異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
54 / 555
王都出立編

焼肉への評価

しおりを挟む
 調理場へ戻って、いつものように準備を始めたが、緊張を覚える自分に気づいた。
 転生前の記憶は影響しづらくなっているものの、今でも他人に評価される場面になると動悸のようなものを感じて、息苦しくなることがある。

 俺は深呼吸して息を整えてから、目の前の作業に焦点を合わせた。
 手早く肉と野菜を用意した後、タレや食器類はジェイクに任せる。

 食材をテーブルに運ぶと、ブルームは興味深そうに目を細めた。

「ほう、この肉を鉄板に乗せて焼くのだね」

「はい、そうです。十分に火が通ったら、こちらのタレで召し上がってください」

「では、焼いてみるとしよう」

 ブルームは肉を木製のトングで掴み、鉄板の上に乗せた。
 熱された鉄板で肉が焼けると、食欲をそそる匂いが立ちのぼる。

「これはよいな。見た目にも面白い」

「ありがとうございます」

「ところで、この野菜はいつ乗せれば?」

「お好きなところで。肉だけでは単色になってしまうので、色どりのためにも盛りつけてありますが、焼き野菜もけっこういける味です」

 ブルームは大臣に勧めるという目的があることで、食材や味つけなどを詳細に知りたいのだろう。
 肉の焼き加減を気にしながら、それ以外の情報にも意識が向いているように見えた。

「――そろそろ、焼きあがったようだな。頂くとしよう」

 ブルームは取り皿に焼けた肉を取ると、フォークでタレにつけて口に運んだ。
 すぐに感想を述べることなく、じっくりと味わうように咀嚼している。

「……なるほど、ジェイクがここまで来たのも分かる味だ。肉の旨味が十分に引き出されて、このタレと脂が絶妙な組み合わせをしている」

 ブルームの感想が前向きな内容で、ホッとする心地だった。
 俺と同じようにジェイクも心配してくれたようで、安心するような表情を見せた。 

「ごちそうさま。また来るねー」

 ブルームの様子に気を取られていると、先に来ていたお客が帰るところだった。
 声の様子から満足してもらえたようなので、特に問題なかったと判断した。

「どうも、ありがとうございました。……後片づけをお願いしてもいいですか」

「問題ない」

 ジェイクに片づけを頼むと、お客が後にしたテーブルへ素早く向かった。
   
 ブルームの方に視線を戻すと、今度はニンジンや玉ネギを鉄板に乗せていた。

「じっくり焼いた方が野菜の甘みが引き立つので、少し時間がかかります」

「分かった。鉄板の空いたところで肉を焼いて待とう」

 今のところ、ブルームの人柄を測りかねている。
 最初は横柄に感じる態度だったが、焼肉に興味を持ってからは穏やかになった。
 ジェイクやブルームの話している「大臣」が厳しいのか、あるいはブルームの忠誠心が高いのかも分からない。
 少なくとも、大臣へ焼肉を出そうと考えていることだけは判断することができた。

 考えごとをしながら、ブルームの様子を見ていると、焼き野菜を食べ始めるところだった。
 彼はニンジンをフォークで刺して、タレを絡ませて口にした。

「……このニンジンは甘いな。王都で売られているものよりも歯ごたえもよい」

「この町の市場で仕入れたものです」

「ふむっ、同じ野菜でもここまで味が違うのも興味深い」

 ブルームはニンジンを一度かじり、二度かじり、しっかり咀嚼して味わっている。

「お口に合ったようでよかったです」

「斬新な食べ方だが、誠に美味な料理だった。そなたには失礼だが、年輩故に食が細くてな。この量の肉は食べきれぬ」

「いえいえ、お気遣いなく」

 ブルームは口先だけでなく、申し訳なさそうな態度だった。

「代金はいくらだったかな」

「銀貨一枚です」

「これでちょうどだ」

 ブルームは懐から一枚の銀貨を取り出すと、まっすぐにこちらに差し出した。

「ありがとうございます」

「して、一つ頼みがあるのだが、聞いてはくれまいか」
 
「……どんな内容でしょう?」

「王都へ赴いて、大臣にこの料理を振る舞ってほしい」

「はぁっ、焼肉をですか」

 何となく予想していたものの、実際に言われると反応に困る。
 まず、第一に店をどうするかに意識が及んだ。

「すぐにとは言わぬ。わしは今晩この町に泊まる故、明日まで返事を待たせて頂こう」

「……分かりました。それまでに答えを出します」

「前向きな返事を期待しておる。それからジェイクよ、気が変わったら、いつでも王都へ戻ってくるといい」

 ブルームは俺とジェイクに目配せをすると、貫禄のある佇まいで去っていった。

 思わぬ出来事に混乱しそうだったが、新しいお客が来たことに気づいて、意識を切り替えた。



 その日の営業が終わると、ジェイクと後片づけを始めた。
 今日は客入りが続いて、売上もまずまずだった。
 
 俺は各テーブルの拭き作業をしながら、ジェイクに指示を出していた。
 彼は一つ言えば、二つか三つの勢いで仕事を覚えてくれるので、弟子として扱いやすいように感じた。

 二人でテキパキと作業を進めると、あっという間に片づけが終了した。

「お疲れ様でした。これ、アイスティーです」

「喉が乾いていたので、とてもありがたい」

 ジェイクにグラスを手渡すと、彼の表情が少し緩んだように見えた。
 最初に会った頃よりも距離が縮まったようで、そこまでの緊張感はないように感じている。

「うーん、定期的に臨時休業していたので、さすがに長期の休みは避けたいところなんですよ。あっ、定期的にの意味が変ですかね」 
 
「いや、それは構わないが、たしかに師匠の言う通りだな。オレが自分の店を持っていたとしても、同じことを考えるはずだ」

 ジェイクが「師匠」と呼んでくれたことに、照れてしまいそうだった。

「俺は王都に行ったことがないので、どんなところか気になります」

「ここよりも大きな街で、人の数もずいぶん多い。栄えている分だけ、色んな情報が得られるし、学べることもたくさんある」

 ジェイクは故郷を思うように、遠くを見るような目をしていた。

「一度、行ってみようかな……」

「もし、王都に行くなら、その間はオレが店を切り盛りする」

 何気なく呟いただけなのだが、ジェイクが真剣な顔でこちらを見ていた。

「うーん、そうですか。もう少し考えさせてください」

「うん、問題ない」

 最初はそこまででもなかったが、俺の中で王都へ行くことへの気持ちが少しずつ大きくなっていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...