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【01】――手の平の中の悪夢
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日は沈みかけ、辺りはだいぶ薄暗い。もうじき日がそんな時間に山道なんて通ったのが悪かった。ここらには山賊が出るなんていう噂だって出ていたというのに――、
「「「――! ――!」」」
人数は5人。
俺と明鳴は囲む山賊達に目を滑らせていく。それぞれ、山賊をやるだけあって、がたいは悪くなさそうだ。
俺はやれやれと頭をかくと、
「おい、ランラン。やりすぎんじゃねぇぞ」
「だから、私はメイメイだってば! 何度言ったら覚えるのよ! っていうか、私に限って、やりすぎなんてありえないわ。私の技は世界で一番――」
「っ、らぁ……、――!?」
会話の途中、彼らを無視している俺とメイメイの様子に隙を感じたのか、山賊の一人が、メイメイめがけて重そうな丸太を軽々と持ち上げ、振り下ろした。しかし、彼女のは気配だけで、その動きを読み喋りながらかわすと――ぽん。
「――優しいんだから。って、あんたってば、この台詞も何度言わせるのよ……」
「……?」
なんだ、と言いたげな山賊の一人。
それもそのはず。山賊の鼻へと、突然メイメイの手の平が被さっていったのだ。奇行すぎて、声を失っているのである。しかし、その形はある行動に似ていた。
――握りっ屁。
そんなイタズラがあると耳にしたことがあるが、こんな場面で、そんなふざけたことをするものなどいるのだろうか――と、彼女の行動に対して、山賊達は思っただろう、が、
「――ぐむっ!?」
メイメイに手を当てられた山賊が目を見開く。
なんてことのない動作だか、あれが――結構強烈なようだ。
そしてそれは――ある臭気を使った攻撃であり、強烈な臭いが、彼をの嗅覚を刺激したのだのである。
さらにいうと、驚くべきは、用いた臭いそのものよりも、それを嗅がせる――技術についてだ。彼女はその臭いを独自の技術を駆使し、手に握った臭いを単純に、彼の鼻へ持っていっただけでなく、手のひらに真空を作り、その中へ臭いを握り、それを彼の嗅覚の神経へ直撃させたのである。まあ――理屈はわからないが、そのやり方であれば、ただ臭いだけのニオイが――武器へと変わるようで、
「かはっ……」
メイメイの技を受けた山賊が白目を向き、地面へと崩れ落ちる。その口からゆっくりと泡を出ており、まるで即効性の毒でも食らったかのような、どうみても起き上がる気配のない様子だ。そして、苦しんだのは一呼吸分の刹那。それからは穏やかな表情を浮かべ、痙攣を繰り返すだけとなっていった。
その男へ、残りの山賊4人が、不思議そうな視線を向ける。
恐らく、まだ彼らの理解は追いついていない。彼らには、まるで、メイメイの技を受けた男が、軽く転んだだけに見えただろう。そうして、彼らは徐々に、男の様子がおかしいことに気づいていき、
「おい……」
「は? ちょっと、なにやってんだ?」
「なあ。ゴリルのやつ、口から泡吹いてないか?」
「ん? ああ、本当だ……、いったいなにが起きたってんだ……」
と、山賊達の反応はこんな具合で。
俺はやれやれと、複雑な感情の息を吐いた。呆れ、同情、カラクリを知っているからこその、彼らとは違う意味の驚き。そんな感情が、息を重くしたのである。
なぜなら、場をこれだけの状況にしたのがメイメイの――【屁】であり、それだけのことで、がたいのいい男の意識を飛ばしてしまったのだ。
初見ではないが、その技の鮮やかさと、奇行とのギャップに、俺は改めて呆然としながら、
「とりま、こうなりたくなかったら、とっとと引いちまったほうがいいぜ」
俺は山賊たちに警告する。
だが、それを受けても、彼らはぴんときていない様子だ。メイメイが男へ攻撃した形跡がないからだろう。
彼へ嗅がせた臭いは、わずかにも散ることなく、地面に転がっている男の体内に留まっているようで、感じるのは、木々の香りぐらいと言った感じだ。そんな中、山賊たちは混乱した様子で、俺とメイメイとの距離を詰めてくる。
そんな彼らを見て、俺は気の毒に思うと、
「ほんじゃ、二人は俺にまかせとけよ」
「ちょっと。なに人の獲物をよこどり――じゃなくて……」
「うるせえ。もう日が暮れてんだから、とっとと終わらせろつってんだ」
メイメイの本音がほんの少し漏れたそれを、言葉で潰す。とにかく腹が減った。街まではまだあるうえ、宿も探さなきゃならない。こんな所で、時間を食っているわけにはいかないと、少しだけ強引に返し、俺はむくれるメイメイを無視すると、
「さてと。かったるいし、俺はこっちの、弱そうな二人を、相手するか……」
俺はさりげなく四人の山賊のうち、二人だけを煽り、彼らの意識を自分へと向かせる。すると、
「ふふん、仕方がないわね。こっちの、強そうな二人は、私に任せなさい」
うまくつれた。
別に、見た目だけでは四人の力量は差はないように見える。だが、思惑どおり、
「あ? 誰が、よええって……?」
「上等だ、らぁ!」
こっちもつれた。
さて――と。
こっちの二人には感謝してもらいたいところだ。
メイメイの技は人を気絶に追い込むほどに強烈で、そのほとんどは一瞬のうちに終わるため、苦痛を感じるのはわずかといったところだろうが、手加減などはできない。
それはそうだろう。用いている臭いが屁なのだから。そして、人を気絶させるほどの彼女の屁がどれほどのものか。そんな屁をくらわされるぐらいなら、最低限のダメージで、戦意を喪失させたほうが、ずっとマシだと思う。
ようするに、俺の武術こそが――世界で一番優しいということなのである。
「「「――! ――!」」」
人数は5人。
俺と明鳴は囲む山賊達に目を滑らせていく。それぞれ、山賊をやるだけあって、がたいは悪くなさそうだ。
俺はやれやれと頭をかくと、
「おい、ランラン。やりすぎんじゃねぇぞ」
「だから、私はメイメイだってば! 何度言ったら覚えるのよ! っていうか、私に限って、やりすぎなんてありえないわ。私の技は世界で一番――」
「っ、らぁ……、――!?」
会話の途中、彼らを無視している俺とメイメイの様子に隙を感じたのか、山賊の一人が、メイメイめがけて重そうな丸太を軽々と持ち上げ、振り下ろした。しかし、彼女のは気配だけで、その動きを読み喋りながらかわすと――ぽん。
「――優しいんだから。って、あんたってば、この台詞も何度言わせるのよ……」
「……?」
なんだ、と言いたげな山賊の一人。
それもそのはず。山賊の鼻へと、突然メイメイの手の平が被さっていったのだ。奇行すぎて、声を失っているのである。しかし、その形はある行動に似ていた。
――握りっ屁。
そんなイタズラがあると耳にしたことがあるが、こんな場面で、そんなふざけたことをするものなどいるのだろうか――と、彼女の行動に対して、山賊達は思っただろう、が、
「――ぐむっ!?」
メイメイに手を当てられた山賊が目を見開く。
なんてことのない動作だか、あれが――結構強烈なようだ。
そしてそれは――ある臭気を使った攻撃であり、強烈な臭いが、彼をの嗅覚を刺激したのだのである。
さらにいうと、驚くべきは、用いた臭いそのものよりも、それを嗅がせる――技術についてだ。彼女はその臭いを独自の技術を駆使し、手に握った臭いを単純に、彼の鼻へ持っていっただけでなく、手のひらに真空を作り、その中へ臭いを握り、それを彼の嗅覚の神経へ直撃させたのである。まあ――理屈はわからないが、そのやり方であれば、ただ臭いだけのニオイが――武器へと変わるようで、
「かはっ……」
メイメイの技を受けた山賊が白目を向き、地面へと崩れ落ちる。その口からゆっくりと泡を出ており、まるで即効性の毒でも食らったかのような、どうみても起き上がる気配のない様子だ。そして、苦しんだのは一呼吸分の刹那。それからは穏やかな表情を浮かべ、痙攣を繰り返すだけとなっていった。
その男へ、残りの山賊4人が、不思議そうな視線を向ける。
恐らく、まだ彼らの理解は追いついていない。彼らには、まるで、メイメイの技を受けた男が、軽く転んだだけに見えただろう。そうして、彼らは徐々に、男の様子がおかしいことに気づいていき、
「おい……」
「は? ちょっと、なにやってんだ?」
「なあ。ゴリルのやつ、口から泡吹いてないか?」
「ん? ああ、本当だ……、いったいなにが起きたってんだ……」
と、山賊達の反応はこんな具合で。
俺はやれやれと、複雑な感情の息を吐いた。呆れ、同情、カラクリを知っているからこその、彼らとは違う意味の驚き。そんな感情が、息を重くしたのである。
なぜなら、場をこれだけの状況にしたのがメイメイの――【屁】であり、それだけのことで、がたいのいい男の意識を飛ばしてしまったのだ。
初見ではないが、その技の鮮やかさと、奇行とのギャップに、俺は改めて呆然としながら、
「とりま、こうなりたくなかったら、とっとと引いちまったほうがいいぜ」
俺は山賊たちに警告する。
だが、それを受けても、彼らはぴんときていない様子だ。メイメイが男へ攻撃した形跡がないからだろう。
彼へ嗅がせた臭いは、わずかにも散ることなく、地面に転がっている男の体内に留まっているようで、感じるのは、木々の香りぐらいと言った感じだ。そんな中、山賊たちは混乱した様子で、俺とメイメイとの距離を詰めてくる。
そんな彼らを見て、俺は気の毒に思うと、
「ほんじゃ、二人は俺にまかせとけよ」
「ちょっと。なに人の獲物をよこどり――じゃなくて……」
「うるせえ。もう日が暮れてんだから、とっとと終わらせろつってんだ」
メイメイの本音がほんの少し漏れたそれを、言葉で潰す。とにかく腹が減った。街まではまだあるうえ、宿も探さなきゃならない。こんな所で、時間を食っているわけにはいかないと、少しだけ強引に返し、俺はむくれるメイメイを無視すると、
「さてと。かったるいし、俺はこっちの、弱そうな二人を、相手するか……」
俺はさりげなく四人の山賊のうち、二人だけを煽り、彼らの意識を自分へと向かせる。すると、
「ふふん、仕方がないわね。こっちの、強そうな二人は、私に任せなさい」
うまくつれた。
別に、見た目だけでは四人の力量は差はないように見える。だが、思惑どおり、
「あ? 誰が、よええって……?」
「上等だ、らぁ!」
こっちもつれた。
さて――と。
こっちの二人には感謝してもらいたいところだ。
メイメイの技は人を気絶に追い込むほどに強烈で、そのほとんどは一瞬のうちに終わるため、苦痛を感じるのはわずかといったところだろうが、手加減などはできない。
それはそうだろう。用いている臭いが屁なのだから。そして、人を気絶させるほどの彼女の屁がどれほどのものか。そんな屁をくらわされるぐらいなら、最低限のダメージで、戦意を喪失させたほうが、ずっとマシだと思う。
ようするに、俺の武術こそが――世界で一番優しいということなのである。
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