神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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六  別府⇔小倉

六  別府⇔小倉 二

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「へ?」


言いにくそうに苦虫を潰したような顔で、辛そうに言う。


「あ、有沢さんが『ピルでも処方されたんなら、ゴム要らないから生でできるね』って笑ってたから」

「…………」


傷つくより先に、ああ、言いそうだなって思ってしまった。

部長は私には、真くんの事で怒ったって言ってたのに。

――嘘つき。

明美先生は言おうか言わないか迷ったのか、自分のことのように胸を痛めてくれていた。

「教えてくれてありがとう」



暴力はどうかと思ったけれど、部長の気持ちが嬉しくて、ショックじゃないと言えば嘘だけどショックなんて吹き飛びそう。



気持ちが溢れだして今すぐ会いたく、なる……。
止められるなら、誰だってブレーキを踏める。



そうすれば私や侑哉だってぎくしゃくせずに済んだんだから。



後悔しても始まらない。

私は一歩踏み出さなきゃいけない。

***



「悪いね、みなみちゃん。入ってて」


明美先生と一緒に、一階の居酒屋に入ると、飛鳥さんがすぐに飛んできて調理場の奥を指差す。


明美先生と一緒に調理場の奥に行くと、広い廊下の向こうにスタッフルーム、裏口からはコンクリートの家が見えた。3階建てで一階は駐車場なのかシャッターが締まっている。

「こっち、こっち」


背中に竜の絵が描かれた如何にもなスタジャンを羽織り、煙草をくわえながら飛鳥さんがやってきて、ジーンズのポケットから鍵を取り出す。


鍵をシャッターに向けると自動で開いていく。




「あの馬鹿侑哉、電話したらビビって出やがらない。腹立ったから俺が買い取っておいた」


シャッターが完全に上がり、中の電気か自動で着くと、ずらりと並ぶバイクが見える。


8台全て、新品みたいに艶々ピカピカ。
お店に飾っているような美しい姿で、一台一台並べられている。


侑哉が乗っているようなごつい大型バイクは迫力がある。



「知り合いの店にドラッグスターが入荷したと聞いて見に行けば、侑哉のドラッグスターだったんでびっくりしてな。奴は電話出ないからみなみちゃんには仕事中だったのに悪かったな。

最初は売りやがった侑哉に怒りが沸いたんだがな、バイク屋に着いて、綺麗な侑哉のバイクを見て怒りが迷子になっちまった。こんなに綺麗で大事に乗ってるバイクを売る気持ちが俺には分からん」


飛鳥さんはまるで子供を撫でるかのような優しい手つきでバイクを触ると、重いため息を吐き出した。


「……私も分かりません」

やっと私と侑哉の距離も決まって穏やかになったのに。
明美先生も悲しそうな顔で困惑している。



「一昨日、バイト終わって飛び出したのはバイクを売るためだったんだろうな。慌てすぎて、あいつカバンからこんなもん落として行きやがった」

そう言って、胸元から取り出したB5サイズの封筒には、産婦人科の名前が大きく印刷されている。


私が行った産婦人科の。


受け取った中身は、私が貰った不妊治療の取り組みや、期間、そして治療費が書かれた冊子にパンフレット。簡単な診察の結果用紙。

いつの間にか私、落としてたんだ。


落として、……侑哉に拾われていたんだ。
そんな事を聞いたら居ても立っても居られずに、約束の最終までぎりぎりなのに、気づけば侑哉の大学まで来ていた。

――大丈夫。大分大学から駅は近い、から。


心は焦るのに、次から次へと不安が振りかかってくる。



大きなヘッドホンを首に下げ、友人たちから頭一個飛び出している侑哉はすぐに見つけられた。



友達に手を振り、駐輪場に歩いていくと自転車の鍵をはずそうとしゃがみこむ。



「侑哉っ!」

「……!?」


振り返った侑哉が私の顔を見て目を見開く。

どうしてこんな所に居るのかと焦ったあと、理解したのか口を手で隠した。




「……やっべ」

「やっべじゃない! 馬鹿っ馬鹿侑哉! 馬鹿! 殴らせなさいっ!」

グーにした手を振り回しながら侑哉に掴みかかると、侑哉は苦笑しながらも神妙な面持ちで私を見下ろす。




「その、不妊治療ってお金かかるんだろ? パンフレットに書いてた。大した金額じゃないけど足しにして欲しい」
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