異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
25 / 555
新たな始まり

ナツミさんはAランク冒険者

しおりを挟む
 二人の酔っぱらいを引き連れて御者から聞いた宿に到着した。
 いいお値段がしそうな店構えだったが、この状況で他を探す気力はなかった。
 受付で三人分の部屋を取ってエスカとフランをそれぞれの部屋に入らせた。
 
 翌朝。冒険ではなく旅ということで軽やかな気持ちで目が覚めた。
 同じ敷地の食堂で朝食をとった後、支払いを済ませて宿を出た。
 宿は高台にあるのでここからは海が見渡せる。
 景色を眺めているとエスカとフランがやってきた。

「おはようございます。あの支払いは……」
「今回は予算に余裕があるから大丈夫」
「昨日は羽目を外しすぎましたわ。これはお詫びの印ですの」

 フランは金貨三枚をそっと差し出した。

「いやいやこんなには……」
「受け取ってくださるとうれしいですわ」

 彼女は俺の手のひらに金貨を乗せてしなやかな手つきで包みこんだ。

「そ、それではありがたく」

 フランからはいい匂いがして少し冷たく柔らかい手だった。

「マルクさんを誘惑しないでくださいね」
「わたくしは殿方に興味ありませんの」

 フランは艶やかな顔で微笑んだ。
 嘘ではないと思われる点については何も言えない。

「ところでアデルに会いたいんですよね?」
「そうですわ」

「俺とエスカはどうしてもというわけではないので、アデルを探しつつガルフールの町を散策するというのはどうかなと」
「その方針で問題ありませんわ」
「今日の予定はそんな感じで」

 俺たちは宿の前を離れて散策を開始した。
 町を歩き始めると日差しが照りつけてバラムよりも暑く感じられた。
 道沿いにはカフェや土産物屋などの観光客向けの店が並んでいる。
 俺たちは気になった店に入りながらのんびり歩いた。
 海岸の近くに来ると青い海と白い砂浜が広がっていた。
 
「……海の家?」

 目立つ看板にはこちらの世界の文字でそう書かれていた。
 どこか既視感を覚える店である。
 何となく気になって店に近づくとエスカとフランがついてきた。

「いらっしゃーい! ガルフールの海を楽しむならうちの店へどうぞ!」

 海の家の店員らしき男が呼びかけていた。
 店の中にはちらほらと客の姿が見える。

「ちょっと寄ってもいい?」
「はい」
「いいですわ」

 俺たちは店内へと足を運んだ。
 内装に目を向ければ記憶にある海の家そっくりだった。
 壁にはヤキソバ、カキ氷などのお品書きがある。   
 偶然の一致では片づかない仕上がり。店の責任者は転生者で間違いない。
 生ビールを飲みたいところだが、この世界で再現できないものはなさそうだ。

「いらっしゃいませー! 三名様ですかー?」

 給仕をしていた若い女がたずねてきた。

「三人です」
「こちらにどうぞー」

 俺たちはテーブル席に案内された。
 昨日のブラスリーではメニューがなかったが、ここでは出てきた。

「面白いです! 聞いたことない料理ばかり」
「イカの丸焼きなんて食べたことありませんわ」
「いやー、珍しい料理だなー」

 付き合いの長いエスカにも転生者であることを打ち明けておらず、話を合わせることにした。
 二人はヤキソバと腸詰めの串焼き、俺は素知らぬ顔で牛丼を注文した。

「ガルフールはすごいですわね。こんなセンスのいいお店があるとは」
「海の観光地っぽくていいですね。海の家って面白い名前」

 エスカとフランは楽しそうだった。
 ボロが出てても困るので、店の様子に興味がある振りをして顔を逸らす。
 視線をさまよわせているとすごいものを見つけた。
 店のカウンター付近に「Aランク冒険者ナツミ社長」と書かれたリアルな自画像があった。
 社長はこちらの世界の顔立ちでエミリアとかアメリアみたいな名前が似合いそうだ。

「フランと海で泳ごうと思うんですけど、一緒にどうですか?」
「俺は泳ぎが得意じゃないから。二人で行ってきなよ」
「それじゃあ行ってきます」

 二人はこの店で水着を買って更衣室へと歩いていった。
 ナツミ社長に興味が湧いたので店員にたずねてみよう。

「ごちそうさまでした、お会計を」
「水色の髪の女性が払っていきましたよ」

「おおっ……。ところでナツミさんに会ってみたいんですけど」
「社長ですか? 社長なら港の方で釣りしてますよ」
「分かりました。ありがとうございます」

 俺は海の家を出て、ガルフールの港へと向かった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...