異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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静寂の町に潜む闇

野盗と悪巧み

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 翌朝、宿を出た俺はまだ涼しさの残る石畳を踏みしめながら、馬と並んで街道へと向かっていた。
 朝靄が谷間にたなびき、太陽の光が山の端から差しこんでくる。
 馬を引きながら歩く旅人たち、荷車を押す商人の姿がちらほら見える。
 町を抜ければ、再び一本道の街道だ。

 そのまま人々の流れに沿って馬を進めた。
 谷あいの道は緩やかに上がり、左右には雑木林が広がっている。
 道端には野草が揺れ、時おり鳥の影が枝から飛び立つ。

 振り返れば、さっきまでいた町の屋根が遠く霞み、もう喧噪は届かない。
 代わりに聞こえるのは、車輪の軋む音や家畜のいななきだけだ。

 やがて、前を行く一団と俺との間に距離が開き、道は人影もまばらになった。

 ――今日も順調に進めるだろう。

 そう思った矢先、前方から金切り声のような叫びが聞こえた。

「やめろ! 荷は渡さん!」

「うるせえ、命が惜しけりゃ黙って差し出せ!」

 街道脇の林に目をやると、二頭立ての荷馬車が止められており、複数の影が剣を抜いて取り囲んでいた。
 粗末な革鎧、布で顔を覆った連中――野盗だ。
 襲われているのは、まだ若い行商人と見える男。
 必死に荷車を守ろうとしているが、丸腰ではしのぎきれないだろう。

 俺はため息をつき、馬を道の脇に繋ぎとめると剣を抜いた。

「おいおい、道を塞いでまで商売なんて。往来の妨げになるじゃないか」

 野盗たちが一斉に振り向く。
 俺が乱入したことで混乱しているようだが、血気盛んな様子だった。

「誰だてめえ」

「旅人風情が口出しするな」

 その刹那、ひとりが斬りかかってきた。
 剣筋は荒く、いかにも素人の剣技といったところか。

 俺は半歩下がって受け流し、返す刃で相手の剣を弾き上げると同時に柄で肩口を打ち据える。
 呻き声を上げて倒れこむ影。
 すかさず別の一人が突進してきた。

「……甘い」

 短く呟き、剣を横薙ぎに払う。
 金属がぶつかる音と共に相手の刃を弾き飛ばし、反動で相手の体勢を崩す。
 そこへ素早く足を運び、柄頭を鳩尾に叩き込むと野盗は地に転がった。

 残りの二人が同時に襲いかかってくる。
 俺は剣を大きく振り下ろすふりをしつつ、無詠唱で魔法を放った。
 手の平から雷撃が飛び出して、野盗たちを巻きこむ。
 しびれたことで二人の手から武器が弾かれた。
 無力化に成功して、二人は悲鳴を上げて転げ落ちる。

 数息の間に五人の野盗を無力化した。
 剣の腕も多少はあるが、やはり決め手は魔法だった。
 グラン隊での実戦を経て、俺の戦い方は洗練されていた。

「た、助かった……!」

 荷馬車の若い行商人が膝をつき、安堵の声を上げた。
 俺は彼に近寄り、怪我がないか確かめる。
 どうやら、軽い擦り傷程度で済んでいたようだ。

「町まで戻れ。あとは兵士に任せるといい」

「はい、ありがとうございます!」

 行商人を見送った後、倒れた野盗の一人が呻きながら何かを取り出そうとした。
 腰袋から覗いたのは、昨夜の広場で見た小瓶とよく似た品――。

「……やっぱりか」

 おぼろげに予想できたことだが、思わず口に出る。
 野盗の荷物から怪しい行商人が売っていたのと同じ偽薬が出てきた。
 そう離れた距離ではなく、偶然の可能性は低い。
 野盗とつるみ、旅人を狙っては薬や護符を売りつける。
 ――そんな仕組みだろう。

 俺は野盗を縛り上げて、近くの木に括りつけてから町へ戻ることにした。
 街道沿いのこの道ならどこからの兵士が見つけて連行してくれるだろう。

 
 同じ日の夕方。昨日の行商人を探すために広場にやってきた。
 すると、同じ場所で店を開いているのを発見した。
 呼びこみの声を張り上げているが、今日も客はまばらだ。

 俺は歩み寄り、低く言い放った。

「野盗と仲がいいらしいな」

 こちらの言葉に反応するように男の顔色が変わった。
 明らかにうろたえている。

「な、何のことだ」

「道で襲われた行商人を助けたら、野盗の荷から……お前の商品が出てきた」

 周囲の人々がざわめく。
 男は必死に笑みを作り、肩をすくめた。

「誤解だろう? うちの商品はよその店でも売ってる」

「……なら、兵士に確かめてもらうか」

 俺が言い切る前に、男は合図を送った。
 露店の陰から三人の屈強な男が現れ、棍棒を構える。
 用心棒あるいは野盗仲間のようだ。

「てめえ、商売を邪魔するなら容赦しねえぞ!」

 俺は深く息を吸い、控えめな魔法を使うために魔力の流れに意識を向けた。

「――なら力ずくで聞くとしよう」

 戦いは一瞬だった。
 棍棒を振りかざした一人には驚かせるように魔法の炎を向けて、体勢を崩させてから足払いをかけた。
 背後の一人には刃をひらりと返して軌道を外させ、雷撃を浴びせて無力化する。
 最後の一人は、離れた距離から足元を凍らせただけで震え上がった。
 地面に伏す三人に手の平を向けて牽制すると、彼らは抵抗をやめて降参の意思を示した。

 残された行商人は、蒼白になって後ずさった。

「ま、待ってくれ! 全部話す!」

 結局それから男は町の兵士に引き渡された。
 野盗と通じていたこと、偽薬を売り歩いていたことが証言で明らかになると、町の人々は口々に不満を述べた。

「だまされるところだった!」

「よくぞ止めてくれた!」

 感謝の言葉が俺に向けられる。
 だが俺は手を振った。

「俺はたまたま通りがかっただけです。ただ、野盗には気をつけた方がいい」

 先ほどの男を連行するためにやってきた兵士が一人で待機している。
 兵士はどこか苦い顔をして、おもむろに話し始めた。

「近頃、こうした野盗や怪しい商売人が増えていてな。リブラ周辺が荒れている影響だと聞く」

「リブラ……フレヤの祖国」

 聞き覚えのある地名に思わずつぶやいた。
 兵士はこちらを向いたまま話を続ける。

「戦いの噂もある。リブラ周辺から逃げてきた連中が流れてきているのさ」

 町人の歓声の中で、俺の胸には重いものが残った。
 目の前の事件は片づいた。
 だが、それは広がり始めた不穏の兆しにすぎないのかもしれない。

 宿へ戻る道すがら、夕焼けの空を見上げる。
 ――バラムまで、あとわずか。

 帰る場所を思い浮かべながらも、心の奥には静かな警戒心が芽生えていた。
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