転生してマッチングアプリでサクラしてたら、魔王に見つかって求婚されました。

篠原愛紀

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参、被害者で加害者で、今はただの恋に溺れた美形魔王で。

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 広いテーブルで向かい合うことはせず、隣に座ると足を組み、色っぽく耳に髪をかけた。
「食べさせてくれるだろ、リン」
「俺はうな重を食べるのに忙しい」
「りーん」
 魔王が口を開けて目を閉じた。ただそれだけなのに、イケメンってだけで絵になる。
 仕方ないのでうな重ではなく、スッポン鍋の中の肉を口に放り込んだ。
「熱いな。ふうふうしないと御舌が火傷しそうだ」
「へえへえ」
 まじかよ、と思いつつも言えない俺は、素直に数回息を吐いて冷ましてから、口に放り込んだ。満足したのか、目を閉じてうっとりと噛みしめて食べている。
 こんな無害な魔王を見ると、ただの綺麗な男に惚れられているだけで気分は悪くない。
 そもそも破綻している性格さえ良ければ、魔王は世界で一番の美形なのではないか。
 あとしゃべらなければ、みとれてしまいそうになる。
「私のうな重も食べるといい。私はスッポン鍋をいただこう」
「スッポン、美味しいのか?」
 うな重にしか目がいってなかった俺に、魔王は頷く。
「りんは可哀想だと食べられないだろうが、どの部位も美味しいし身が艶々するほどコラーゲンが摂取できる」
 確かにこんな機会がなければ、食べられない。
 どんな味なのか気になるが、我が儘を演じた手前素直に言えない。
「まあ、そこまで言うなら俺も目を閉じるから、一口食べてやらないこともない」
「いいだろう。目を閉じろ」
 魔王の言葉に素直に目を閉じ、胸をときめかせた。
 どれぐらい美味しいのだろう。
 だけど俺の口に当たったのは、スッポン鍋の中身ではなく魔王の唇だった。
 目を開けると、魔王の整った顔が目の前に飛び込んでくる。
「隙がある。今、私に殺意があったらリンは首を落とされてたぞ」
 もう一度、キスをする。微笑んでいる魔王からは、そんな殺意はみじんも感じられない。
 でも幸せそうに隣で食事をする魔王を見ると、甘い雰囲気と罪の意識に挟まれ、息苦しかった。
 まるで食事中の水分補給のように、不意を突いてはキスをしてくる魔王のせいで、俺は二つ目のうな重の味が全く分からなかった。
 魔王こそ、二人っきりになるとキャラがブレッブレじゃんか。
 空気が甘くて、砂糖でも舞ってるのかって心配になる。
「今宵は私の好き勝手に頼んだが、明日はリンの好きなものを用意しよう。何が食べたい?」
「キャラブリリバーシブルース」
「…・・・なんだ、それは」
「それぐらい、調べたら分かるだろ、元魔王なんだから」
 もちろん、この世に存在しない料理だけど、甘い雰囲気を打破するべく仕方が無いことなんだ。
「まあよい。リンも私に聞いて良いぞ」
「まあ、そうだね。魔王は何が食べたいの」
「倫太郎☆」
 ウインクなんてして、本当に星が飛び出て俺の胸に刺さるかと思ったじゃねえか。危ない危ない。
 ワインで濡れた唇が、さっきの濃厚なキスを思い出して隣に居ると落ち着かないし、俺、さっきから変だ。
 本当に精力剤の効果があったのかな。やばいぐらいおかしい。
「た、食べ物の話だし」
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