22 / 555
新たな始まり
究極の豚肉を料理する
しおりを挟む
「嬢ちゃん、無事だったんだな」
「ハンクさん! お手紙受け取ってくださってありがとうございました」
ハンクはエスカを労るような優しい目をしていた。
それにしてもエスカがここにいる理由が見当もつかない。
「……エスカはどうしてここに?」
「森を調べる途中でシカ狩りをしていたら、シルバーゴブリンさんたちに弓の腕を認めてもらって。それから話すうちに意気投合してお茶をごちそうになりました」
彼女はいつも通りの様子で状況を説明した。
本人が言うように話したままの出来事があったのだろう。
「ちなみに他の冒険者は?」
「もう一人いたんですけど、偵察の途中で怖くなったみたいで逃げてしまいました」
エスカの無事が分かったところで頼みたいことがあると気づく。
「こんな時に悪いんだけど、エスカにお願いがあるんだ」
「何ですか?」
「そこの豚を解体してほしい」
俺が豚の方に視線を向けるとエスカも同じ方向を見やった。
「そんなにかからないと思うんですけど、焼肉用ですか?」
「ああ、使いたい部位を教えるから必要な大きさに切ってほしい」
「うんうん、分かりました」
肉についての説明を終えるとエスカは自前のナイフで解体を解体した。
締める瞬間は心臓に悪いので、少し離れてから様子を見に戻った。
前回のシカの時と同様に無駄のない流れるような手捌きだった。
数体のシルバーゴブリンが感心するように見入っているのも目に入る。
やがてエスカによる豚の解体は終了した。
「マルクさん、バラ肉ってこの辺りでいいですか? よいしょっと」
作業を終えたばかりのエスカが肉の塊を手渡してくれた。
俺はざっくりした指示を出していたが、料理しやすいようにあばら骨から切り離してある。
イベリア豚の肉は霜降り状になっていて肉質がきれいだった。
「完璧だよ。あとは調味料か」
塩や香辛料にハーブ類は持ってきたが、これらで食べても焼肉っぽさは出ない。
「シルバーゴブリンは料理をする習慣があるんですか?」
補佐役として待機してくれたハンクにたずねた。
「あるある。調味料が必要なのか?」
「はい。あると助かります」
「ちょっと聞いてみるな」
ハンクは近くにいたシルバーゴブリンに話しかけた。
すると、そのゴブリンはどこかに歩いていった。
「料理番のゴブリンだったみたいだな。調理場は見せられないけど、調味料自体は使わせてくれるそうだぜ」
「よかった。助かります」
しばらく待っていると、先ほどのシルバーゴブリンが植物を編んだ手提げ籠みたいなものを持ってきた。
「使っていいってよ」
「これは使えそう。色々ありますね」
筒状の容器が数種類入っている。
その中身を一つずつ確かめていく。
「これは唐辛子系のソース、次はしょうゆみたいなもので、あとは食用油と酢かな」
調味料の確認が終わったところで同じシルバーゴブリンが何かを持ってきた。
「ニンゲン、ヤキニク作ルナラコレ使ウ」
今度は別の籠に野菜と果物が入っていた。
焼肉がどのような料理か分かっていない様子だが、果物はタレ作りに使える。
それからもう一度、ハンク経由でシルバーゴブリンに頼んでみた。
必要なのは包丁とまな板に料理ができるスペース。
ハンクが上手く交渉してくれたようで、それらは全て用意された。
いざ調理開始となった段階で手元が見えにくいことに気づいた。
ハンクにホーリーライトの呪文を唱えてもらうと、森の中に光の玉が浮かぶ神秘的な光景が広がった。
ゆっくり眺めたいところだが、タレ作りを始めることにした。
リンゴとニンジンを刻んでからしょうゆみたいな液体に漬ける。
塩加減を調整しつつリンゴを足して甘みが引き立つように調整した。
今度は豚バラ肉を焼く作業に入る。
自分で焼くスタイルが本来の焼肉に近いが、ここには鉄板と焼き台がない。
長老に焼いてもらうのは断念して焼肉っぽい料理に仕上げよう。
ハンクがお玉で叩いていた鍋を借りて先ほどの食用油を引いた。
火にかけた鍋の温度が上がったところで豚バラ肉を投入する。
パチパチっと油が弾けて肉の焼ける美味しそうな匂いが広がる。
十分に火が通ったら皿に乗せ熱々のうちに用意したタレをかける。
「豚バラ肉の焼肉風、完成です」
「――ほほう、噂の焼肉がそれじゃな」
料理を待ちわびていたようで意気揚々とした足取りの長老が近くにいた。
「ここには鉄板がないのじゃからしょうがないのう」
「その件は残念ですけど、味には自信があります」
「どれどれ早速食べてみるか」
長老はすでにナイフとフォークを手にして臨戦態勢だった。
ゴブリンとは思えないような器用な手つきで肉を切り分けて、そのうちの一切れを突き刺して口に運んだ。
「う、美味い……。あの豚がこんな味になるんじゃな」
「お口にあったみたいでよかったです」
長老は料理が気に入ったみたいで次から次へと平らげていく。
そういえば、焼肉を食べさせることに意味があったのだろうか。
エスカが無事だったことで目的を忘れてしまった気がする。
とそこでハンクが代弁するように長老へと声をかけた。
「よし長老。焼肉が食えたんだし奥地へ帰ってくれないか」
「それはいいんじゃが、豚の捌き方とレシピを教えてくれんかな」
長老はモンスターとは思えないような純粋な瞳を見せた。
「解体法なら、わたしが教えられますよ」
「調理法は俺が」
「豚をしめる係と料理番は別じゃ。それぞれに教えていってくれんか」
長老は満足げな笑みを浮かべていた。
「ハンクさん! お手紙受け取ってくださってありがとうございました」
ハンクはエスカを労るような優しい目をしていた。
それにしてもエスカがここにいる理由が見当もつかない。
「……エスカはどうしてここに?」
「森を調べる途中でシカ狩りをしていたら、シルバーゴブリンさんたちに弓の腕を認めてもらって。それから話すうちに意気投合してお茶をごちそうになりました」
彼女はいつも通りの様子で状況を説明した。
本人が言うように話したままの出来事があったのだろう。
「ちなみに他の冒険者は?」
「もう一人いたんですけど、偵察の途中で怖くなったみたいで逃げてしまいました」
エスカの無事が分かったところで頼みたいことがあると気づく。
「こんな時に悪いんだけど、エスカにお願いがあるんだ」
「何ですか?」
「そこの豚を解体してほしい」
俺が豚の方に視線を向けるとエスカも同じ方向を見やった。
「そんなにかからないと思うんですけど、焼肉用ですか?」
「ああ、使いたい部位を教えるから必要な大きさに切ってほしい」
「うんうん、分かりました」
肉についての説明を終えるとエスカは自前のナイフで解体を解体した。
締める瞬間は心臓に悪いので、少し離れてから様子を見に戻った。
前回のシカの時と同様に無駄のない流れるような手捌きだった。
数体のシルバーゴブリンが感心するように見入っているのも目に入る。
やがてエスカによる豚の解体は終了した。
「マルクさん、バラ肉ってこの辺りでいいですか? よいしょっと」
作業を終えたばかりのエスカが肉の塊を手渡してくれた。
俺はざっくりした指示を出していたが、料理しやすいようにあばら骨から切り離してある。
イベリア豚の肉は霜降り状になっていて肉質がきれいだった。
「完璧だよ。あとは調味料か」
塩や香辛料にハーブ類は持ってきたが、これらで食べても焼肉っぽさは出ない。
「シルバーゴブリンは料理をする習慣があるんですか?」
補佐役として待機してくれたハンクにたずねた。
「あるある。調味料が必要なのか?」
「はい。あると助かります」
「ちょっと聞いてみるな」
ハンクは近くにいたシルバーゴブリンに話しかけた。
すると、そのゴブリンはどこかに歩いていった。
「料理番のゴブリンだったみたいだな。調理場は見せられないけど、調味料自体は使わせてくれるそうだぜ」
「よかった。助かります」
しばらく待っていると、先ほどのシルバーゴブリンが植物を編んだ手提げ籠みたいなものを持ってきた。
「使っていいってよ」
「これは使えそう。色々ありますね」
筒状の容器が数種類入っている。
その中身を一つずつ確かめていく。
「これは唐辛子系のソース、次はしょうゆみたいなもので、あとは食用油と酢かな」
調味料の確認が終わったところで同じシルバーゴブリンが何かを持ってきた。
「ニンゲン、ヤキニク作ルナラコレ使ウ」
今度は別の籠に野菜と果物が入っていた。
焼肉がどのような料理か分かっていない様子だが、果物はタレ作りに使える。
それからもう一度、ハンク経由でシルバーゴブリンに頼んでみた。
必要なのは包丁とまな板に料理ができるスペース。
ハンクが上手く交渉してくれたようで、それらは全て用意された。
いざ調理開始となった段階で手元が見えにくいことに気づいた。
ハンクにホーリーライトの呪文を唱えてもらうと、森の中に光の玉が浮かぶ神秘的な光景が広がった。
ゆっくり眺めたいところだが、タレ作りを始めることにした。
リンゴとニンジンを刻んでからしょうゆみたいな液体に漬ける。
塩加減を調整しつつリンゴを足して甘みが引き立つように調整した。
今度は豚バラ肉を焼く作業に入る。
自分で焼くスタイルが本来の焼肉に近いが、ここには鉄板と焼き台がない。
長老に焼いてもらうのは断念して焼肉っぽい料理に仕上げよう。
ハンクがお玉で叩いていた鍋を借りて先ほどの食用油を引いた。
火にかけた鍋の温度が上がったところで豚バラ肉を投入する。
パチパチっと油が弾けて肉の焼ける美味しそうな匂いが広がる。
十分に火が通ったら皿に乗せ熱々のうちに用意したタレをかける。
「豚バラ肉の焼肉風、完成です」
「――ほほう、噂の焼肉がそれじゃな」
料理を待ちわびていたようで意気揚々とした足取りの長老が近くにいた。
「ここには鉄板がないのじゃからしょうがないのう」
「その件は残念ですけど、味には自信があります」
「どれどれ早速食べてみるか」
長老はすでにナイフとフォークを手にして臨戦態勢だった。
ゴブリンとは思えないような器用な手つきで肉を切り分けて、そのうちの一切れを突き刺して口に運んだ。
「う、美味い……。あの豚がこんな味になるんじゃな」
「お口にあったみたいでよかったです」
長老は料理が気に入ったみたいで次から次へと平らげていく。
そういえば、焼肉を食べさせることに意味があったのだろうか。
エスカが無事だったことで目的を忘れてしまった気がする。
とそこでハンクが代弁するように長老へと声をかけた。
「よし長老。焼肉が食えたんだし奥地へ帰ってくれないか」
「それはいいんじゃが、豚の捌き方とレシピを教えてくれんかな」
長老はモンスターとは思えないような純粋な瞳を見せた。
「解体法なら、わたしが教えられますよ」
「調理法は俺が」
「豚をしめる係と料理番は別じゃ。それぞれに教えていってくれんか」
長老は満足げな笑みを浮かべていた。
205
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる