薫さんが笑ってくれたような気がした。
「こうしてると、カップルに間違えられるかもしれませんね」
満員になりつつある電車で、なんとか壁際の薫さんを守ろうと踏ん張っていたら、ポツリと言われた。
本当は、踏ん張るのがやっとなんだけど、格好つけて笑ってみせた。
でも、薫さんは深刻そうな顔をしている。
「加賀くんと、こうして帰り待ち合わせしてデートしたり、手を繋いだり、……私を好きになって欲しかったの」
こちらに背を向けて、外の景色を見ながらそう言う。
こんなに髪を綺麗に巻いて、甘い香水を薫らせ、綺麗で儚げな背中の美人な女の子。
清人と出会っていなかったら、俺はこの背中を抱き締めてあげられただろうか。
俺は首を振って傷の残った頬を強く叩いた。俺が揺らぐな。俺が終わらせるんだ。
「綺麗だし、守ってあげたいって思う。けど俺、君に告白された時、まだ初恋も知らないガキだったから傷つけてしまったね。今ならもっと真摯に薫さんの気持ちと向き合えたと思う」
誰かを好きになることも知らず、ただただ綺麗過ぎで釣り合わないと状況から逃げてしまった俺を許さなくていい。
「――でも、お兄ちゃんなんでしょ?」
手すりをもつ薫さんの手が震えていた。
「うん。清人が好きだ」
こんなに電車に人が乗っているのに、目の前にこんなに綺麗な女の子が俺を想ってくれているのに、俺の気持ちは、ただ一人。
なんでだろうね。
ただ見てるだけだったのに。
憧れだったのに。
触れられたら止まらなくなっちゃったんだ。
「そこまで偏見は無い……つもりよ。でも大好きなお兄ちゃんと片想いしてた人なら話は別」
「うん」
「時間はかかるかもしれないけど、ちょっと心の整理ができるまで近づかないで」
「……うん」
揺れる電車の中、現実が胸に突き刺さる。
けど、薫さんは優しい。
俺が薫さんの立場なら相手を理解しようなんて思わなかったかも。
こんな子に好きになってもらえたなんて、俺は生涯ずっと誇ったほうがいい。
「でもあなたを傷つけたくて気持ち悪いって言葉を選んだのは、ごめんなさい」
「ん。平気。薫さんの立場ならそうなるのわかるよ」
その言葉に傷ついたというより、清人の大切な薫さんを傷つけたままのこの状況が嫌だったんだ。
俺のことは嫌いなままでも、それこそ気持ち悪くてもいいから、薫さん自身が幸せになるために一歩踏み出せるならそれでいい。
「じゃあ、私はこの駅なんで」
「うん。またね、あっ」
ポケットに入れておいた袋を取り出す。
ラッピングしてもらったのにしわくちゃになっていて、リボンなんてよれてしまっている。
「これ、明日誕生日なんでしょ。おめでとう」
気持ち悪いって拒否られると思ったけれど、薫さんは目を見開いて呆然としていた。
「あ、その全然大したものじゃないんだけど、うちの学校で流行ってるんだ。他校の記念シャーペン」
購買で購入できる数百円の安いやつなんだけど、うちの高校のシャーペンはちょっと有名なデザイナーがデザインしたらしい。有名というか最近有名になってうちの高校のシャーペンがオークションで転売されるようになったとか。
「受験勉強で他校のシャーペン使うと受かるって迷信なんだけど、流行ってて、その単純だけどやる気が上がるなら使った方がいいじゃん」
俺も双葉高校のシャーペンをさやに頼まれたから持ってる。聖マリア女学院はそもそも作ってあるのかわからない。
最近人気漫画の実写ドラマでもやってて全国に広がりつつあるおまじないだし、高等部だからそのまま短大か大学の内部進学かもしれないけど、でも流行りのものを嫌う女の子は少ないし、お嬢さまには珍しいかなって思ったんだ。
「……ありがとう」
ブランド品とか沢山持っている薫さんに数百円のシャーペンなんて、ファンがみたら怒るかもしれない。
でも、本命でもないのにブランドバッグや手作りケーキは違うしね。
「ありがとう」
電車が閉まる瞬間、もう一度お礼を言うと薫さんはそのよれよれになったプレゼントの袋を抱きしめて泣いていた。
ガキだった俺がとても傷つけてしまった相手。
これで許されるとは思わないけど、彼女の傷が早く癒えますように。
「……俺の妹を泣かせたな」
「ひっぃっ」
振り返ると不機嫌そうな清人がいた。
なぜか同じ電車に乗っていた。
「え、あ、え? 降りなくてよかったの?」
「こっそり違う車両から乗り込んだのに、一緒に降りたら気まずいだろ」
「そうか。……ごめんな、いろいろ」
俺は逃げたんだ。
薫さんがケーキ屋の前で掃除していた俺にラブレターを渡してきたときに、耳まで真っ赤になって震える手で手紙を差し出してきたときに、薫さんの気持ちと向き合うのから逃げた。こんな綺麗な女の子が俺にって罰ゲームかもと思ったし、受験だってあるし、恋愛ってなんだ? そんなのよりケーキのほうが好きだって頭の悪い俺は逃げたんだ。
傷つけたくせに、恋愛なんてわからないって逃げたくせに双子の兄と恋人になっていたら、いくら彼女が綺麗な性格であってもどす黒い気持ちがわいてしまうかもしれない。
「いやだ」
ぼすんと俺の肩に頭を乗せてすりするとすり寄ってきた。甘えてくる清人は珍しくて、つい車両のまわりが気になった。
少し混んでいた駅は、彼女が下りた駅でだいぶ人が少なくなった。
座って眠っているサラリーマンが数人と本を読んでいる女性がいるぐらい。
なので俺は恐る恐る甘えてきた清人の頭を撫でた。
「妹は大切だが、俺はお前も大切なんだよ。なにかあんなら相談しろよ」
だから言えないよ。彼女が俺を叩いたと知ったら、俺が彼女の告白から逃げていたと知ったら、二重に傷つくのは清人なんだから。
「嫌だからな。次に妹関係の事で悩むなら絶対に俺に相談しろよ」
でもこんな風に傷つく清人も見たくないので、うまい塩梅を探していこう。
揺れる電車の中、清人の髪をなでながら夕焼け色に染まる窓の外を眺める。
窓に映る清人の大きな背中が、丸く猫のように俺にのしかかっているのが可愛く見えた。
「俺、恋愛なんてしたことないから、一人で燃え上がってるんだ。んで周りが見えなくて、勉強が疎かになったり、知らないうちに人を傷つけたり。だから、俺せめて試験が終わるまでは清人と会わないって決めたのに」
見たら側に居たくて。側に居たら触れたくて。
同性なのに圧倒的に敵わない、存在感。
自分にないものを持ってるから惹かれてしまうあの衝動。
自分でもブレーキが効かなくなるんだ。
これが恋愛だと言うならば、俺はこんな思いもう清人だけで充分だ。
「で、一人で悩もうとしたわけか?」
少し低い声で清人は言った。
窓の外は、俺の家に向かっているいつもの町並み。
「恋愛に不慣れなら相談して欲しいけどな。俺は、お前とキスするだけの関係じゃねーぞ?」
「うう……。清人」
俺だってキスだけの関係じゃないことぐらいわかってる。だから苦しいんだって。
「薫がごめんな。……頑張らせて悪い」
そう言うと、強く強く、抱き締めてくれた。
ミントの匂いが、抱き締められた服の中からする。
俺、この匂いが中毒になってる。
清人だって俺を心配してくれたのに、から回ってばっかりだ。
「この頬の傷、ちょっと頬も腫れてないか」
「虫歯だって。清人への甘い恋で虫歯ができてんだよ。確かに痛いんだ。病院行くのだって怖いよ。まわりの声にいちいち不安になってるけどさ」
顔を上げ、頬に触れようと伸びてきた腕を握り返した。
「こうやって清人が分かってくれるから、俺は、幸せだ。すっごい幸せだ。もう一生虫歯でも良いぐらい」
「憂斗」
赤い腫れが引かなかった頬を愛しげに触ってくれた。
「虫歯の治療、してやるよ」
清人は唇を舌で舐めながら、妖しく笑った。
俺も上着を脱ぐと、清人の首に抱きついた。
この体温も、この腕も、この唇も、甘く締め付ける恋の痛みや悩みも、全部全部、俺のものだ。
口を啄むような軽いキスがおでこ、鼻、頬に降り注ぐ。
でも俺は、そんな軽いキスが欲しいわけじゃ、ない。
「約束しろよ。泣きたくなったり辛くなったら、俺に相談するって」
「うん」
「俺もお前が言えなくても気づけるように、もっと憂斗を見とくから」
「ありがとう」
どれぐらい大人になれば、清人を好きでも回りに迷惑をかけないんだろう。
どれぐらい大人になれば、清人を好きでも回りを傷つけなくて済むんだろう。
好きで、好きで、好きで。
キスだけじゃ足りないぐらい好きで。
相手をこんなに求めてしまうのは、この溢れる思いを言葉だけじゃ伝えられないからなんだ。
「……やべ。帰りたくない」
俺もだよ。でも言わない。だって俺に甘い清人は次の駅で俺を下ろしてくれなくなるから。
「来週の試験が終わったら、ケーキ作る。ケーキ作ったら俺の家でお祝いしよう」
「結果発表は待たなくていいの?」
「待てない」
土曜に試験があって専門学校へ受けに行って、結果はいつ来るのか知らない。月曜に来るとしても、待てないよ。
「――お前も、親御さんに嘘つくのは胸が痛むだろ」
「それは……」
薫さんみたいに両親が傷つくのは胸が痛む。
「だろ? 今、憂斗がすることは、試験を無事に終える事だけでいい」
清人は俺の頭をポンポンすると、目元を優しく細めた。
「で、俺も薫の気持ちが落ち着いたら話し合ってみる。で、俺は別にこの先も憂斗と居たいから、お前の親御さんに挨拶に行く気持ちもあるし」
「挨拶?」
話が飛躍し過ぎて口からお昼に食べたお弁当が飛び出してくるかと思った。
俺だってまだ清人のご両親に会ったこともないのに。
「でも急ぐ必要はねぇ。何年先でも行く。まずは、憂斗の目の前にある課題を頑張ろうな?」
「うん」
「じゃあ、試験まで俺からは連絡しないから」
駅が近づくアナウンスが流れ、俺も掴んでいた清人の服の裾を離した。
親とか兄妹とか、甘くない現実はちょっとだけ忘れて少なくても試験が終わるまでは忘れよう。
人を好きになる事って楽しいだけじゃない。
片想いの時は両思いになる事が目標かもしれないけど、恋人をスタートさせたばかりの俺たちは何が目標になるんだろう。
胸が痛い。
ただ俺は、人を好きになっただけなのに。
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