神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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三  接近

三  接近 一

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ちびちびとピーチウーロン杯を飲んで三杯目。
ただのウーロン茶に変えられているのは、侑哉の過保護な優しさからだろうか。
となりの元上司に至っては、車なのだから珈琲ばかり。
目の前の明美ちゃんはカルアミルクを半分しか飲んでおらず、後はずっと有沢さんと談笑している。
有沢さんはビールを飲んでほのかに頬を染め始めている。
「へー、高校の友達なんだ。見えないね」
「あは。侑哉くんは、中学時代には既に180センチ越えてたみたいです。高校でも目立っててですね~」

笑顔で聞いている有沢さんが、大人に見えるほど、明美先生は侑哉の話しかしない。

「あんま他の男の話をすると、有沢がヤキモチ焼くぞ」

「ちょっ 部長!」

煙草を消しながらそう部長が言うと、明美先生は目をパチパチさせた後、有沢さんを見上げる。有沢さんは余裕の笑顔でビールを飲みつつ、ウインクした。

「ちょっと嫌だけど、明美ちゃんが一生懸命喋るのが可愛いからいいよ」


うひゃぁぁ。
気障ったらしい。
胸やけしそうになりながら、ウーロン茶を飲み干す。

というか、明美先生と侑哉が同級生だったなんて思いもしなかった。
私は別府内だったけど、侑哉は大分市内まで電車で通ってたから全然活動範囲が違うから知らなかったんだよね。
さっきの甘い笑顔。
――侑哉、もしかして明美先生が好きだったりして?

も、元カノとか?
でも、侑哉は経験なさそうだったけど。

「百面相中悪いんだけどさ、みなみ」

「!?」

椅子の背もたれに両肘をついて私を覗きこむ部長に思わず仰け反る。

「な、何ですか?」

「――抜けよーぜ?」

「は!?!?」

何を済ました顔でサラっと言うんですか!
そう言葉にする前に、部長の手が私の手を握った。

「煙草が切れたんだよ。お前を一人にすんのは悪いだろ? ちょっと付き合え」

そう言って強引に引っ張られ立たされると、直ぐに階段まで歩きはじめる。

「じゃあ、ちゃんと帰って来るからな」

「いってらしゃい」
「きゃー」

呑気な二人は止めてくれるはずもなく。

私は部長と二人、ぷちドライブをする破目になってしまった。

きょろきょろと侑哉や飛鳥さんを探したのに、見つからない。

これはいい加減一人で頑張れと、神のお導きなのかもしれない。


***
助手席の前のダッシュボートの中から、煙草を何食わぬ顔で取り出すと、ビニールをはがし始める。

田浦ビーチに来たもののこんな時間じゃ開いているわけもなく。

駐車場に止めた車に背もたれ、ちょっと遠くに見える海をぼんやり見つめる。

――本当に部長の目的が分からない。せめて連れ出すのならもうちょい夜景が綺麗な場所とか行ってくれてもいいのに。

「煙草、あるじゃないですか」
「当たり前だろ。俺が切らしたとこ見たことあるか?」

ない。部長は仕事中はスーツに匂いが付くから吸わなかったけど、ロッカーにはまとめ買いした煙草の箱があったし、休憩のときはスーツを脱いでまで吸っていた気がする。

「あの、ここまで来たのってさっきの話の続きですか? 真くんの」

「――ああ、そうそう。真は、母親が産みたくなかっただの若いだの色々問題があってさ、弁護士つけてさっくり頂いちゃったんだよな」

そうあっけらかんと言うと、真っ暗な空に煙を吐きだしていく。
煙が段々と消えていっても、私のもやもやは消えていかない。

――つまり真君の本当の親ではないのだから。

「じゃあ、なんで部長をパパって呼ぶんですか?」
「俺が引き取る予定だったんだけどさ、福岡で一人働いてるし、養子縁組って手続きがややこしくてさ。今はうちの両親の籍に入ってるから、戸籍上では義理の兄になるんだ」

複雑そうな問題を、部長はそうあっさりばっさり説明すると、急に話を変えた。

「有沢をあのお嬢ちゃんは気に入ってくれるかな?」

「……さあ。お似合いの美男美女ではありますけど」

「有沢だけはやめといた方が良い気がするんだが、今度こそ奴を信じてやりたい気持ちもあるんだよ」

「何がですか?」

色々はぐらかされても、話なんて分からないし部長が何を言いたいのかなんて想像できない。

「教えるからお前も教えろよ」

煙草を噛みながら偉そうに言う部長は、腹が立つけど怖くて言い返せない。

潮風は少し肌寒く、最低限のオシャレしかしなかった薄いセーターにデニムのジーンズだけでは寒さを誤魔化せない。
風に髪がなびき、視界の部長が所々隠れる。
隠れても尚、部長の視線は真っすぐ私を見つめたままだった。
煙草を灰皿に押し付けると、私に一歩近づいて避ける間もなく髪に触れる。
優しく、髪を整えてくれながら、顔を耳元に近づけて。

吐息のように囁く。

――教えろ。

「!?」

慌てて離れると、携帯が鳴った。
こうもタイミングが良いと監視されているんじゃないかと思ってしまう。
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