神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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番外編  神様に、ありがとう。

番外編  神様に、ありがとう。 ③

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やっぱり疲れてたんだ。


近くには、真くんのお昼寝用のタオルケットしか見当たらない。



バサっと広げたタオルケットは、柔軟剤の良い香りがする。




それを水樹さんにかけて、ネクタイを起こさないようにゆっくり手に取る。


せめてネクタイだけはほどいてあげたいんだけど、


分からない。
どうすれば良いのかも分からない。



ぐしゃぐしゃになったネクタイをどうすれば良いのか苦戦していたら、『ククッ』と声が聞こえてきた。





「俺、今襲われてんの?」

「部長!? 違っ 起こしてすみまっ」

何から言い訳しようとしていると、ネクタイを持っていた手を掴まれ、視界が反転する。



私の目に映るのは、タオルケットな中、キスすれすれの近くに水樹さんの顔があるだけ。

押し倒されてしまった。


「また、部長って言ったのはこの口か」

唇をなぞられて、ゆっくりと頬を指先が触れる。


「きゃー! きゃー! 駄目です! 部長疲れてるのに!」


「ばーか。飯も食わず、お前を食べるためにビールで我慢してたんだ」


キスできないよう水樹さんの口を両手でガードしていたら、ペロペロと手を舐められる。


水樹さんの指が、舌が、体温が、息遣いが、たまらなく狂おしい。


求められて嬉しいけれど、やっぱ疲れてるんだからゆっくりして欲しい。




「……水樹さん」



両手で頬に触れると、そっと唇に口づけする。


仄かに香るのはアルコールだけで。



水樹さんからは煙草の臭いは消えていた。





「お前、キスとか煽ってんだろ?」


そう言って、意図も簡単にネクタイをほどいていく。


ボタンを外していく長い手も好き。



ハラリと落ちてきたYシャツを顔に寄せて匂いを嗅ぐ。



「ん? そんなの抱き締めなくて俺を抱き締めろ、ほら」

そう言われて苦笑しつつも、言う。



「水樹さんの煙草の匂い……好きでした」


苦くて、でも仕事の時の怖い水樹さんが思い浮かべられるような。


あの煙草の匂いを嗅ぐと、あの日、むしゃむしゃ食べてくれた日の部長を思い出す。



あの時から私は部長に囚われた。

――逃げ出さないって。



「煙草の匂いより俺を好きになれば良いだろ?」


それ以上は言わせない、と言わんばかりに熱くて深いキスをされる。


するすると指が触れてきてくすぐったい。


「あの」

「ん?」


尋ねようとしても何て言っていいか分からず、赤面してしまう。




「こ、ここソファで、す」


「タオルケット被ったら分からねーよ」


そう言う問題じゃ、ないです。



「――何て言うか分かるだろ?」


水樹さんはちょっぴり意地悪に、そして極上に甘く笑う。
「ベットに連れて行ってほしい……です」


真っ赤になりながらそうねだると、水樹さんのシャツで顔を隠す。



「――畏まりました。俺のお姫さま」


そう冗談ぽく笑うと私の身体を簡単に抱き上げた。

やっと水樹さんが王子さまに見えて幸せに包まれる。



好き。


好き。

――好き。


私の為に煙草を止めてまで側に居てくれる貴方が好きです。


それはちょっぴり切なくて、悲しくて、――けれど温かい。





診断結果を見せた時、下を向いてぎゅっと目を閉じる私に、水樹さんは優しく抱き締めてくれた。




『で、みなみはどうしたいの?』


諦めたくない。


辛くても限界まで頑張りたい。





『じゃ、一緒に頑張ろうな』


そう頭を撫でてくれた。


優しく包み込んでくれた。



まだ先の悩みなのに。







思い返して胸が熱くなる。


水樹さんの首にしがみついていた手に力を込める。
どうしたらこの気持ち、伝わるのかな。


好きで好きで好きすぎて、だから私たちは言葉でも確かめ会うし、身体も繋いでしまうのかもしれない。



この気持ち、ずっとずっと心に燻っていて欲しい。


永遠に水樹さんを大切に思えるように。






「あの、電気……」


「それは却下」


「む、無理ですよ! 無理ですからね!」



「さて、もう静かにしよーね」



そうキスでとろけさせられると、私も水樹さんの背中に手を回した。
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