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弐:最恐最悪装備の魔王VS就活のダボダボスーツ装備勇者
十
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「お久しぶりだね。ジャス魔王。いや、今はなんとお呼びした方がいいんですか、リョーナホテルのオーナー」
魔王は、俺のサイズが合っていないダボダボなスーツを、つま先から頭のてっぺんまで観察したのち、したり顔で笑った。
「愛いな」
うい? 英語かな。Oui?
「俺を脅してここに呼んだ理由はなんだ。復讐か。脅迫か」
「……愛い」
Oui?
だからなんだよ。早く本題をいいやがれ。
「俺は、お前を自分もろとも封印して、結果倒した。そのことで怒っているなら」
「怒っていない。あれは私と一緒に死にたいという君からの愛の告白だったからな。まあいい、そこに座るといい」
「俺は話し合うだけで、さっさと帰り――」
魔王に促された先にはソファではなく三角形の、跳び箱みたいな台が置いてあった。
俺にあそこに座るように言った?
「まあ、三角木馬にでも座って」
「いやだよ。あんなバランスとりにくそうなの。股間が痛くなりそうだし」
「それがいいんだ!」
急に声を荒げた魔王に戸惑いつつも、普通のソファに座ろうとすると物凄い形相で睨まれた。前世の魔王でさえ、こんなに表情が豊かではなかったぞ。
「リンリンよ。私がお前の何に対して怒っているのか分かるか」
「……俺がお前を倒したからだろ」
「全然、分かっていないようだな」
立ち上がった魔王は、革靴をカツカツと響かせながら俺の目の前まで歩いてくる。
近くで見ればやはり人形のように美しく作られた魔王の顔に見とれてしまう。
どんなに冷酷で惨忍な行動をしても信者が後を絶たなかったのは、このどの角度から見ても綺麗な造形の顔のせいだな。目が死んでいる以外、完璧なのだから。
「私は怒っている。今すぐそこで土下座して俺の靴にキスするんだ。そうしたら許してやろう」
「ふざけるな」
「いいのか? 一階で待っているユージンは私が合図すれば、執事たちに手を下すように伝えているぞ」
「っく。卑怯だ。ちゃんと話し合え」
ユージンは前世の記憶なんて持っていない。ただ純粋に可愛い男の子たちとバカンスに来ただけの無害な相手だ。そんな彼を人質にするなんて卑怯だ。
「自分より他人が傷つけられるのに耐えられない勇者様は、今すぐ土下座して私の靴にキスするしかないんですよ」
うう。悔しいけど正論だ。
それにこの世界の俺は無力だ。就職さえまともにできない。マッチングアプリで女を装って課金させたり、マッチング成功したのちドンずらしたり、金のために汚いことばかりしてきた。
だったら、ユージンのために靴にキスするぐらい、なんでもない。
膝をついて、目の前の魔王を見上げた。
人を魅了する、化け物のように美しい男を見上げた。
「なんでもするから、俺の写真も消してくれ」
「物分かりが良い勇者は好きだよ。さあ、おいで、リンリン」
再びソファに座った魔王は、膝をついて項垂れていた俺の顎を革靴の先で掬い、強制的に顔を上げさせた。
「こう言うんだ。『俺は魔王にとんでもない卑劣な行為をしました』と」
やはり。倒すと行ったくせに自分の命と引き換えに封印した卑怯な俺のことを許していないんだ。
「『魔王を虜にさせるほど可愛くてごめんなさい』と。その可愛い小鳥のさえずりのような声で言うんだ」
……あ?
小鳥のさえずり? 声変わりなんてとっくに終わってめっちゃ低い声ですが。
「『魔王を誘惑してごめんなさい』でもいい」
「えーっとまって。魔王。俺は罰ゲームを受けにきたわけじゃない。本当に前世の行為を反省して、謝りに来たんだ」
「前世の好意を反省? つまりなかったことにしたいと?」
優しく微笑んでいた魔王の目が三日月のように細められて、恐怖で固まる。
今にも首を掻ききられそうな迫力と凄みを感じる。
「なかったことにしてくれるか。俺はやはりあの時、世界を守るために仕方がなかったんだ」
「つまり、世界のための好意だったと?」
魔王の声が段々と冷たくなる。が、俺は覚悟を決めて頷く。
すると魔王が髪を逆立てながら、魔力を開放していくのが分かる。
魔王は現世でも魔力があるのか。美鈴もユージンもゲイガーももちろん俺も魔力なんて消え去っていたのに。
「ま、おう」
魔王は、俺のサイズが合っていないダボダボなスーツを、つま先から頭のてっぺんまで観察したのち、したり顔で笑った。
「愛いな」
うい? 英語かな。Oui?
「俺を脅してここに呼んだ理由はなんだ。復讐か。脅迫か」
「……愛い」
Oui?
だからなんだよ。早く本題をいいやがれ。
「俺は、お前を自分もろとも封印して、結果倒した。そのことで怒っているなら」
「怒っていない。あれは私と一緒に死にたいという君からの愛の告白だったからな。まあいい、そこに座るといい」
「俺は話し合うだけで、さっさと帰り――」
魔王に促された先にはソファではなく三角形の、跳び箱みたいな台が置いてあった。
俺にあそこに座るように言った?
「まあ、三角木馬にでも座って」
「いやだよ。あんなバランスとりにくそうなの。股間が痛くなりそうだし」
「それがいいんだ!」
急に声を荒げた魔王に戸惑いつつも、普通のソファに座ろうとすると物凄い形相で睨まれた。前世の魔王でさえ、こんなに表情が豊かではなかったぞ。
「リンリンよ。私がお前の何に対して怒っているのか分かるか」
「……俺がお前を倒したからだろ」
「全然、分かっていないようだな」
立ち上がった魔王は、革靴をカツカツと響かせながら俺の目の前まで歩いてくる。
近くで見ればやはり人形のように美しく作られた魔王の顔に見とれてしまう。
どんなに冷酷で惨忍な行動をしても信者が後を絶たなかったのは、このどの角度から見ても綺麗な造形の顔のせいだな。目が死んでいる以外、完璧なのだから。
「私は怒っている。今すぐそこで土下座して俺の靴にキスするんだ。そうしたら許してやろう」
「ふざけるな」
「いいのか? 一階で待っているユージンは私が合図すれば、執事たちに手を下すように伝えているぞ」
「っく。卑怯だ。ちゃんと話し合え」
ユージンは前世の記憶なんて持っていない。ただ純粋に可愛い男の子たちとバカンスに来ただけの無害な相手だ。そんな彼を人質にするなんて卑怯だ。
「自分より他人が傷つけられるのに耐えられない勇者様は、今すぐ土下座して私の靴にキスするしかないんですよ」
うう。悔しいけど正論だ。
それにこの世界の俺は無力だ。就職さえまともにできない。マッチングアプリで女を装って課金させたり、マッチング成功したのちドンずらしたり、金のために汚いことばかりしてきた。
だったら、ユージンのために靴にキスするぐらい、なんでもない。
膝をついて、目の前の魔王を見上げた。
人を魅了する、化け物のように美しい男を見上げた。
「なんでもするから、俺の写真も消してくれ」
「物分かりが良い勇者は好きだよ。さあ、おいで、リンリン」
再びソファに座った魔王は、膝をついて項垂れていた俺の顎を革靴の先で掬い、強制的に顔を上げさせた。
「こう言うんだ。『俺は魔王にとんでもない卑劣な行為をしました』と」
やはり。倒すと行ったくせに自分の命と引き換えに封印した卑怯な俺のことを許していないんだ。
「『魔王を虜にさせるほど可愛くてごめんなさい』と。その可愛い小鳥のさえずりのような声で言うんだ」
……あ?
小鳥のさえずり? 声変わりなんてとっくに終わってめっちゃ低い声ですが。
「『魔王を誘惑してごめんなさい』でもいい」
「えーっとまって。魔王。俺は罰ゲームを受けにきたわけじゃない。本当に前世の行為を反省して、謝りに来たんだ」
「前世の好意を反省? つまりなかったことにしたいと?」
優しく微笑んでいた魔王の目が三日月のように細められて、恐怖で固まる。
今にも首を掻ききられそうな迫力と凄みを感じる。
「なかったことにしてくれるか。俺はやはりあの時、世界を守るために仕方がなかったんだ」
「つまり、世界のための好意だったと?」
魔王の声が段々と冷たくなる。が、俺は覚悟を決めて頷く。
すると魔王が髪を逆立てながら、魔力を開放していくのが分かる。
魔王は現世でも魔力があるのか。美鈴もユージンもゲイガーももちろん俺も魔力なんて消え去っていたのに。
「ま、おう」
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