神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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二  元上司

二  元上司 七

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「はぁぁ~」

プチプチともやしの根っこを取りながら、 ため息しか出ない。

珍しく家にいる侑哉は、大きな背中をこちらに向けて黙々と夕御飯を作ってくれている。

お母さんが居なくなってから、ちゃんと自炊してたんだな。

肉じゃがの良い匂いがする。ちゃんと出汁入れてるし。

凄い凄い、と思いつつもやしのナムル係が偉そうに思ってみる。


でも気を緩めれば……。


「合コン、行きたくない……」


負の感情が襲ってくる。

今回ばかりは自分は精一杯断ったつもりだったのに結局は流されるんだもん。


自分が嫌になるなぁ……。



「行かなきゃいいじゃん」


「そうは行かない……。仕事も絡むんだもん」


「合コン行かないとか……、俺が期待しても知らないよ?」


「!?」


「もやし終わった?」


今、さらっと言ったけど、結構爆弾発言だったよね。

き、聞き間違い?
侑哉には感謝しているし大切なんだけど、そんなこと言われたらどうしていいか分からない。

だって姉と弟なのに。
でも傍に居て欲しいからそれ以上進んで良いわけでもないし、別に侑哉だってそんな素振りは見せない。
――私が弱音さえ吐かなければ、侑哉は何も言ったりしたりしないんだもん。


「みなみ、携帯」

「ん~?」

「携帯鳴ってるんだけど」

私から浚っていったもやしを垂に付けて
電子レンジに入れながら侑哉が静かに言う。

携帯を持ち上げると、――橘部長からです。

出たくありません。

眺めているけど、一向に切れる気配がない。
部長のモットー、諦めたらそこで契約は終了の通り、電話を留守番になるまで切らない。

……ちゃんと留守番設定しとけば良かったー。
「はい……」
『遅い。保護者から不信感を持たれるぞ』

「保護者としての電話ですか?」

『いや、有沢が合コン場所の予約を間違えて取れて無かったらしくてな』

「中止ですか!?」

つい嬉しくて大きな声を出すと、侑哉が何事かと睨んでくる。片手でごめんねってジェスチャーを送りつつ橘部長の言葉に耳を集中させる。

『馬鹿か。お前と腹割って話すチャンスを逃がすかってーの。なんか良い店しらねぇ?』

合コン場所も決められないなんて。普段のエリート部長ならそんなミスしないのに、……。
とか思いつつも私もここら辺は本当に詳しくないもんなー。

『真についても大事な話なんだよ。困ったなー。俺んちのホテルでするか』

多分、あのホテルは部長の実家なのだろうけど、自分の実家で合コンしようとするのってどんな神経してるんだろう?

私が返答に困っていたら、いつの間にか料理を終え、洗い物さえ済ました侑哉が携帯を奪うと、落ち着いた声で言う。


「俺なら良い店、知ってるけど」

「ちょっ 侑哉」
奪い返そうとしても背中を上手に向けられて、取り返せない!

「うん。じゃあ後で連絡させる。今度から、ご飯の時間とか非常識な時間以外で電話して」

そう言うと乱暴に切る侑哉に、どう怒っていいのか分からない!
てか、部長に敵意を向けすぎだから!

「――みなみを見てると、イライラする! 嫌ならもっとはっきり断れば良いんだ。俺、みなみが断らないなら俺がビシっと言うから! あと」

席に着くと、テレビの番組を変えながらため息をつく。


「そんなんじゃ、みなみ、ずっと幸せにならないから! 俺とずっと居たいならいいよ! 別に!」

「ごめんってば。そんなに怒らないでよ~」

苦笑しつつも、私もお茶を継いで侑哉に渡す。


「俺の傍なら、――もう傷つかないから。楽だよ」

――いただきます。

そう言うと、話しかけるなオーラを放ちながら、侑哉は肉じゃがのジャガイモをお箸で差して、頬張る。
お母さんそっくりな味の、薄くて甘い肉じゃがを頬張りながら私も自分自身に活を入れる。
――逃げて此処に来たのに! 全部弟に尻拭いさせて恥ずかしくないのか!

――このままで本当に良いのか……。


変らないなら侑哉はずっと心を痛めてくれるだろう。
それに甘えて傷つけるか、それに甘えて一歩踏み出すのか。

――どちらにしても、侑哉の負担は多い。

「……頑張るよ」

明美先生狙いの有沢さんと元上司との合コンだもん。
進展も新鮮もないただの飲み会。仕事の飲み会だと思えばいいんだから。
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