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弐:最恐最悪装備の魔王VS就活のダボダボスーツ装備勇者
九
しおりを挟む「ダミエル・セーメ・コテイノ・リクイール様がお待ちですよ、リーヤー・ル・シャルル様」
「あ、はい」
わざわざフルネームで言われて面食らう。俺をホテルの中に案内してくれたのは、年配の男性だった。俺の前世の名前を言うぐらいだから、魔王の手下だったのかもしれない。
「こちらのカードキーは、最上階のスイートルーム専用です。エレベーターに乗りましたら差し込んでください」
「ありがとうございます。あの、ダミエルさんって俺に対して怒ってましたか」
「はい。おこでした」
「おこでしたか……」
おこだったのか。そうか。帰りたい。
「けれど、貴方なら大丈夫でしょう。リンリン」
「え……」
俺の前世の愛称を呼ぶコンシェルジは、片方だけの眼鏡をくいっとあげると懐かしそうに微笑んでいた。
「か、カミーユ。魔術師カミーユ」
「今は、ダン様の下で、ダン様と共にあなたを探していたただの老いぼれでございます」
「ま、待って、カミーユ」
言い終わる前に降りてきたエレベーターに押し込められ、閉まっていくドアの向こうで彼は何も言わず俺を見ていた。
真面目で純朴で、魔王であっても殺したくないと俺の考え方に賛成してくれていたカミーユだ。
ガラス張りのエレベーターに乗りながら、小さくなるカミーユを見た。
どうして魔王のそばにいるんだろう。今まで俺のことを探してくれていたって、どういうことなんだ。
もっと話がしたい。魔王のことをもっと聞きたかったよ。
エレベーターのドアを爪で引っかきながらも、戻れなかった。無残にもエレベーターは最上階のスイートルームへ向かう。
英国の装飾品やアンティーク家具、絵画なんて全く目にも入ってこなかった。
最上階の35階は、エレベーターが開いた瞬間、飛び込んできたのは壁いっぱいに描かれた、魔王と勇者の戦う場面を描いた壁画。
まさかとは思うが、俺たちをモデルにしてるとか言わないよな。
金髪碧眼の勇者の壁面は確かに前世の俺みたいだけど。
「何をしてる。はやく入ってこんか」
流暢な日本語。少しだけ巻き舌ではあるが、違和感のない日本語で安堵した。俺、英語全く話せないし。
二年待ちの超高級ホテルのスイートルーム。入った瞬間、夜景が一望できるリビングに戸惑った。
壁一面に夜を閉じ込めたようでロマンチックだ。アンティーク調の家具はセンスがいいし、二階まで抜きぬけになっている開放感ときらきらと輝く部屋に息をのむ。
「どこを見てるんだ。お前は俺だけを見ていればいい」
ソファに座って足を組みかえる男。間違いない。
金髪隻眼で、ありえないぐらい手足が長く、鼻もピノキオかって突っ込みたくなるほど高い。気品を漂わせ、高級ブランドのバスローブを着ているのが絵になっている。
だが、目が死んでいる。前世と全く一緒だ。濁ったどんよりした曇り空みたいな、死んでいる瞳。間違いなく、魔王だ。
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