この恋は、風邪みたいなものでして。

篠原愛紀

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症状三、急激に体温上昇?

症状三、急激に体温上昇?⑩

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子猫を助けたのは、私の完全な思いあがりの偽善だとしても、颯真さんに迷惑をかけたくなかったから、だから伝えたい。
「君が大切な人を亡くしたのは受け止めたけれど、君が泣いているのは死ぬのが辛いからだけ?」
また髪を撫でられながら彼は私の涙を指で掬いあげる。
「大切な思い出が一緒に消えてしまうのが不安だから泣くの? 隣にもう居てくれないから? 後ろ向きな考えばかりで、今きっとヤス君はキミを見て苛々してると思うけど」
「そ、うなんですか」
こんなにメソメソとイイ大人が泣いてばかりでは、ヤス君は安心して虹の橋を渡れないのかもしれない。
「俺ね、小さい頃、猫をお迎えしようとしたことがあって、毎日毎日、猫とベットで一緒に眠ることを夢見てわくわくしてた」
「颯真さんも。でもお迎えしなかったんですか?」
「ん。両親が猫アレルギーだったんだ。
二人とも猫を抱いた瞬間、くしゃみや蕁麻疹。子供心にあの姿を見てまで飼いたいって言えなかったんだが」
颯真さんの視線の先は、点滴に繋がれた子猫だった。ぐったりとしているが、時折プククククと寝息を立てている。小さく小さく丸まっているけど、懸命に生きている。
「だから、今度は俺が飼いたい。あの時の思い分、大切にする」
「……ごめんなさい。私、失礼な言葉ばかり投げちゃって」
「君らしくて、逆に益々好きになったよ」
「す!?」
「子猫の名前、二人で考えようね」
私を振り回す甘い笑顔で彼は子猫と私を交互に見た。
彼はとても優しい。その優しさは一体どの感情から滲ませてくれているんだろう。
「では、こちらにサインと住所と、あと身分証の提示も――」
電話が終わり、看護師さんが書類を何枚か持って来た。ついでに子猫の診察カードも作るようだ。
「あ、私、家に遅くなるって電話しなきゃ」
気づいたら、いつもならばとっくに帰っている時間だ。連絡いれないと夕飯も片づけられてしまう。
「車の鍵、俺のスーツのポケットから出していいよ」
「すいません、お借りします」
ポケットからキーケースを取り出すと、駐車場へ向かった。
一目で分かる彼の車のロックを外す。助手席のカバンを取りだし、ついでに床に落ちた砂を払っていた時だった。
キラキラと助手席の足元に何かが光った。摘まんで持ち上げて見ると、音符の形のピアスだった。丸い部分に赤いルビーが埋め込まれている。
音符の形のピアスを助手席で落とす人物なんて一人しか浮かばない。
これって。摘まんでしまった以上、颯真さんに言わないわけにはいかないけど。
これで二人がまた連絡を取り合う接点になったら嫌だなって思ったりする。
きっとずっと昔に落としたんだ。
そうに違いない。慌ててドアを閉めてロックのボタンを押したら、動揺し過ぎてキーケースを地面に落してしまった。
キーケースの中には、キーが四つぶら下がっていた。自宅や実家、車と三つは推理できても残り一個の鍵が私の不安を更に掻き立てる。
二人は恋人同士では無かったと聞いているから私はそれを信じていたけれど、本当は――?
別れるのが大変だったから私を婚約者にしたてたのなら、私はそう言って貰えたなら納得できたけど、なんで隠すんだろう。
「颯真さん、鍵ありがとうございました」
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